第2話(前編) 神社で開催される手作り市(京都)

ワイシャツとジーンズ姿の長身美女がコンビニの冷凍コーナーを凝視していた。


「お、期間限定アイス。晴明、奢ってくれよ」


そう言ったのは、見た目はスタイリッシュな褐色美女。

だが、その正体は悪魔である。


名は72柱が一つのバルバトス。

そして、晴明はバルバトスと共にコンビニに来ていた。


バルバトスは最近現界しては日本観光をしつつ、たまに俺らの家に遊びに来る。


そして本日、セイルは家で寛いでおり、俺ら2人はSwitchの【桃鉄】で負けた罰で、桃鉄勝者セイルのおつかいに来ていた。


「バトー、そんくらい自分の金で買えるだろ」

「おいおい、俺らの君主は随分ケチだな」

「恐れ高い偉大なる悪魔が100円くらい買えるべ」


アイスコーナーに目を向ければ、バルバトスが興味を向けているのはガリガリ君梨味。


奢るのは別に良い。

だが、命代償に願いを聞かれるのも困るが、大悪魔にガリガリ君ねだられるのもイメージ像がなあ……


そして、イメージ像といえば、桃鉄でのセイルだ。


「セイルのやつ。うんこカードの使い方上手過ぎだろ」


桃鉄を3人でプレイしていた。

そして、序盤から終盤まで、セイルが何故か兎角うんこカードを引き当て続けた。

それはもう盛大に。呪われてるのかと言わんばかりに。


2年目くらいだっただろうか、新幹線カードを狙いに行って、結果セイルのカード枠がうんこ一色で染まった時があった。


『『ギャハハハハハハハハハハ!』』

『運が付いてるなセイル……ふふ』『動物園のゴリラか、カバの背後霊が憑いてるんじゃねーの』『何でその2匹?』『バーカ。ゴリラは糞投げて、カバはマーキング兼ねて糞撒き散らすの知らねえのか?』

『なーるほど。賢くなったわ』

『『ハッハッハー!』』


2人して大爆笑でからかってたら、


『……………(ぷちん)』


その後、ブチギレたセイルが恥をかなぐり捨てて、終始うんこカードとバキュームカードを巧みに使った。

そして、2位(バルバトス)と40億以上の差で優勝した。


「あんなにガッツポーズするセイルは初めて見たわ」

「ああ……後半無表情でほぼヤケクソだったしな……………」

「……………あ、うんこだけに?」

「狙ってねえ。それ以上言ったら殴る」


脳みそレベル低い会話をしているが、それもカードの使い道など頭をフル回転させた結果だろう。


ゲーム終盤、軒並み線路がウンコまみれであった。

牛舎かっていうくらい必ず画面端にうんこが見切れていた。


「あんなにバキュームカードを取り合う桃鉄、人生初だったな」

「新幹線カードより輝いて見えたしな。今思うとどうかしてたぜ」


とまあ汚い話が続いてしまったが、今は疲れた頭に糖分をチャージをしてやりたい。

セイルのおつかいは割り勘で負担することになっているが────、


「そういや、最近仕事に就いたって聞いたけど何してるん?ラウンドガール?覆面プロレスラー?」

「何でその2択なんだよ……」


どっちも似合いそうだな思って。

SNSがある時代、絶対爆発的な人気出るだろうし……とは思いながらも口にせず、晴明は適当な言い訳を並べる。


「どっちかというとバトー闘い好きじゃん。主に血が出る系の」

「好きだな」

「ぴったしじゃん」


バルバトス、悪魔界で1番律儀だからファンサもしっかりしそう。てか、絶対するだろ。


「まあ冗談はさて置いといて、仕事は何なん?」

「ハンター」

「……パードゥン?」

「Hunter」

「ネイティブで発音しろって意味じゃねえ。え、猟師?山の」

「そっちで合ってる。海はやった事ないから気にはなるが、現代社会だと山の方も人手求められてるからな」


「ほらよ」とバルバトスは自分の財布から狩猟免許を見せる。

ちゃんと合法だ。合法の猟師だ。


「猪や鹿を捌いて、ジビエ料理専門店に卸して今は金を稼いでんだよ」

「天職じゃん」

「いや、順調に狩れるのは良いが、骨が無くてな」


そう言うバルバトスは不完全燃焼なのか何とも言えない表情。


「どこかでディルムッドでも殺せるほどの猪が居ねえかな」

「そんなんいるか日本に。………いや、神の遣いの猪がいたわ」

「…………へぇ」

「おい、間違っても狙うなよ。奈良園の鹿さん轢いたよりも事後処理面倒くさくなるから」


ちなみに、「早起きは三文の徳」と言う言葉は、「早朝に起きた事で自分の軒先で奈良の鹿が死んでるの見つけて、隣ん家に死体移動して押し付けできたよ!」から出てきた言葉とのこと。

