攻略

 見舞いに来てくれたみんなは街の宿屋に泊まるつもりだったらしいが、グラント領の宿は冒険者や商人用の宿で貴族向けとはいえないし、王太子に来られては宿屋の方も困るだろう。

 全員、屋敷に泊まってもらうことになった。

 ミヤの予想通りというべきか。テレサ侍女長がきちんと準備を整えていたのも驚きだ。護衛の人たちにもきちんと部屋を割り振ってくれた。


「ありがとう。私の大事なお友達だから、よろしくね」

「お任せください」


 こんな田舎にお客様が来ることはまず、ないのに

きちんとできるテレサに侍女たちは本当にすごい。


「今日はヴィオラのためにこんな田舎まで来ていただき、ありがとうございます」


 晩餐はハイラムの挨拶で始まった。

 ジョージが手土産に持ってきたワインはきっと、ものすごく上等なものなのだろう。ハイラムは一口飲んで、目尻を下げた。隣に座った王太子がワインの説明をしている。

 ライルは母様の能力に惚れ込んだのか、風魔法について聞いている。

 レイフは道を作ったジョセフィンに懐いたようだ。

 イアンはまわりの状況を見て、会話が滞りなく続くようにさりげなくサポートしている。


「どなたのことが気になっているんですか?」


 トムに聞かれて、ヴィオラは笑った。


「みなさんがお見舞いに来てくれて、幸せだなあと思っていたんです」

「あなたが倒れて、本当に心配していたんですからね」


 トムが一瞬、キラキラとしたイケメンに見えた。すぐに普通の容姿に戻ったが、どう見ても貴族なのに平民と言い張っているように外見も偽装しているのかもしれない。


「外堀を埋めるより、直接、攻略するのが私の好みだから」

「え、何?」


 ヴィオラにはトムの小声が聞き取れなかった。


「ヴィオラさんは外国旅行に興味がありますか?」

「あります!」


 ゲームの強制力に負けそうになったら、外国に逃げようと思っていた。悪役令嬢として断罪されるストーリーは変えることができたと思ったのに、呪いをかけられるようなら、やっぱり、逃げ出した方が良いのもしれない。


「ここの食事ほど、美味しいものは食べられないかもしれませんよ」


 ピーターの言葉にトムがジロリとにらんだ。


「でも、新しい食材に出会ったら、また、もっと、美味しい料理ができるかもしれませんよね」


 ヴィオラは白身魚のフライにたっぷりとタルタルソースをつけて食べた。

 マヨネーズを開発してよかったと思える美味しさだが、グラント領は海がないので、川魚だけになってしまう。


「海に行ってみたいな」

「案内しますよ」


 トムの言葉にヴィオラが飛びつくところ、ハイラムが口をはさんだ。


「ヴィオラ、お前、この中の誰と付き合ってるんだ」

「な、何言ってるの」

「まだ、許さんぞ。ん、付き合ってない? じゃあ、誰が好きなんだ」


 いきなり、何を言い出すのかと思うと、顔が赤い。いいワインだからと飲みすぎたのだろう。


「みんな、友達だから。付き合うとか早すぎです。初恋だって、まだなのに」


うわ、最後の一言が余計だった。なのに、ハイラムの機嫌がよくなる。


「そうだな。ヴィオラはパパと結婚するって言ってたからな」

「ちょっ、やめて」


 ヴィオラは慌てた。


「せっかくだから、ヴィオラさんの小さい頃の話を聞かせてください」


 ジョージ王太子、なんてことを言うの!

 転生に気づいてからの数年は年相応のことができなくて、黒歴史だ。


「それより、学園でのヴィオラの話を聞かせてもらえませんか」


 マドラの言葉にわっとみんながしゃべろうとして、声が重なった。


「まずは私の謝罪から始めさせてください」


 場を仕切ったのはイアンだった。入試の不正を疑ったことを丁寧に謝罪し、それから、決闘の模様を話す。

 その次はライルが武闘会のことを。トムとピーターがキャンプの話をした。

 小さい頃の黒歴史よりましかと思っていたが、結局、恥ずかしい。

 レイフは目をキラキラさせて聞いている。


「私もヴィオラの活躍が見たかったわ」


 召喚士との戦いの話にジョセフィンはほうっとため息をつく。


「私もジョセフィンの活躍が見たかった。そうだ、今晩は女子会しない?」

「女子会って何?」


 ヴィオラは慌てた。転生前の知識がつい、言葉に出てしまった。


「女子だけでおしゃべりする会ってこと」

「ああ、お茶会のことね」


 ちょっと、イメージは違うけど。


「そんなことして、もう、体は大丈夫なの」

「もちろん。みんなが来てくれたから、元気になったみたい」


 ヴィオラはガッツポーズをとってみせた。


「なかなか、攻略は難しそうだ」


 トムがぽつりとこぼした。

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