見えないデスゲーム 〜日常という名の生存競争〜

人とAI [AI本文利用(99%)]

## プロローグ

俺の名前は佐藤陽太。高校2年生の、どこにでもいる普通の男子だ。


特筆すべき特技もなければ、目立った欠点もない。成績は中の上、運動神経は平均的、友人関係も悪くはないが特別親しい奴もいない。要するに、クラスの中で「あ、あいつか」程度の認識しかされていない存在だ。


それは俺が意図的に選んだ生き方だった。


中学時代、少しだけ目立ったことがある。英語のスピーチコンテストで校内優勝して、市の大会に出場したんだ。その時、クラスメイトからの視線が変わった。羨望、嫉妬、そして何より「期待」。


「佐藤ってすごいんだな」

「次も頑張れよ」

「市で優勝したら県大会だろ?楽しみにしてるぜ」


その「期待」が、俺には重荷だった。結局、市の大会では緊張しすぎて失敗。みんなの前で「佐藤、意外とダメだったな」と言われる屈辱を味わった。


あれ以来、俺は決めたんだ。目立たなければ、期待もされない。期待されなければ、失敗する恐怖もない。ただ平穏に、波風立てず生きていこうと。


そんな俺の平凡な日常が、あの日、突然終わった。


---


5月のある平日、いつも通りの授業が終わり、下校時間が近づいていた。


「おい、佐藤!今日の数学の宿題見せてくれよ」


教室を出ようとしたところで、同じクラスの田中に声をかけられた。特に仲がいいわけではないが、時々宿題を写させてほしいと言ってくる程度の関係だ。


「ああ、いいよ」


カバンから数学のノートを取り出し、田中に渡す。彼は満面の笑みを浮かべて、


「さすが佐藤!いつも助かるわ!明日の朝返すな」


そう言って、急いで教室を出ていった。


窓の外を見ると、夕焼けが校庭を赤く染めている。部活動をしていない俺は、このまままっすぐ帰るだけだ。別に急ぐ理由もないし、寄り道する予定もない。ただ、いつも通りに家に帰って、夕飯を食べて、宿題をして、寝る。


そんな日常の一コマ。


教室を出て、靴箱に向かう途中、ポケットの中のスマホが震えた。LINEか何かの通知かと思ったが、画面を見ると見知らぬアプリが勝手に起動していた。


「なんだこれ…?」


画面には単純な文字だけが表示されていた。


『選ばれし者へ。本日放課後、学校の裏門に来ること。来なければ処罰対象となる』


冗談か?誰かのいたずらだろうか。インストールした覚えのないアプリが、こんなメッセージを送ってくるなんて。


削除しようとしたが、アプリは見つからない。設定を開いても、アプリ一覧にも表示されていない。再起動しても同じだ。メッセージだけが画面に残り続ける。


「おかしいな…」


「何がおかしいの?」


突然の声に、思わず体が跳ねた。振り向くと、クラスの人気者、高橋美咲が立っていた。


クラスの中心的存在である彼女が、俺みたいな地味な奴に話しかけてくることなど、ほとんどない。


「あ、いや…なんでもない」


美咲は首を傾げたが、それ以上は追及せず、友達のところへと戻っていった。


「ねえねえ、美咲、この週末の映画どう?」

「私も行きたい!美咲と映画、楽しみ〜」


女子たちの明るい声が廊下に響く。あんな風に周りから慕われる存在は、俺には想像もつかない。


靴を履き替えながら、もう一度スマホを確認する。

メッセージはまだ消えていない。


『選ばれし者へ。本日放課後、学校の裏門に来ること。来なければ処罰対象となる』


「処罰対象」って何だ?

普通に考えれば、誰かの悪ふざけだろう。でも、見知らぬアプリが勝手に起動して、削除もできないというのは、かなり高度なイタズラだ。


「行くのか、行かないのか…」


結局、好奇心に負けた俺は、裏門へと足を向けていた。誰かのいたずらなら、そいつを問い詰めてやる。そう思っていた。


---


学校の裏門は、ほとんどの生徒が使わない。正門と比べて遠回りになるし、監視カメラも設置されていないため、先生たちからは「使わないように」と注意されている場所だ。


裏門に着くと、そこには誰もいなかった。


「やっぱりいたずらか…」


そう思った瞬間、世界が歪んだ。


視界が真っ白になり、体が宙に浮いたような感覚。次に意識が戻ったとき、俺はまったく見知らぬ空間にいた。


白い部屋。無機質な椅子が円形に並べられ、その中央には一つの演台がある。


そして、俺だけではなかった。見知らぬ顔が、20人ほど。みんな制服を着た高校生のようだ。男女比はほぼ半々。全員が俺と同じように困惑した表情を浮かべている。


「何だここ…?」


誰かがつぶやいた瞬間、演台の上にスクリーンが現れ、一人の中年男性の姿が映し出された。スーツを着た、50代くらいの男性。厳格な表情で、眼鏡の奥の目は鋭く光っている。


