あくガール
秋犬
1 将来の夢
『将来の夢は何ですか?』
小学生のとき、授業参観で作文を読まされたことがある。
『サッカー選手になって、Jリーグで活躍したい』
『僕の夢は映画監督になることです』
『お嫁さんになって、自分でデザインしたドレスを結婚式で着たいです』
『ピザ職人になるためにイタリアに修行に行きたい』
『アイドルになってセンターになって紅白に出る』
それぞれ思い思いの作文が読まれる中、俺はどうしていいのかわからなかった。まさか発表するなど思ってもいなかったから、時間内に適当に書き殴っただけの作文を読まなければならないのだから。
『ほら、早く読みなさい』
前に立たされて担任に促され、俺は渋々読み上げた。
『僕の将来の夢は、仮面ライダーになることです。何故かというと、仮面ライダーは強くてかっこいいからです。僕も仮面ライダーになって、弱い人を助けたいです』
その後の空気のことはあまり覚えていない。だから読みたくなかったんだ、と強く思ったことだけは覚えている。後ろに並んでいる知らない家の大人も笑いを堪えていて、その中に俺の親がいないということに何だか安心したのは確かだった。
***
「夢があるっていいよね」
行為の後、マチアプで知り合ってとりあえず付き合っている女が話しかけてきた。
「あいはぶわどりーむ、って奴?」
俺は知っている決め台詞を言ってみる。別に俺に夢はない。あるとすれば、金と女が欲しい。名誉は、出来れば欲しい。そのくらいだ。
「そんな大層な夢じゃないけど、でも将来の計画性があるって素晴らしいよね」
こいつの名前はサヤカ。今のところ本名かどうかもわからない。真剣に交際しようと決めたら素性を話す、ということにしている。だから今はお試し期間。映画見て飯食って寝て、それを数回やって相性を見ているところ。今のところ、俺は悪くない女だと思っている。
「計画性、ねえ……」
基本的に、それは俺が嫌いな言葉だった。どいつもこいつも女はいつも「将来は」「家族の計画は」「年収が」そればっかり。俺としては、今こいつがどう思っているのかを知りたい。明日のことは明日考えればいい、それが俺の哲学だ。
「どう思ってるの、将来」
俺の将来。今勤めている会社で定年まで働き、その後はなんかシルバー雇用かなんかで細々と地域と関わり、最終的に貯めた金で老人ホーム。もし結婚できるなら、子供とかそういうのはその時考えようと思う。
「そうだねえ……結婚、できればしたいね」
「私も」
サヤカが絡みついてくる。まだ足りないのか、こいつは。
「結婚したら、何したい?」
「やっぱり、新婚旅行?」
「どこ行きたい? 私、ニューカレドニア」
「いいね。天国に一番近い島」
「じゃあ、行こうか」
俺たちは今から天国に行くことにした。
俺はぼんやりとこの後のことを考える。結婚となると、何をすればいいんだろう。毎晩サヤカと寝て、ガキを作って、夜泣きと戦い、仮面ライダーやプリキュアを見て、一緒にサッカーをやったりピアノの発表会なんかに行ったりするんだろうか。
まあ、その時になったら考えればいいか。俺としては資金面が少し不安だが、こいつも働いているみたいだし、なんとかなるだろう。
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