It's a Fantasy, World !!

三二一色

Komm, du süße Todesstunde

第1話 白色の世界

「……ん? 何だこれ?」


目を覚ました瞬間、視界が真っ白に染まっていた。


まばゆい光がどこまでも広がっていて、まるで無限の雪原に立っているような感覚だ。

足元には硬い床があるはずなのに、触れるとふわっとした柔らかさを感じる。


頭を振って周囲を見回してみても、天井も壁も何もかもがただの白。

まるで絵の具を塗り忘れたキャンバスのような、不気味で空虚な空間が広がっている。


俺、田仲タロウ、17歳、平凡な高校生。

趣味はゲーム、アニメ、漫画という超・超・超一般的な男子高校生である。


さて、そんな一般通過男子学生である俺が、こんな場所にどうして立ってるのか。

さっぱり見当もつかない。


いや本当にわかんない。

なんで?


「えっと……これって夢じゃなさそうだな?」


ほっぺた抓ると痛いし、身体に触ると確かに感触が伝わる。

というかそもそも、夢にしちゃあ何もなさすぎだろ。


心臓がドキドキしてきて、冷や汗が背中を伝う。

現実感がないのに、呼吸はちゃんとできてるし、手を動かしても感覚はある。


じゃあ、何だよこれ?

頭の中でぐるぐる回って、考えようにも上手い具合に言葉がでず、断片的な単語だけが木霊みたいに頭を巡るけど、しかし答えが見つからない。


が、ふと、ある可能性が頭をよぎった。


「まさか……異世界転生か?!」


その言葉が俺の脳から発せられて口から言語として飛び出した瞬間、確かに俺は胸が高鳴るのを感じた。


異世界転生!

アニメやウェブ小説でよく見るヤツ!


トラックとか電車とか大八車とか戦車とか相撲取りの集団ジョギングに轢かれて死んだり!

あるいは救世主とか神様とか女神とか魔法使いとかに呼ばれたりするやつ!


そんでなんやかんやで、最終的には異世界に飛ばされるやつ!


もしかしてそれじゃないか?!


いや、でも俺死んだ記憶とか無いんだが……神様とか出てこねぇしな。


ぐるっと見渡しても白い空間が広がってるだけだ、ヨボヨボの爺さんみたいな神様が畳の上で茶をすすってるとかそういう様子はない。

爆乳で乳揺れだけすごいけど脳みそは小麦粉くらいの比重しかなさそうな女神の姿もない。


いや、これは異世界転生なんだ。

誰が何というと異世界転生なんだ……!



俺が眼を閉じて、くわっ!と開くと。



足元には柔らかい土と草が広がっている。

鼻に届くのは、湿った土と新緑の爽やかな香り。


木々のざわめきが耳に届き、遠くで鳥がさえずって、風が葉っぱを優しく揺らしてる。

そんな大自然とは何かというのを具体的に表現したような場所に、俺はぽつんと立ってる。


森だ!

テンション上がるな!


「うおっ、マジかよ!……やっぱ、思った通り異世界転生だったんだな!異世界転生なら、森とかから始まるのが定番だしな!」


諸説あるかもしれないが!まあ大抵は森スタートだろう。


木材を伐採キコって良し!

山賊を討伐ボコって良し!

モンスター娘を捕獲パクって良し!

……な、森林スタートである。


これが洞窟の中とか、モンスター転生スタートとかだったら……地道だが決して死んだりしないよう上手い具合に調整された他モンスターを倒したり捕食したりしてレベリング尺稼ぎをしないといけないところだった。


これなら俺が今後、この世界でどういう身の振り方をするにしても問題ないだろう。

鍛冶屋としてスローライフしてもいいし、現代メシを再現してもいい。


あー、でも、もし転生なら、チート能力とかもらえるはずだよな?


何せ森林スタートなのだ、人間のまま森林で始める場合は大抵の場合既にスゴク=ツヨイ状況下である、スポーン地点での状況把握は重要だ。

そもそも剣と魔法のファンタジー世界で、最強の主人公として大活躍するなんて、定番も定番のド定番だからな!定食の野菜炒めに入ってるもやしの存在に近い。


興奮が抑えきれなくて、思わずガッツポーズ。


異世界転生しても俺が主人公ではないパターンっていうのもまま、あるわけだが……この状況なら主人公っぽさ全開だぜ!

