第16話

すると、不思議な事にさっきは別次元への扉として機能していたであろうイタリア坂が、今度は全く違う顔を見せている。




 坂の道の両側を木と緑で包まれ、地球を焦がさんばかりの太陽の日差しでさえも遮っている姿が、その時の私にはオアシスのように思えたのだった。


こんな素敵な場所が家の近くにあったのか。


 今まで、(どうして試練を与えるのか?)とか(どうしてうちからコンビ二は遠いんだ?)などと、愚痴ばかりこぼしてごめんなさいっ!


神様にそう謝罪したいくらい、この場所の存在を知れた事が私は嬉しかった。




 今となっては、この坂の下にあったイタリア料理店の名前も分からないし、この坂がイタリア坂と呼ばれている事を教えてくれたマイですら、この坂の存在を忘れているかもしれない。


 しかし、私の目の前には確実にイタリア坂が存在し、私の意識の全てを奪い去ろうとしているのだ。

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