それほど神のお遣いさん亡くなった時は面倒くさいの極み。


「まあ、就職祝い兼ねてアイスぐらい買ってやんよ」


フラストレーション溜まってるなら、ガス抜きしてやんないとな。

今度予定合えば討伐系の仕事に連れてくかと思いながらも、使い慣れた小銭入れをポケットから取り出す。


「祝いでアイスだけは無いよな、晴明」

「しゃあねえ。今度酒でも奢るか、ストレス発散できる機会用意するよ」

「そうこなくちゃ」


ガリガリ君梨味を2つとセイルにおつかいで頼まれていた丸ごとバナナをレジに置く。

財布から金を取り出そうとすると、


───ガチッ、パキン!


「ん?……マジかい」


お気に入りの財布のチャック部分が壊れた。





「というわけで、来たぜ下鴨神社!」

「「何故?」」


財布が壊れてから3日後。

晴明はセイルとバルバトスを連れて、京都の下鴨神社近くの鴨川デルタに来ていた。


まだまだ日差しの暑い中、親子連れが川に入り、大学生らしき若者達は川を横断している飛び石の上を意味もなく渡っている。


他愛無い会話をしながら、川を離れ、神社へと向かう。


「神社って、財布の供養にでも来たのか?」

「それはもう家でやった」

「やってんのかよ。冗談だったんだが」

「……リビングにカピカピの少量のお米と線香があったのはその為か。では、今日は何しにここへ?」

「今回は小銭入れを買いに来ました!」

「神社にか?」

「神社製の財布ならご利益は間違い無さそうだな」


意外と稼げそうだな、その案。

競馬ファンあたりに人気出るのでは。


しかし、残念ながらこの神社では財布は売られていない。


「今日は神社の手前に用があって来たんよ」

「ていうか、俺ら入れんのか?」


気づけば鳥居の前。


バルバトスが鳥居の奥、下鴨神社の方向を向く。

その視線は神社のある方向を見据えるというよりも、もっと別のナニかを観ているようだ。


「この感じ、神霊マジのが居るだろ」

「居るぞ。裏で土御門管轄してる場所だからな、ここ」

「冬華の家か。オフの日にわざわざ敵対する気は無いぞ、私たち」


「負ける」という言葉が一切出ないあたり、やはり大物だこの2人。


「大丈夫大丈夫。これ付ければ行けるから」


晴明からスッと手渡されたのは、



保育園で園児が着けるような花形名札ワッペン。



「おい、ふざけてるだろ我が主」

「うん」

「認めたぞ、コイツ!」


ふざけてるではなく、洒落っ気と言ってほしい。

効果もしっかり保証つきだぞ。


「うわ。見た目に反して、しっかり魔術練り込まれてやがる」

「それとなくムカつくな」

「なんでだよ。これが身分証明書代わりになって、神さんも通してくれるから」


変に隠さず、面通しをしっかりすること。これ大事。


「それだけで良いのか?」

「基本日本の神は寛容だからな」

「これは寛容ボーダーレスというより、無法アンタッチャブルではないか?」

「ま、変に気に入られたら死んでも纏わり付かれるけど」

「最悪だなオイ」


とりあえずそれぞれの服の裏に晴明製名札ワッペンを付けて、鳥井へ一歩踏み出してくぐる。


特に無し。


「……本当にこんなんで良いのかよ」


どこか納得のいかない渋い表情をする2人を連れて、晴明は神社へ続く道へと進む。


鳥居をくぐってしばらくコンクリートで舗装された道路を進むと、林が見えてきた。

そのまま林の中を進むと、木陰により日差しの暑さが和らいでいく。


「……何かやってるな」


神社はまだ見えておらず、まだ木々が生い茂っている。

その木々の下。開けた場所で簡易テントがずらりと並んでいた。

そのテント下では近所に居そうなおばさんや、バチバチにお洒落決まっている若い男性が商品を並べている。


「ここが今回の目的地。手作り市だ」





京都市。