だから俺が主人公だろう!

なぜなら俺は主人公だから!


そんな循環論法に陥っているわけだが、鏡はないけど、きっと俺の顔は今、ニヤけまくってるはず。

内心、ちょっとダサいかもしれんと思っているわけだが。


そういう邪魔なもん理性は見ないようにして、「これが俺の人生の転機だ!」って感じで胸を張った。


さて、チート能力があるなら、どんな敵だって俺には敵わないはずだ。

そう考えると試し切りならぬチュートリアル戦闘を行いたいところだが。


ふーむ、剣と魔法のファンタジーなら、山賊に襲われてる貴族の令嬢を助ける展開が定番だよな?

最初から魔王とかドラゴンとかクライマックスなヤツが出てくるパターンもあるが、俺は前者派である。


想像しただけでアドレナリンが出まくり!

頭の中で、ヒーローっぽい自分と美少女が並んで笑うシーンが勝手に再生されて、テンションが上がる一方だ。


森の中を歩き始めると、足元には落ち葉がカサカサと音を立てて、時折小さな虫が飛び跳ねる。

木々の隙間から差し込む陽光が、地面にキラキラした模様を描いてて、まるでファンタジーRPGのオープニングムービーみたい。


どれくらい歩いただろう?


そろそろだろ?


そろそろ来るよな?


と、思ったところで——遠くから聞き慣れない叫び声が聞こえてきた。


「助けてぇっ!」


女の子の声だ!

高いトーンに焦りと恐怖が混じってて、明らかにピンチっぽい。


「いよっ!待ってました!!」


俺は言葉とは裏腹に心臓はまたドキッとしたが、足は自然と声のした方向へ動いた。


茂みを掻き分けて走ってみると、視界が開けた場所に馬車2台が止まってた。

そこではめっちゃ可愛い金髪ツインテールの女の子が、山賊に囲まれている。


赤いドレスにコルセットが締められてて、青い目がキラキラと涙で光ってる。

髪はふわっとカールしてて、まるで絵本から飛び出してきたような美少女!


護衛らしき兵士が数人、山賊と戦ってるけど、明らかに劣勢だ。

兵士たちは鎧を着て剣を振り回しているんだが、山賊の数の多さに押されているようで、息も絶え絶えだ、こりゃあ長くもたんぞ。


一方の山賊たちは、動物の毛皮で身を包んだ半裸のガチムチ男で、見た目からして荒々しい雰囲気全開。


筋肉がムキムキで、腕や胸がゴツゴツしてて、ジムで鍛え抜いたボディビルダーよりもいっそうムキムキで筋肉が黒光りしてる。

髪形はモヒカンとかスキンヘッドが目立ってて、顔には汚れと傷が刻まれてる。


手に持つ武器は鈍く光る斧で、振り回すたびに金属音が森に響く。

奴ら、口から「ヒャッハー!」とか「オラァ!」みたいな奇声上げて、楽しそうに暴れてる。


まるでゲームの雑魚敵がキャンプファイヤーで騒いでるような感じだ。

こう、捕まえた捕虜の人間とかを柱に括り付けて燃やしてるやつな?汚ねぇキャンプファイヤー。


「うわっ、めっちゃヤバい雰囲気! でも、俺、チート主人公だから!」


自信満々に突っ込んで、山賊たちに飛びかかった。


拳を振り上げて一発目を繰り出すと、俺の接近に気づいていなかったらしい隙だらけのモヒカンの山賊が「ぐえっ!」って叫んで等速直線運動するかの如く反対側の茂みの向こうへと吹っ飛んでいった。


次に俺が突撃したことに驚いた表情を浮かべているスキンヘッドの奴に近づいて、パンチを顔に叩き込む。

「あばらば!!」と叫びながら、鼻血を撒き散らしながら倒れていった。


「チートなら一撃で倒せるはず!」とは思ってたが、こりゃあ確かに楽勝だ。


何だか自分の身体の動きが妙にスムーズである。

身体が軽やかでもう何も怖くない気分。


俺の存在に気が付いた山賊のうちの数人が向かってくる。

斧を振り回してきた奴を見据えて、その斧の刃を真剣白羽取りして蹴とばす。


ふふふ、武器を手に入れちまったぞ。


蹴とばされた奴とは入れ違いに突っ込んできたドレッドヘアの山賊の頭領らしい奴は、他の山賊が持ってるものよりも一回り程大きな斧を大上段から振り下ろしてきた……俺はそれに対して打ち合わせるように斧をぶん回す。

すると、山賊の持ってる斧の方がバキッと折れて柄だけが手元に残った。


山賊が呆然としてる隙に腹に拳を入れて気絶させる。

ふん、武器の強さが戦力の決定的差ではないということを教えてやったぜ。


数分で全員を倒して、残った数人を捕縛。

護衛の兵士が口をポカンと開けて見てる中、俺は颯爽と馬車に近づいた。


「大丈夫か? 助けたぜ!」


いいねぇその表情!ほら、もっとちょうだい、そういうの!


「すげえ」とか「強い」とか称賛して称賛!

うぉぉん俺は承認欲求モンスターだ!フラペチーノベンティサイズ頼んでSNSにアップするレベルの!


さて、そうして俺が近づくと美少女が涙目でこっちを見上げてくる。


顔が近くて、肌がすべすべで、ほのかに香水みたいな甘い匂いが漂ってくる。

青い目は潤んでて、長い睫毛が揺れるたびに心がチクッと動く。


「ありがとう……あなたのおかげで助かりました!」


その声、めっちゃ優しくて、ちょっと震えてる。

可愛い。


あ"あ"あ"あ"~~~たまらねぇぜ!!もう一度(山賊退治を)やりたいぜ!!


今の声もっかい言ってくれないか?!

録音して夜寝る前にループ再生したら絶対安眠できるだろ、感謝ASMRジャンルを開発するぞ。


そんな感じで俺は今にでも「うおっ、めっちゃ可愛い子だ! 異世界最高!」って口から噴火する感じに叫びそうになったけど、なんとか平静を装ってニヤけた。


「私はエリシア・フォン・ルミエール、この領地の領主の娘です。本当に助かりました……ありがとうございます」


「いやいや、気にしないでくれ。俺はタロウ。えっと、よろしく。通りすがりに助けただけだから、そんな大袈裟に感謝しなくたっていいぜ」


いやもっと感謝してくれ。

美少女からの感謝とか、どれだけ貰っても困ることはないからな。


そんな俺の下水に降り積もった汚泥みたいな内心なんぞ露知らず、エリシアが微笑む。

唇の端が少し上がるのがチャームポイントっぽい。好き。


「それでも、あなたがいなければ私はどうなっていたか。ぜひ、私の館にいらしてください。お礼をしたいですし……いかがでしょう?」


「あ、どうも」


あーこれこれ!こういうの良いよね!

自然に貴族令嬢と関係を持っちゃう流れ!


実際こうでもないと、ポッと出の異世界転生者なんて、お貴族様なんかと接点持てないしな!