「皆さん、ようこそ。私は、皆さんからは『教授』と呼ばれています」


その声は、妙に落ち着いていて、大学の講義でも始まるかのような雰囲気だった。


「これから皆さんには、特別なゲームに参加していただきます」


その言葉に、部屋中がざわめいた。


「ゲーム?何言ってんだ?」

「冗談じゃない、帰らせろ!」

「誘拐か?警察呼ぶぞ!」


様々な声が上がる。隣に座っていた女子高生らしき少女は、震える手でスマホを取り出そうとしていたが、ポケットを何度探っても見つからないようだった。俺も自分のポケットを確認する。スマホはない。


教授は、そんな声を無視して続けた。


「このゲームのルールは単純です。与えられたミッションをクリアし続けること。失敗した者、ルールを破った者は、処罰の対象となります」


「処罰って…何だよそれ」


俺の隣にいた、がっしりとした体格の男子が声を上げた。


教授はにっこりと笑って、恐ろしい言葉を告げた。


「死です」


部屋が凍りついたような静寂が訪れた。


「冗談でしょ…?」

「馬鹿な…」

「こんなの犯罪だぞ!」


教授は続けた。


「皆さんの体内には、すでに特殊な装置が埋め込まれています。これにより、ルール違反や敗北時には、自然な死を迎えることになるでしょう」


そう言って、教授は自分の左腕の内側を見せた。そこには小さな傷跡があった。


俺は慌てて自分の左腕を確認する。同じ場所に、小さな傷があった。いつの間に…?


「これは…」


「そう、皆さんが気づかないうちに施術は完了しています。この装置は、心臓麻痺、脳卒中、突然の事故など、様々な『自然な死』を引き起こすことが可能です」


教授の言葉に、部屋中から悲鳴や怒号が上がった。


「最も重要なルールは、このゲームの存在を部外者に漏らしてはならないということ。違反した場合、即座に心臓麻痺で死亡します」


「嘘だ!こんなの信じられるか!」


一人の女子が叫び、ドアへと走り出した。だが、ドアはなかった。壁だけが彼女を待っていた。


「出口はありません。皆さんには今、説明を聞いていただくだけです」


教授は冷静に続ける。


「ゲームは明日から始まります。最初のミッションは、皆さんのスマートフォンに通知されます。ミッションの内容は日常的な行動がほとんどです。例えば、『特定の時間に登校する』『テストで特定の点数を取る』など」


「そんなの簡単じゃないか」


誰かがつぶやいた。


「ああ、一見簡単です。しかし、条件は常に変わります。そして、最も条件から外れた参加者には処罰が下ります」


教授は再び微笑んだ。その笑顔が、妙に不気味だった。


「皆さんは日常生活を送りながら、このゲームに参加することになります。友人や家族には気づかれないよう、普段通りに振る舞いながら」


「なんでこんなことを…」


俺の口から、自然と言葉が漏れた。


教授は俺を見つめ、答えた。


「研究です。現代の若者が、極限状況下でどのような選択をするのか。協力するのか、裏切るのか。生き残りのために何を犠牲にするのか」


「人間実験か…!」


誰かが怒りの声を上げた。


「呼び方はお好きにどうぞ。ただ、ルールに従わなければ生き残れないことだけは覚えておいてください」


教授は時計を見て、


「説明は以上です。これからそれぞれの日常に戻ります。最初のミッションは、明日の朝、皆さんのスマートフォンに通知されます。それでは、健闘を祈ります」


男性の姿が消え、再び視界が真っ白になった。


---


気がつくと、俺は学校の裏門の前に立っていた。時計を見ると、たった5分しか経っていない。


「夢…?」


そう思いたかった。だが、左腕の傷跡は紛れもなく実在していた。


ポケットを探ると、スマホが戻っていた。画面には新しいメッセージ。


『第一ミッション:明日、午前8時15分ちょうどに校門を通過すること。早すぎても遅すぎてもアウト。最もタイミングが外れた参加者には処罰が下る』


冷や汗が背中を伝った。これは現実だ。俺は本当に「デスゲーム」に巻き込まれてしまった。


「冗談じゃない…」


空を見上げると、夕暮れが深まり、最初の星が瞬き始めていた。いつもと変わらない空。いつもと変わらない風景。


だが、明日からの日常は、命を賭けたゲームになる。


俺の平凡な生活は、その日を境に、恐ろしいゲームへと変わってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る