偽物剣士と偽物姫

リーシャ

第1話エルフ

生まれ変わるというのは、即ち前の人生が失われてしまったと同じ。

幻想的な異世界で、私はそう回想していた。

ぷくぷくほっぺに澄んだ瞳、とんがった耳。


(エルフ族、エルフって聞こえるから勘違いでもない)


「成人までずーっと先、どうしようかなあ」


長命種の悩みは人生が長いゆえにどうやって過ごすかの悩み。

ある程度魔法を使えるようになったので、今後の人生の使い方を悩む日々。


「リーシャ、どうだ?」


「うん、似合ってる」


私が自作した服が彼女の凛々しい顔に似合う。

この服は私の転生する前の人生で見たことのある服を再現したものだ。

リーシャはそれをみながら、ハッとなる。


「そうだ!RPGの旅をしに行こうかな」


幼馴染のエルフ、ホロンはこちらを不思議そうに見ている。


「あーるぴーじー?とはなんだ?」


「冒険!」


「冒険?」


「うん。絵本とかで作ったやつ」


「ああ、リーシャが作ってた奴か」


思い出したのかホロンはそれを指す。


「幸い、私の形状記憶魔法は凄く、その凄いから、擬似ダンジョンを作ったり、敵を作ったりすることが可能なの。ゲームの能力だって、この世界の人なら魔力使えば再現可能だし」


ここは現在、エルフの街の私の家の私の部屋。

もう直ぐ区切りの年齢が来るので、なにかやりたいという気持ちだけがあった。


「本みたいな冒険したくない?」


聞いて見たがホロンは苦笑。


「といってもな、モンスターもないし、ダンジョンもないし」


「そ、こ、は、作るの!」


「作るのか?」


「で、私達はそれを動画で撮影してこれを流す」


私達の擬似冒険をテレビ的な立ち位置の魔法で流す。

この世界は、前世の世界で言うところの動画投稿初期時代。

動画投稿する個人なんて珍しく、企業がテレビポジションに居るのが普通の感覚。

つまり、決まったところしかなく、個人の投稿がないので私はマンネリなのだ。

エルフも他の種族も楽しそうに見ているから、マンネリとかいう概念、無さそう。


「それで、最後にラスボス倒してクリア」


「ラスボスっていうと王様か?」


実はラスボスの風格と見た目と肩書きを持つ人がいるんだけど、異世界の王様なのだ。

緩いところに定評がある異世界は、王様も緩い。

まるで、親戚のおじさんである。


「王様なのに国民にオジちゃんって呼ばせるところから世界観、訳わかんないよねえ」


あの人ならノリノリでラスボス役してくれそう。


「と、言うわけで、私達はRPGの旅に出ようね」


「徒歩か?」


「徒歩だけど」


ホロンは冷や汗をかく。

リーシャの思いつきは毎回面白いけれど、くたくたになる。


「折角この格好なんだから、手始めに草を回転斬りするところ撮影しよっと」


「母上のお気に入りの花を切らないようにするんだぞ?」


ホロンはやれやれと一緒に外へ行ってくれる。


魔法で撮影を開始。

草を切る。

私は姫の格好をしているから、本当は剣士役にやってほしい。

というわけで、ホロンにさせた。


「はああ!」


掛け声までの監修もばっちり!


「良い感じ、良い感じ」


「ほら、草切ったらお金出てきたよ」


「なんで出てきた??」


草切っても出てこないのは世の中の常識だ。

はい、1エルフ。


「お金の単位がエルフなのか」


「考えるの面倒い」


リーシャという監督が居る中、ホロンの剣士様という格好での旅は始まった。


「ふう、喉乾いた」


自動販売機があるので、そこで購入。


そして、近くに居た人にこれを売るフリをして欲しいと頼む。


「?????」


突如売り物屋にさせられた人はエルフ二人に混乱しながら飲み物を売る商人をやらされた。

手揉みお願いします。

あ、カブトムシのバックもあるんで、小道具セットしてもらって良いですか?

ありがとうございます。

初めての商人犠牲者は意味のわからないまま、カブトムシというリュックを背負わされ、飲み物を手に報酬と言われたものを暫し見つめると、ゴクリゴクリと飲んだ。

長命種なので一応再起動は早めだ。


その後、この世界の人達は、その場でクエストやちょっとした小ネタなどを言わされる、唐突のエキストラをさせられることとなる


「あの人、凄く困惑していたな」


「そだねえー」


やめた方が良いんじゃないか、という遠回しの言葉は当然通じるわけがなかった。


「動画投稿する前にBGMと字幕付けておかないとな」


軽いシナリオも。

出ないと、見る人も何が起こっているのか分からないだろう。


「まあ、リーシャが良いなら良いが」


投稿日を予約しておき、リーシャは寝る為に自作した自宅を空間からここへ取り出す。


「ホロンの部屋も完備しておいてるから、安心して寝て」


「ああ」


ホロンは疲れたのか即座に寝落ちた。

明日の冒険の為の仕込みをちょちょいとしておいた。

私も後から寝落ちした。

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