「異世界転生したら“料理”スキルだけ!? でも神々が跪く究極の美食で成り上がる」
ソコニ
第1話「異世界の目覚め」
痛みがあった。全身に走る鈍い痛み。そして、土の匂い。佐藤一馬はゆっくりと目を開けた。
「ここは…どこだ?」
見上げる空は、見たこともないほど澄んだ青だった。東京の空とは違う、何かが混ざっているような、魔法のように輝く青空。一馬は体を起こし、周囲を見回した。
石畳の路地裏。古めかしい石造りの建物が立ち並び、どこか中世ヨーロッパを思わせる景観。だが、それは日本でもなければ、彼の知るヨーロッパでもなかった。
「まさか…」
断片的な記憶が蘇る。深夜のキッチン。最後の仕込み。そして突然の胸の痛み。救急車のサイレン。それが最後の記憶だった。
「俺、死んだのか?」
呟きながら立ち上がると、足元に小さな革の袋が落ちていることに気づいた。中を覗くと、見たこともない金貨が数枚と、羊皮紙のような質感の紙が一枚。
紙には奇妙な文字が書かれていたが、不思議なことに読むことができた。
『異世界「アルテミア」へようこそ。あなたの前世での功績に敬意を表し、少額の初期資金を授けます。幸運を。』
「異世界…?冗談だろ?」
でも、周囲を見渡せば冗談とは思えない光景が広がっている。通りを行き交う人々の服装は明らかに現代のものではなく、遠くには魔法のような光を放つ塔も見える。
「ステータス」
漫画やゲームの知識から、思わず呟いてみると、目の前に半透明の光の窓が現れた。
『名前:佐藤一馬
年齢:25歳
職業:料理人
レベル:1
【スキル】
・料理 Lv10(MAX)
・食材鑑定 Lv8
・調理器具扱い Lv7
・味覚強化 Lv6
・火力調整 Lv5
【特殊スキル】
・創造料理(新たな料理を創造する能力)
【魔法】なし
【戦闘能力】なし
【所持金】10銀貨』
「え…これだけ?」
異世界転生といえば、無敵の剣技や最強の魔法を手に入れるはずだった。だが目の前に表示されたのは、料理関連のスキルのみ。戦う能力は皆無。
「まさか料理スキルだけで異世界サバイバルか…」
溜息をつきかけたが、すぐに気持ちを切り替えた。料理は彼の人生そのもの。東京のレストランで認められなかったとしても、料理の腕だけは本物だった。
「よし、まずは状況確認だ」
一馬は路地から大通りへ出た。石畳の広い通りには様々な店が並び、人々が行き交っている。中には人間とは思えない耳や尾を持つ者もいて、完全に異世界であることを実感させられた。
空腹を感じた一馬は、近くの屋台で食べ物を物色した。見たこともない肉や野菜が並んでいる。
「いらっしゃい、何にするかね?」屋台の主人が声をかけてきた。
「すみません、これはいくらですか?」一馬は串に刺さった紫色の肉を指さした。
「そりゃあグリフォンの肉だよ。2銀貨だ」
「2銀貨…」所持金は10銀貨。高いのか安いのか判断がつかない。
「もっと安いものはありますか?」
「ならこのラットテイルはどうだ?3銅貨だぜ」
見た目はソーセージのようだが、名前からしてネズミの尻尾らしい。一馬は少し躊躇したが、財布の中身を考えると贅沢は言っていられなかった。
「それをください」
銅貨を3枚渡すと、屋台の主人は串を手渡してくれた。恐る恐る一口かじると、予想外に美味しい。スパイシーでジューシー、少し甘みもある。
「これは違う。」一馬は食材鑑定のスキルが発動するのを感じた。「ラットテイルじゃない。豚肉とハーブを混ぜたソーセージだ。」
「おっと、見破られちまったか」屋台の主人は笑った。「料理人か何かか?」
「ええ、まあ」
「この町じゃ珍しいな。腕があるなら仕事はあるだろうよ」
情報収集のため、一馬は主人と会話を続けた。ここはアルテミア王国の首都ルーメリア。王宮を中心に栄える商業都市で、多くの冒険者や商人が行き交う場所だという。
「料理人なら王宮か貴族の屋敷を当たるといいさ。うまく行けば一生安泰だ」
「王宮の料理人ですか...」
「まあ、そう簡単じゃないがな。王立料理学校の出身者しか雇わないらしいからよ」
一馬は考え込んだ。この世界での立ち位置を確立するには、料理の腕を活かすしかない。しかし、王宮や貴族屋敷への道は険しそうだ。
「他に料理人が働ける場所はありますか?」