金閣寺などの寺院が数多く残り、修学旅行先ランキング圧倒の1位。

最近ではレトロ喫茶なども有名であるが、知られているようであまり知られていない京都の恒例イベントがある。


「たしか、蚤の市だったか?器などの骨董品が売られている」

「そう、それ。よく知ってるな」

「京都在住のベニシアさんの番組で紹介されていてな」

「どこの誰のいつだよ、その番組。めちゃ気になる」


蚤の市、ガラクタ市、骨董市。

名前はまちまちだが、京都市ではしばしば神社や寺院の敷地内で市場が開かれる。

内容としては、骨董品や着物の切れ端、壷に煙管の吸殻捨て、ジッポライター、お猪口などなど、年季が入っているものもあれば、服やソフビ人形なども売られており、骨董品多めのフリーマーケットだと思ってもらうとよい。

分からん人からすると本当にガラクタを売ってるように見えるが、中には値打ち物も眠っていたり。


その市は1種類だけではない。

例を挙げると、


•北野天満宮の天神市

•東寺(東本願寺)のガラクタ市

•平安神宮の平安蚤の市

などなど。


日本昔ながらの骨董品だけでなく、英国のティーセットやブローチなど、海外からの骨董品も売られていたりもする。


「へぇ、面白そうだな」

「詳しいな晴明。好きなのか骨董品」

「……いや、仕事でな」


セイルの質問に、途端に渋い顔をする晴明。


骨董品の中に、極々まれ〜に魔術品が紛れてたりするのだ。

そのため、係員として潜入し全ての品物を一つ一つ確認する仕事があるのだ。

しかも、一つ一つ確認した証にレポートを書く必要が………


「たまに土御門本家からご指名入ってな。誰でも出来るけど、ただただ時間が必要なだけの仕事ほどキツイもんはないぞ」

「完全にお役所仕事だな」


……マジで電子化進めろよ。コピペさせろコピペ。


負のオーラが出始めている晴明を見かねてか、バルバトスが話題転換に移る。


「まあ、蚤の市とやらは分かった。けどよ、ここにあんの全部真新しいというか、骨董品なんて見えないぜ」


そうバルバトスが言う通り、テント下に並べられた商品はどれも真新しい物ばかり。

ベルトや靴などの皮小物、トートバッグ、陶器にアクセサリー、はたまたマフィンなんかも売られている。

「古」の字が一つも見当たらない。


「うん。そりゃ今回の市と蚤の市とは全然別枠だもん」

「……じゃあ何だったんだよ、さっきの件」

「いやまあ、別枠だけど関係ないってわけじゃなくてな」


今日開催されているのは手作り市と言って、出店者の5割以上が一般の人。そして、残りの5割は個人店を経営している人か、店も持たずオンラインマーケット専門の人だ。

そして、並べられている商品は全部出店者の手作りの品である。


一般人の手作り、と聞くとそれこそただのフリーマーケットみたいと感じるかもだが。

侮るなかれ。

好きこそ物の上手なれ、とはよく言い表したものだ。利益よりも趣味100%で作られた物なので、クオリティが高い。


「蚤の市とかで市の企画が昔から行われてた事もあって、神社や寺院の敷地を使用した新たな市の開催がし易いんだよ」


何より京都は神社などのお陰でイベントを開催できる場所が多い。

そういう下地が出来てたというのもあって、出店者としても来店者としても、参加し易い環境なのだ京都は。


「というわけで、ブラブラしよう。セイル、バトーはどうする?」

「私は晴明にしばらくはついていこう」

「俺はしばらく単独で。分かっちゃいるが、初見の所は立地を把握したい性分でな」


狩人としての性か。職業病とも言えそう。

説明はしたが、異国の神様のテリトリーな訳だし、気になるのであろう。


ということで、晴明はセイルと共にテントで作られた店舗の散策を始めるのであった。





〜後編は明日更新〜

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