翡翠蘭を買ってきて……
樹 亜希 (いつき あき)
第1話
こんなに蒼い空を見るのは久しぶりだった。
深夜まで眠れない夜が続いていたので、昼夜逆転していた私は、久しぶりに
早朝の空を見上げていた。深夜にふと目が覚めてしまう悪循環で毎夜眠るという
ことが少し辛かった。
和也が隣にいないと眠れないほどに自分のからだが飼いならされていることを
何よりも分かっているだけに、、時には自分でこの疼きを何とかしようかと手を伸ばして
そっと触れてみても何も感じない。
和也の指でないと、あの舌でないと満足などできないと。
別に他の男でもよい、とにかく自分でなんともならない夜のはざまを見苦しく
ため息をつきながら布団をかぶる日々だった。
久しぶりの和也との夜が明けるとそれまでの焦れた夜など消し飛んでしまう。
どうしてこんなにもあっけないのだろう。
「杏子、どうした?」
私は首だけ右にゆっくりと後ろを見た。
「まだ、寒いなって思って」
布団から抜け出した私はまた暖かい布団の中にもぐりこんだ。
「当たり前だろう、こんなに冷たくなってしまって」
「足の先がアイスみたいに冷えちゃった」
私が胎児のポーズをするとつま先を両手で温めた。
「今日は家に帰るんでしょう? 和也」
「ああ、もうそろそろ帰らないとな。ゆっくりして来いって言ったけれどね」
彼の妻は実母が入院して手術をするのでしばらく仙台に帰っていて
家を空けていた。都合がいいものだから和也は私の部屋にしばらく泊まっていた。
もともと和也は私の男だったが、同じ会社の後輩の女性と何となく関係をもったら妊娠したと
言われてしょうがなく結婚したとんでもなくいい加減な男、でも離せない、誰よりも好きな男。結婚しようが
何をしようが和也は私のものなのだ。
もう、ダメだななんて思ったら最後、すべてが壊れてしまう。こんないい加減な男を求めてしまう自分が
苦しくて情けない。こんなゲス野郎なのに、私にごめんの一言で他の相手と結婚してしまうような男のことを、まるで宝物のように大事に思う自分は
大馬鹿だという自覚はある。それでも私は和也のものを手にすると何度か優しく掴んでは、離すという行為を数回すると、自分の口元に
もっていく。裏の筋に向かって私は自分の舌先を滑らせると、やんわりと和也本体は呻くような声を出す。
そして、和也二号もそそり立ち、強度を増す。こんなところに黒子があることを私はずいぶん前から知っている。そこまで含むのは少し
難しい。
でもどうしてもこの黒子が欲しくて口の中に含むと、和也は私の髪を掴んで更に押し付ける。男はどうしてくわえこんでいる女の
顔を見たがるのだろうか。私はあえて和也の顔を見ないように目を閉じて舌を動かす、裏の筋に向かって。でも息が苦しくて一度
離すとまた和也は私の頭をもっていこうとするので、はっきりと言う。
「いやよ、くるしい」
「もっと」
「いやあ、離婚してくれるならいいけど」
無言になってしまうのはいつも同じ、まるで何かの儀式か呪文みたいなものだ。
それでも和也二号の先に私は舌先でちろちろと刺激をすると、まるで意思を持ったように強度を取り戻した。
先走り汁が出ると私はそれをティッシュでふき取る。自分がせりあがって和也の首にキスをした。恐ろしいほどの
力で私の細い腰を握ると自分のものを私の濡れそぼった裂け目に沈める。嘘みたいにツルっと入ってしまうと私はもうどうする
こともできない。待っている、待っていた長い間、ほんの一週間が一年ほどに感じていた。乾ききったあの時の私は今は湿地になっている。
「ん、はあ。きつい……。でもいい、すごく」
「これがいいんだろう、他の男とは違うんだろう」
そう、と私は頷くがもう声が出ないほどいい、気持ちが良すぎて太ももの内側の力が抜けそうだった。上になったままでは
耐えられそうもない。痙攣しそうなほどに私は感じまくっていた。
「ほしいって言えよ」
「いや」
それは私の意地でもある。相手に言わせないと納得いかないと思っていた。
ほかの女を嫁にしておきながら、まだ私に屈辱的な思いをさせるのかと感じると同時に、こんな嫌な奴のどこが良いのか。
つまみ食いした男たちのものとはくらべものにならない、強度と瞬発力の強さは和也だけ。いつの間にか私は下に組みかえられて和也の
髪が私の顔に掛かっていた。肩を強く掴んだ手と布団に食い込んだ手の強さが増す時には私の腰は強く上下して和也を咥えこんだまま離さない。
「イク!」突然、からだの芯から沸き起こる強い快感はなんだ。いつもそう……。
「いいわ、私も……」
一緒にいくときが最高で、疼きとともに噴きだすもので溢れかえっている。
「ああ、もうだめ」
私は和也の頭を掴んで両足を彼の腰に絡める。それが合図で、最後の咆哮をお互いに聞くと野獣は人間にかわる時となる。
ぐったりとした男女が塊になってこのまま死ねたらいいのにと私はぼんやり思いながら彼の脊髄の溝の汗を撫でる。
こんな冬のさなかでも汗でびっしょりになっている男はいつまでも私の上に乗ったまま動かない。
「ねえ、重い」
返事をせずにゴロンと横になると、すーすーと目をつぶったまま寝息を立てる。これもまたいつもの癖で、10分ほどすればびくっとして
目を覚ますので私はその間に、二人分の後始末をして、シャワーを浴びる。つやつやに光る胸元は男の与える情熱で満足しているかのように水分をはじく。
もう、30歳目前の私はこの日を最後にして本当に和也とは別れようと思う。毎回、このタイミングで。
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