「酒場か食堂だな。でも今は不景気で、どこも人を減らしてるらしい」屋台の主人は首を振った。「自分で店を出すってのはどうだ?」
「自分の店を出すのか。」一馬は所持金を確認した。10銀貨では店舗を借りるのは無理だろう。
「まずは露店から始めるのが定石だな。初期費用は5銀貨もあれば足りる。場所さえ確保できればの話だが」
「露店から始めるのか。」
一馬の心に火が灯った。現代日本の技術と知識を活かした料理で、この異世界で生きていく。それが自分に与えられた使命なのかもしれない。
「ありがとうございます。参考になります」
屋台を離れた一馬は、町を探索しながら考えを巡らせた。露店を開くには材料と調理器具、そして場所が必要だ。残り9銀貨と7銅貨。厳しいが不可能ではない。
町の中央広場に到着すると、噴水を囲むように露店が並んでいた。食べ物、衣類、装飾品…様々な商品が並ぶ中、一馬は食べ物の露店を注意深く観察した。
どの店も似たような料理ばかり。肉の串焼き、シチュー、パンなど。一馬の頭の中でアイデアが膨らみ始めた。
「和食を作ってみるか。いや、それだけではなく、もっと工夫が必要だ。」
日本の料理技術と現地の食材を融合させた、この世界にない料理。それが自分の武器になる。
宿を探すため町の宿屋街へ向かいながら、一馬は明日の計画を練った。まずは市場で食材の調査。次に調理器具の調達。そして露店の開業許可を得る。
一番安い宿に泊まり、屋根裏部屋のぼろベッドに横たわりながら、一馬は天井を見つめた。
「料理スキルだけで戦っていくことになるのか。」
他の転生者なら、強大な魔法や戦闘能力を手に入れているのだろう。しかし一馬には料理がある。それは彼の誇りであり、人生そのものだった。
「よし、やってやろう」
一馬は握りこぶしを作った。この異世界で、料理の力だけで成り上がってみせる。それが佐藤一馬の新たな人生の始まりだった。
「明日は市場に行って食材を調査しよう。」
異世界の星空を眺めながら、一馬はゆっくりと目を閉じた。明日からの冒険に備えて、深い眠りについた。
---
翌朝、一馬は早起きして市場へと向かった。朝市は活気に満ちていた。見たこともない野菜や肉、魚が並び、商人たちの威勢のいい掛け声が響く。
「食材鑑定のスキルを使ってみよう。」
一馬のスキルが発動する。ドラゴンポテトと呼ばれる紫色の芋は、強い甘みがあり、火を通すと中がクリーミーになるらしい。ガーゴイルの卵と呼ばれる灰色の卵は、実は鳥の一種の卵で、黄身が濃厚だという。
一つ一つの食材をじっくり観察し、時には少量を買って味見をした。知識を蓄えるごとに、一馬の心は躍った。これらを使って何が作れるか、アイデアが次々と浮かぶ。
「一番の問題は調理器具をどうやって手に入れるかだな。」
現代の調理器具はなく、すべて手作業に頼らなければならない。だが、それも料理人として腕の見せどころだ。
市場の片隅で、一馬は古い調理器具を売る店を見つけた。中古の鉄鍋、包丁、まな板…値段交渉の末、4銀貨で必要最低限の道具を手に入れた。
「次は露店を出す場所を見つけなければならない。」
市場近くの広場は賑わっているが、露店の場所代は高そうだ。一馬は少し離れた通りを探索した。主要な通りから少し外れた場所に、小さな空き地を見つけた。人の往来はそこそこあるが、露店はまだない。
「ここならいけるかも」
町の役所で露店の開業許可を申請すると、1銀貨で月単位の許可証が発行された。残りの資金は4銀貨と7銅貨。食材の仕入れにはぎりぎりだが、何とかなりそうだ。
「さて、何を作ろうか…」
一馬は自分の料理スキルを最大限に活かせるものを考えた。異世界の食材で日本料理を再現するのは難しい。だが、日本の調理技術と異世界の食材を組み合わせた新たな料理なら…
「お好み焼きの応用か、それともラーメン風の麺料理か。この世界の材料で作れる料理を考えないと。」
考えながら市場を再び巡り、安価な食材を探した。小麦粉に似た粉、卵の代わりになりそうなもの、野菜、そして安い肉や魚介類。
「よし、明日から始めよう」
一馬は決意を固めた。異世界での料理人生活が、いよいよ始まる。
彼の目には、自信と期待に満ちた輝きが宿っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます