第4話 授業参観

 令和の時代に授業参観かよ。こんなもん、全部WEBカメラ使ってライブ配信でいいじゃん。なんでわざわざ……いるよ。金髪ババァが……俺に手をブンブン振るな。ほら、他のお母さんやお父さん方、めちゃ笑ってるよ……ド金髪にスーツ姿って……母ちゃん、今年も浮いてやがるぜ、うっひょー。

 あっ、聖奈せいなちゃんのお母様だ! 女神のお母様・マザーハットリの降臨! 清楚っていうのかな、黒いロングヘアに白い肌、たたずまいがすでに上品。すげぇ美人だよな……つーか、小学生男子をメロメロにする美しさって、凄いよ。聖奈ちゃんが可愛いのも納得だわ……やっぱり、あこがれちゃうなぁ。

 俺の視界に母ちゃんとマザーハットリのふたりが入る。あぁ、比較しちゃいかんな。違う生き物だわ、これは……と思っていたら、母ちゃんに睨まれていた。やべぇ、感が鋭すぎる。俺は慌てて黒板の方を向いた。


 国語の授業。最悪なことに音読で先生に刺され……じゃなくて、指された。ただ、気分的には「刺」の方な感じ。


「タロウくんは、つよけん……きょうけんなからだで、よう……やしなった……」


 つっかえ、つっかえ、勉強不足丸出しの音読。やばい。これはマズい。


「はい、武くん、ありがとう。もうちょっと予習してこようね」

「はい……」


 先生の注意なんてどうでもいい。問題は……俺はゆっくりと後ろを振り向いた。母ちゃんはにこやかな笑顔を浮かべていた。セーフ!


 が、その笑顔のまま、親指を首に当てて横に引いた。


 ぎゃーっ! 完全アウトじゃねぇか! 思わず頭を抱えた。

 そんな母ちゃんと俺のやり取りを見て、クラスのみんなは大爆笑。教室が笑い声に包まれた。

 あーっ、聖奈ちゃんもクスクス笑ってるぅ……もっと予習してきます……。


「じゃあ、続きを服部(聖奈)さん、読んでください」

「はい」


 席を立った聖奈ちゃんは、それはそれは見事に音読をこなした。人気声優さんかと思うほどの美しい声、読み方も軽く感情を込めたりして完璧だった。

 読み終わった後、教室では拍手が湧いた。さすが聖奈ちゃん。本当に凄い。

 でも、席に座った聖奈ちゃんの顔からは、笑顔が完全に消えていた。まるで泣くのを我慢しているようにも見える。


 この時、俺は気が付かなかったんだ。




 聖奈ちゃんのお母さんがいなくなっていたことを。



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