絶大な力があれば大抵の罪は許される


「「「きゃあああああああ」」」

 傍観してた女子生徒達の悲鳴が上がる。

 逆に参加しようか悩んでいた男子生徒は今の惨状を見て参加しなかったことに安堵する。


「おい、お前、お前今、お前は今何を何をしたぁぁぁぁぁ。いや何をしたのか理解をしているのか」

 顔面蒼白、今にも吐きそうな顔をして絶叫する監督の先生。


「オロロロ」

 というか吐いた。


「大丈夫ですか?」

 当たり前の話だけど僕は監督役の先生を心配して介抱する。

 少なくとも彼は僕に何もしてないしただの先生なのだから。


「だって。お前。お前これどうするんだよ。というか何で普通に俺に接するんだよ。何なんだよ。お前、だって、これ貴族を貴族を殺したんだぞ。こんなのまともな死に方すら出来るかどうか・・・」

 僕のことを心配してくれてるのか優しいな。


「大丈夫ですよ。これは決闘ですから。それに僕は気が付いたんです。僕って強いってことに」


「そうですね。ご主人様は最強です。こんな塵芥共を今まで生かしてあげた事実に感謝されこそすれど恨まれる筋合いはないです」


「正直僕は殺すつもりはなかったけど、まあトランを馬鹿にされたし、ついイラっと来て。でもなんか凄く清々しい気分だ。ああ。何で僕は今まで我慢してきたんだろう」


「そうですよ。ご主人様は我慢なんてしなくていいです。思うままに生きててください」

 我慢か・・・。今まで散々虐められて地獄のような日々を味わってきた。

 ある意味でこれは僕の持つ正当な権利かもな。

 決闘の外を見る。クラスメイト達がまだいた。全員ではないが中には苛烈に僕を虐めてた人もいた。

 僕を見て怯え自分が報復されることを恐れている。

 嗚呼。何かとても清々しい気分だ。


「殺すか」

 無意識にそう呟いていた。


「いいですね。私は賛成です」


「トラン・・・いや。やめることにしておくよ。決闘じゃないし。本当に殺す程酷いことをされたかと問われれば違うと思うからな」


「流石ご主人様はお優しい」

 

 トランと会話をしていた所目の前の空間が歪み一人の老人が現れる。その老人に僕は見覚えがあった。

 魔法の才能のない僕をけなし、学園の寮から追い出した魔法能力至上主義者であるこの学園の校長先生だ。

 一応それなりに強い筈だ。筈なんだけど、今こうしてみると。なんだろう凄く弱いな。それじゃあ校長先生の価値観に従えば僕の方が上になるな。


「何じゃ。何じゃ。この状況は禍々しい魔力を校舎内に感じて急いで転移したら。お主一体何をした。答えぬか」

 

「答えぬかって。ただ僕は正当な決闘に基づいて殺しただけです。それともお前如きがこの僕に意見をするのか」

 魔力を開放する。

 我ながら膨大な魔力だ。

 

「何という禍々しい魔力じゃ。いや、それよりもこの魔力覚えが・・・まさか先日のあの魔力の持ち主はお前か」


「先日って、ああ。神が降臨した時の魔力のことを言ってるなら確かに僕だな。それで?どうする決闘でもするか?」


「決闘。この儂が・・・それは無理じゃ」


「無理だって。何を言ってるんだか。学生との戦いに逃げるというのか校長先生である貴方が。それとも魔力至上主義を唱えてるあんたが格上の魔力を持った僕に逆らうというのか」


「そ、それは・・・それならば空間魔法・強制転移発動・教職員全員でこの裏切者を殺すのだ」

 魔法が発動し、おそらくこの学園の全員と思われる教職員がこの場に続々と転移される。


「良く分からないが。校長先生の命令だ。お前を殺す」

「平民ですもの。裏切者というのも当然だわね」

「わざわざ全員集めるって大袈裟だな」

「うだうだ言わずに殺せよ。風魔法・切り裂く刃」  


「ちょ、ちょっと皆待って」

 数多の先生が好き勝手に言う中クルリ先生だけが止めに入るがしかし時すでに遅し僕には明らかに殺意の籠った攻撃が向けられていた。


「闇魔法・闇弾」

 だから僕は殺意を向けた相手を殺した。

 一発。

 たった一発の闇弾で僕のことを嫌い平民だからと差別し僕を今殺そうとした人を逆に殺した。

 なんて。なんて簡単なことなのだろうか。


「だから私は止めたのに。もう終わりよ。私達は終わりなのよ。ハハハハハ」

 唯一戦闘の意思がなかったクルリ先生だけは生かした。

 今まで散々虐められてはきたけど、だからといって今戦闘の意思のない人を殺すのは僕の大嫌いな貴族と同じ所業だ。


「さてと。校長先生も死にましょうか」

 魔力を腕に貯めて文字通りの必殺の一撃を放とうとする。


「大変申し訳ございませんでした」

 校長先生が僕に土下座をした。

 何というか今更だな。


「それは流石に都合が良すぎるでしょ」

 僕を明確な殺意を持って殺そうとした校長先生を許す謝った程度で許す理由がなかった。


「待って。タイト君。取引をしない」

 クルリ先生が僕に待ったをかける。


「取引?この状況で何を取引するんだよクルリ先生」

 腕は振り上げたまま話を進める。


「私が望むものは校長先生の命。対価として捧げるのはこの学園の卒業証明書と10億ゴールドよ」

 平民が一生をかけて稼げる金額が1億ゴールドいかないと考えれば人生を物凄い大金だ。平民の僕にはそれこそ想像もつかないレベルだ。

 それに学園の卒業証明書。これがあれば僕はこの学園という枷から解放される。

 悪くはない取引だと思う。


「それだけか?」


「それだけじゃない。儂から儂からこ奴を従者にいや奴隷としてタイト様に与えよう」

 校長先生が必死に形相でそう口走る。

 こ奴と指を指した先はクルリ先生だった。


「え?いやちょ、でも。も、もちろんです。タイト君。いえタイト様」

 僕に跪くクルリ先生。

 何となく僕の心の中には征服欲が刺激された。

 今までされた数々の屈辱的な行為も思い返す。僕にもやり返す権利くらいはあるかな。


「分かった。それで許そう」


「ありがとうございます」

 再度土下座する校長先生。

 何か色々と冷めた僕はトランと共に家に帰った。

 


 

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