第18話同じ穴の狢

 「授かりもの……ですか?」


 机に座りながら、さもいつもの授業かのように聞き返す。

 

 「そう。まあ、別にそう伝わっているだけで、真実かは分からないんだけどね」


 教壇に立ちながら、体験したこともない『教員』のように振る舞いながら、返答する。

 その『教員』は続けて、


 「星印サインは、吸血鬼全てに備わっている。必ずね」


 「じゃあ、星印サインにはどういったものがあるんだ?」


 大原が口を開き、至らぬところを指摘する。が、カトルスの方は何故か嬉しそうだった。


 「いい質問だ。星印サインは種によって異なる。現在確認されてるのは88。大きい熊とかも、人と何ら変わりない奴らも、狼なんかも……ね」


 『狼』という単語にスグルの眉が少しピクリと動く。

 レンが遭った、あの熊男やカメレオンだってこの類いであろう。

 少し口早になりながら、先生はさらに詳細を語る。


 「そうゆう奴らには、各々種としての名前がある。だけど、一体誰が命名したのかも分からないんだ。全く不思議なもんだよ。じゃあ次は、星印サインの特性についてだけど…………」


 「………ッ……」


 気づけばスグルはそうやって自身の下唇を噛んでいた。

 その後も先生の授業は続いた。具体的に何をやったかと言うと、散々言っていた実技訓練、果ては絶対に戦いであろう社交会でしか用いないような礼儀作法だった。

 だが、スグルにはそんなことはどうでもいい。

 いつも受けている学校の授業のように、すんなりと頭の中に入ってこない。まるで何かに弾かれているという気持ちの悪い感触がスグルにも伝わってくる。

 でも、その何かというのはスグルにはもう分かっているはずのものだ。

 なのに、それを表に出すのはおろか、深層心理で認めることすら憚られる。  

 それぐらい囚われていた。

 学友を殺した、悪獣に。

 けれども感情の整理をする時間はない。  

 何故なら彼は神の宣う『英雄』なのだから。

 


 視点は打って変わって、侘しい街のギルドの広場。レンの居るところだ。

 

 「…………というわケね」


 椅子に座りながら向かい合い、レンは長々と話を聞いていた。だが、意外にも退屈はしていない。内容が内容だからであろうか。

 具体的に言うなら『星印サインには不思議な力がアる。姿形が生き物でも、人でも何かしら奴らは人間を超えた持っテるんだ』というものであった。

 内容としては数時間前にスグル達が先生から教えられたことと大差はないのだ。

 だが、レンにはスグルのような素直さがないので、気になったことはズバズバと聞いてくる。

 もちろん、『黙ってただ黙々と話を聞くのが素直』ではないのならもっと違った言い方になるだろう。

 

 「でもあいつらって、人の姿もしてましたけどあれは違うんです?……あれ?ない」


 生暖かさしかもう感じられない紅茶が入っていた鉄器を持ちながら、頭にツラツラと記憶が蘇っていく。あの狼へと姿を変えた小汚い男や熊男になった身長タッパのでかい男だったりである。

 これに対して、羊飼いは答えなかった。というより、先に答えようとした者が居るのだ。


 「あれは星印サイン関係ないないわよ。というより人の形をした姿、何かしらの形をした姿。どっちも正しいの。人を喰う為の擬態なんてものじゃないわ」


 それはカプリの口から発せられたものだった。


 「お〜よく知ってルねぇ。まだ"見た目"は俺とそう変わらないのに」

 

 『俺とそう変わらない』という発言に若干不満げなカプリに羊飼いは、『流石!』という顔を向けていた。

 その調子を崩さず、ふと窓を見る。

 外の様子はもう夕暮れであり、あと数十分でお天道様は顔を出さなくなる。

 それを確認したら、羊飼いは急に立ち上がり、こう言った。

 

 「勘定だ。外に出るヨ」

 

 そう言った後、小走りで受付の方へ向かっていた。

 レンは『なんで?』という顔をしていたが、カプリと黙ったままのブラッドはその真意を理解していた。

 ブラッドは真意を"理解した上"で黙っていた。



 ギルドから出ると昼間と同じでやっぱり閑散としている。その様子はさながらゴーストタウンを思わせる。

 何もない街を眺めていることに何の意味があるか分からず、レンは不思議な顔していた。それは、言葉として出ていった。


 「で、なんで外に出てきたんですか?何もありませんけど」


 不思議な顔が怪訝な顔なになってきているレンに、


 「はい、これ」

 

 そう言いながら小袋を渡してきた。

 中身は四角柱の形をした硬いもの、ということしか分からない。

 

 「なんなのよ、これ」


 カプリも小袋の中身に興味が湧いたようで前へ乗り出してくる。だけどもそれは、羊飼いがレンに何をさせたいか、を知っているからこそのものだった。

 次の瞬間、カプリは羊飼いのこの行動の意味が分かった。

 シュン、という風を切る音とともに何かが通り過ぎて行った。そして、レンの手からは小袋は消えていた。カプリにはそれが見えていた。

 レンはカプリのように"信じられないぐらいの速さ"で動く何かがなんなのかは分かっていないが、気配は感じ取ったので、咄嗟に前にいるカプリを引き戻し、その目の前に手を突き出す。

 小袋が無くなるのを確認した羊飼いは、フッ、と少しニヤけながら、冷静に言った。


 「奴らガ、このシェラタンをこんな寂しい街にした張本人達だ。さぁ、頑張れよ。同じ穴のハンターくん」

 


 

 

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