第7話 最後の賭け
お風呂上がりの聖奈ちゃん。本当だったらウハウハの状況だけど、もうそれどころじゃない。今、俺と聖奈ちゃん、そして母ちゃんの三人で、今後のことを話し合っていた。
「聖奈ちゃんは、ウチの子になりたいんだって?」
「はい……」
「それはどうしてだい?」
「…………」
母ちゃんが優しく問い掛けているが、大切なところは答えてくれない。
いや、答えられないのかな?
「ウチはご覧の通り小汚いアパート暮らしだ。聖奈ちゃんの家のように大きな家じゃないけどいいの?」
「はい……」
「でも、その理由は言えないかな?」
「…………」
うなだれて無言になってしまう聖奈ちゃん。
「母ちゃん、とりあえず夕飯だけでもウチで食べていってもらおうよ。そうだ! スペシャルカレー作ってよ! 服部さん、母ちゃんのカレーめちゃウマだから期待して!」
とにかく一旦話題を変えようと、夕飯の話を切り出したら、聖奈ちゃんの顔にも少し笑みが浮かぶ。良かった。母ちゃんもそれに乗ったようだ。
「オッケー、今夜はカレーにすっか。そしたら、おばあちゃんには言っておかないとだね。連絡先を教えてもらっていいかい? あーしから連絡しとくから」
聖奈ちゃんから教えてもらった電話番号のメモとスマホを手に、母ちゃんは外に出ていった。
その間、俺は聖奈ちゃんを励まそうと俺の失敗談を少し……いや、かなり盛って話していた。でも、彼女の心からの笑顔を見ることはできなかった。
十五分後――
母ちゃんが戻ってきた。
「随分時間かかったね」
「あぁ、色々話をしたからね。
「フミエさん?」
聖奈ちゃんを見ると、うなだれていた。
「全部聞いたよ。文恵さんが教えてくれた」
母ちゃんの一言に、聖奈ちゃんは小さく嗚咽を漏らし始めた。
「文恵さん、泣いてたよ。私も聖奈さんを傷つけていたって」
「違う!」
涙声で叫ぶ聖奈ちゃん。
「私は根本的な解決ができなかったって」
「違う!」
「私は何も聖奈さんにできなかったって」
「違う! 違う、違う、違う! 文恵さんがいなかったら……いなかったら……」
聖奈ちゃんは叫びながら泣き崩れた。
どういうことなのか、俺にはさっぱり分からない。
俺にできることは、聖奈ちゃんのそばに寄り添うことだけ。
俺は、そっと聖奈ちゃんの背中に手を添えた。
「聖奈ちゃん、聖奈ちゃんのママが本当に聖奈ちゃんの思っているようなひとなのか、賭けようか」
「賭け?」
母ちゃんの呼び掛けに、涙ながらもゆっくり顔を上げた聖奈ちゃん。
「これから聖奈ちゃんのママをここに呼ぶ。連絡先は文恵さんに聞いた。聖奈ちゃんは来ると思う?」
「『来ない』です。来るわけがありません」
「そうかい。じゃあ、私は『来る』方に賭ける。賭けるものは……プリンにしようか」
「プリン?」
聖奈ちゃんは首を捻った。
「冷蔵庫に美味しいプリンが四個ある。賭けに勝った方が二個食べられる。どうだ?」
「はい、わかりました……」
俺は一個だけなのが確定なのね。いや、言わんけどさ。
ニヤリと笑った母ちゃんは、自分のスマホを取り出してタップし始める。
スマホを耳にあてると、コール音が俺にも聞こえた。
この金髪ババァ、とんでもねぇこと言いやがった。
「もしもし、聖奈ちゃんのママさん? 今さぁ、聖奈ちゃん預かってっから。指定の場所まで来ないと聖奈ちゃん、どうなるか分かんないよ。来るんだったら、聖奈ちゃんの身の安全は保証してやるよ。あーし? あーしのことはどうでもいいんだよ。いいからさっさと来いよ。いいな。場所は――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます