第10話 女体サンドイッチ
GWの南国バカンス二日目。
凛々花が「今日はシュノーケリングを楽しみますわよ!」と張り切っていたので、オレ達は、またもやプライベートな船で沖合へと出てくる。
船舶の運転手はメイドさんだ。昨夜のご馳走もメイドさん作だったし、なんでも出来るなメイドさん……っていうか、あのメイドっぽい水着はどこで買ったのだろう……もしかして特注か?
「やっぱり南国の海は格別だね! うわぁ、水が透明! 潜らなくても珊瑚礁が見えるよ!」
甲板の上で、カノンが身を乗り出しながらはしゃいでいた。そんなカノンを、雪乃が
「カノン、そんなに身を乗り出したら危ないって。浅瀬でも落ちたら大変でしょ」
そんなやりとりをしていたら、あっという間に、シュノーケリングのポイントに付いたようだ。船が停まる。
すると凛々花とメイドさんが、シュノーケルやゴーグルなどを持ってくる。
「さぁ誠さん。器材の使い方をご説明しますわ。あと装備もしませんと」
「おう、ありがとう。何しろ初体験なもんで手間掛けるな」
「ぜんぜん構いませんわ」
などといってにっこり笑ってくる凛々花。水着姿なのも相まって、オレはもうどうにかなってしまいそうだ。
「ねぇちょっと」
するとメイドさんに器材を手渡されていた雪乃が凛々花に話しかける。
「なんでわたしへの説明はメイドからなのよ」
「え? だってわたし一人じゃ手が足りませんし」
「………………」
雪乃は何か言いたそうだったが、渋々といった感じでメイドさんからレクチャーを受け始める。
確かに一人ずつレクチャーしてくれたほうが助かるし、オレとしても、初対面のメイドさん(抜群に美しい人ばかり)より、慣れてきた凛々花に教えてもらったほうが気楽だしな。ここは我慢してもらおう。
そうして一通りのレクチャーを受けてから、いよいよ海水に入る。足ヒレを付けて海に入るなんて始めてだな。ちょっと浮力感が増している気がする。
オレが不思議な感覚を覚えていると、凛々花がオレの手を取った……!
「慣れないうちは、不安定になりますからね。わたしが支えますわ」
「お、おう……ありがとう……」
水着姿の女の子と海で手を繋ぐなんて……どんな役得だ? っていうか凛々花って、ほんと胸が大きいな……って、いけないいけない!
見るべきは凛々花の胸じゃなくて海中だ。妙な視線を送って嫌がられてはたまらない。
オレは自分を律して、いよいよ海中に顔を付けた。
ゴーグル越しに見る南国の海は……この世のものとは思えないほど美しかった……!
こんな海中で、どうしてこれほど色鮮やかな魚や熱帯魚がいるのか! まさに自然の神秘ってヤツだな!?
「す、すげぇな!?」
だからオレは、海面に顔を出して思わず感嘆の声を出していた。まだ顔を付けていなかった凛々花が得意げに言ってくる。
「そうでしょう? わたしは何度も来ていますが、この近辺の海は本当に綺麗で、何度でも感動するものですわ」
「そうか……いやそれにしても、こんな場所を所有しているなんてすごいな……」
「ふふっ、それほどでも。もう少しあちらでは、さらに大きな珊瑚礁が見られますわよ。行きましょう」
「お、おうっ……と」
凛々花に腕を引っ張られるが、まだ足ヒレに慣れていないオレは思わずよろける。
「大丈夫ですか?」
そんなオレを、凛々花が支えてくれた、が……!
ふにゃっ──
──という音でも聞こえてきたかのように!
凛々花の豊満なバストが、オレの腕に当たってる!!
「もしかして、誠さんってカナヅチですの?」
「いいい、いや!? そういうわけじゃないんだが!」
「……? では、なぜそんなに慌ててますの?」
「ななな、なんでと言われてもな!?」
だってあなたの柔らかすぎる胸が、オレの腕に、思いっきり当たっていますから!?
水着なんてヒッラヒラの薄布一枚隔てただけで!?
気づいていないんですの!? って思考がおかしい!
でもここで振りほどくほど、オレは、朴念仁でもなければ足ヒレでの泳ぎに慣れたはずもなく!
だからその場に(いろんな意味で)固まっていたら──
「ちょっと!」
──雪乃がオレ達の間に割って入ってきて、凛々花にしがみつく格好になっていたオレを引き離した。
「いくらなんでも、くっつきすぎ!」
頬を膨らませる雪乃に、凛々花は困った顔になる。
「仕方がないではありませんか。ここは水中ですし、誠さんは泳ぎが苦手なようですし」
「泳ぐだけならわたしでも出来るから、わたしがエスコートするわよ。それなら適切な距離感をたもてるわ」
「いくらなんでも、初心者同士のペアは認められませんわ」
「なら誠には、そっちのメイドを──」
「まぁまぁ雪乃。落ち着きなって」
少し険悪な感じになってきたら、すかさずカノンが仲裁に入ってくれる。
「別に、誠が嫌がってないんだからいいじゃん?」
「け、けど……」
「あの顔、むしろ喜んでいるよ?」
う……
指をさされたオレだが……そ、そんなに鼻の下を伸ばしていたでしょーか……?
そんなオレを、雪乃がジロリと睨んでくる。
ま、まずいな……
雪乃は純愛主義っぽいし、だとしたら……
オレには『好きな子がいる』って設定なのに、ここでデレデレしていては、純愛主義者としては面白いはずもない。
しかも雪乃には、そのコとの仲を応援するとまで言わせているし。いや、そもそも応援されるべき相手はどこにもいないんだが……
だからオロオロするしかないオレに、雪乃は背を向けてしまう。
「誠って……意外と気が多いんだね……」
「い、いやあの……」
どう言い訳しようかオレが考えあぐねていたら──
──ふにゃん。
「!?」
背後に、またもや柔らかい感触が押しつけられたかと思ったら、潮の香りに混じった甘い香りが鼻腔をくすぐり、そのあとようやく、カノンに後ろから抱きつかれたことを悟る。
「もう見られちゃったし、こうなったら容赦しないよん♪」
「ちょ、カノン!?」
オレの悲鳴に、雪乃が振り返る。
「カノンまで何してるの!」
「えー? いいじゃん別に。ほらほら、やっぱり誠は喜んでる」
「だ、だからって……」
「ふふん? 雪乃だって我慢せずに、抱きついちゃってもいいんだよ」
「わ、わたしは……!」
「ほらほら〜。こうなったら誠をサンドイッチにしちゃおう! 女体サンドイッチ!」
「で、出来るわけないでしょ!?」
もはやオレは目を回すしかなくなり、そんな会話だけが聞こえてきた! しかもさらに凛々花の声が聞こえてくる!
「もぅ……では前はわたしがもらいますわね?」
「な!? ちょっと!」
ふにふに、ふにゃん!
で、前にまで柔らかくて温かい女体が──
「ちょっと! 誠には好きなコが」
──ぶしゅー!
と、そこで……
オレはついに、盛大に鼻血を吹いた。
「ちょ……誠!? 大丈夫!?」
「誠さん!? お気を確かに!」
「………………ばか」
と、そんな感じで。
南国のエメラルドグリーンに、赤色が少しだけ広がっていくのだった……
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