そうするとエリシアはヒロインかな?実際、容姿のヒロイン度高いしな。


そうして俺がエリシアと話をしている間に、護衛の兵士たちが捕縛した山賊を馬車に積み込んで、俺もエリシアと一緒に別の馬車に乗り込んだ。

なんで山賊なんて連れて行くんだと思ったけど、まあそりゃ捕まえて裁判かなんかするわな。


逃げた奴も結構いるみたいだが、そいつらは追わないらしい。


そりゃあそうか、そうだわな。

この人らエリシアの護衛してんのにほっぽり出して山賊狩りに行くわけがないわ。

そんなことしたら護衛失格である。護衛対象をまず助けろよ。自らを顧みず他を救い出せ。


エリシアの専用の馬車に乗り込むと、革張りの座席が柔らかく沈み込み、深紅のビロードが体を優しく包んだ。

窓枠には精巧な彫刻が施され、蔦と花の模様が金箔で彩られている。


内壁には淡い青の絹が張られ、小さな魔法石が嵌め込まれたランプが柔らかな光を放つ。

座席の脇には銀の小さなテーブルがあり、繊細なガラス製の水差しと杯が置かれている。

馬車の天井には、星空を模した小さな宝石が散りばめられ、揺れるたびにキラキラと輝いていた。


俺が座ると、エリシアが対面に腰を下ろし、金髪のツインテールが軽く揺れた。

彼女のドレスの裾が座席に広がり、穏やかな声で話し始めた。


「本当に助かりました、タロウ様。あの山賊たちは最近この辺りで現れるようになって……護衛をつけていたのですが、まさか襲われるとは」


「へえ、そうなんだ。まあ、俺がちょうど通りかかって良かったよ。なんかタイミングがバッチリだったし、運がいいなって思うよ」


エリシアは一瞬だけ目を細め、俺を観察するように見つめる。

俺は一瞬だけドキっとしたけど、すぐに微笑に戻った。


「そうですね。あなたがいてくれて、本当に幸運でした。……失礼ですけれど、タロウ様はどこから来たのですか?」


「あ、えーと、そのー、と、東方?」


「東方?……すみません、私が不勉強でして……東にはタロウ様のような方が住んでいる国があるんですか?」


「お、おう。多分」


流石に「白い空間にいたと思ったら森の中に立ってました!異世界転生者です!」とここで言う度胸はないぜ。


いや、この世界が異世界転生者なんか掃いて捨てて一山いくらで売ってるタイプ系の異世界なら良いんだが、そうでなきゃ電波発言過ぎてエリシアの中の俺像が「助けてくれた恩人」から「助けてくれた奇人」にジョブチェンジしてしまう。


「不思議な方ですね。でも、あなたのような方が現れてくれて、私は幸せ者です」


なんとか誤魔化そうとする俺に、エリシアはにこりと、花のように微笑んだ。


あまりに素敵な笑顔で、俺はつい言葉に詰まって馬車の窓から外を見る。

美少女と対面した状態で3分以上会話をすることができるチート能力を俺にくれ頼む今すぐに。


馬車が揺れながら進む中、窓から見える森の景色がどんどん広がってく。

木々が風に揺れて、時折小動物がチラッと見える。


鹿とか猪みたいな動物に……お、やっぱりモンスターっぽい生き物も居るんだな。

風景見るだけで、俺の中の、こうファンタジー感的な何かがさらに増してきていた。





◇ ◇ ◇


タロウとエリシアが乗る馬車の後ろを、護衛の兵士たちが歩きながらついていく。


休憩や物資運搬のために使用している馬車の中では、捕まえられた山賊が3人、座っていた。

山賊の頭領に、モヒカンの山賊と、スキンヘッドの山賊である。


彼らはロープで両手足を捕縛されていたのだが、今はそれでは痛いし不自由だろうと外されている。

勿論、彼の目につくところでは再捕縛することになるが。


彼らは逃げようと思えば逃げ出せそうで、何なら自爆覚悟で暴れればそれなりの被害が出せるであろうこの状況でも、大人しく座って、低い声で話し合っていた。


静かな森の道を進む中、陽光が木々の隙間から斑模様を作り、遠くで小川のせせらぎが聞こえる。


兵士の一人が馬車に乗り込む。

毛皮に包まれた山賊の首領に目を向け、鉄の鎧がカチャリと音を立てる。


山賊の頭領は、兵士に向けて声をかけた。


「俺たちはこれからどうなるんだろうな」


「解らんな、まあ穏便に済ませたいところだ。だが、彼がもしお前たちの処遇に口を挟んできて、望むなら処刑も避けられんぞ」


「はぁ~~、まあそうなるわな」


首領はドレッドヘアの髪をかき回し、荒々しい手で肩をすくめた。顔に刻まれた傷が陽光に映えて、どこか疲れた表情を浮かべる。


「損な役だよなあ、山賊ってよ……しかもこう、一瞬でやられちまってさ。もし次があるなら、別の役をやりたいよ。たとえば、正義の味方とかさ。処刑は勘弁してほしいぜ。折角こんな筋肉ムキムキの体なんだ、もっと役に立つ場面で使いたいって」


「そうはいってもなあ……俺たちゃ役割通りに動くしかねえんだよ。彼の望む『山賊』ってのが、そういう役回りだったんだ、仕方ねえよ」


「ってもよー、お前たち兵士はいいじゃねえかよ、俺はまず自分が処刑されないようにお祈りするところから始まってんだぞ」


「どうだかなあ、彼が今後どうするか。事と次第によっちゃ、俺たちもどうなるか解んねえからな」


別の山賊がスキンヘッドを撫でながら、苦笑を漏らす。


「まあ、死ぬのはイヤだがそん時はそんときだ、次はもっと楽な役目がいいな」


兵士が小さく頷き、馬車から降りていく。


森の木々が風にそよぎ、葉っぱが地面に落ちる音が静かに響く中、馬車を引く音と彼らの足音だけがリズミカルに続いた。


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