第16話:調合師ギルド

潜入任務は即日開始となった。和也は通常通りギルドでの業務を続けながら、調合師ギルドからの接触を待つことになった。


数日が経過した。和也はダンジョンでの調査任務や、調合室での研究を続けていたが、特に変わった様子はなかった。


「本当に接触してくるのだろうか...」


和也が疑問に思い始めた頃、それは突然訪れた。


彼がアパートから出たところで、見知らぬ男が声をかけてきたのだ。


「佐藤和也さんですね」


振り返ると、そこには30代前半の男性が立っていた。普通のビジネスマンのような出で立ちだが、その目には鋭さがあった。


「あなたは...?」


「私の名前は重要ではありません。あなたの才能に興味を持つ者だと思ってください」


男は微笑んだ。


「調合師としての真の力を発揮する場所をお探しではありませんか?」


和也は緊張しながらも、冷静を装った。


「どういう意味ですか?」


「ギルドでは、あなたの才能の半分も活かせていないでしょう。我々なら、あなたの可能性を最大限に引き出せます」


「我々...?」


「ええ。真の調合師たちの集まりです」


男はポケットからカードを取り出した。


「興味があれば、今夜このアドレスにお越しください。詳しい説明があります」


和也はカードを受け取った。そこには新宿の住所と、「22:00」という時間が記されている。


「考えておきます」


「賢明な判断を期待しています」


男は軽くお辞儀をして立ち去った。


和也は即座に綾小路に連絡した。


「接触がありました。今夜、指定の場所に行くよう言われています」


「了解しました。そのアドレス、我々も把握しています。バックアップを用意します」


和也は緊張しながらも、夜を待った。


指定された時間に、和也は新宿の雑居ビルの前に立っていた。一見普通のオフィスビルだが、夜になると怪しげな雰囲気を漂わせている。


「入ります」


和也は耳の通信装置に小声で告げ、ビルに入った。


エレベーターで5階に上がると、「株式会社ネクストケミカル」と書かれたドアがあった。和也はインターホンを押した。


「どちら様ですか?」


「佐藤和也です。今日、カードをいただきました」


「お待ちしていました。どうぞお入りください」


ドアが開き、和也は中に入った。そこは一見普通のオフィスだったが、奥に進むと雰囲気が変わった。白衣を着たスタッフが行き交い、実験室のような空間が広がっている。


「佐藤さん、よくいらっしゃいました」


声の主は、朝会った男だった。


「我々の施設へようこそ。ここでは調合の真髄を追求しています」


男は和也を案内しながら説明した。


「ギルドでは教えない技術、使わせない素材...我々はそれらを自由に研究しています」


実験室には様々な珍しい素材や、先進的な装置が並んでいた。和也は研究者として、その環境に感嘆せざるを得なかった。


「こちらへどうぞ」


男は和也を小さな会議室に案内した。そこには数人の白衣姿の人物が待っていた。


「皆さん、新しい仲間の候補者です。佐藤和也さん、新宿ギルドの調合師です」


白衣の人々は和也を興味深そうに見つめた。


「佐藤さん、我々は『調合師ギルド』と呼ばれています。かつて公式に存在した組織ですが、現在は...より自由な形で活動しています」


リーダー格と思われる年配の男性が説明した。


「我々の目的は単純です。調合の技術を極限まで高め、ダンジョンの力を人類のために活用すること」


「人類のために...」


和也は疑問を投げかけた。


「でも『赤い薬』は人体に有害だと聞いています」


室内が一瞬静まり返った。リーダーは微笑んだ。


「なるほど、その話も聞いているのですね。確かに現在の『赤い薬』には副作用があります。しかし、それは過渡期の産物に過ぎません」


彼は立ち上がり、窓の外を見た。


「我々の真の目標は『完全なる調合』の実現です。人間とダンジョンの力を完全に融合させ、新たな可能性を開くこと」


「それはどういう...」


「詳細は、あなたが我々の一員になってから説明します」


リーダーは和也に向き直った。


「佐藤さん、あなたの才能は特別です。特に魔力の扱いに関して、非凡な才能を持っています。我々と共に研究を進めませんか?」


和也は迷っているふりをした。


「考える時間をいただけますか?」


「もちろん。ただし、この話は秘密にしてください。ギルドには知られたくないのです」


「わかりました」


「3日後、返事を聞かせてください。それまでこちらの施設を自由に見学していただいても構いません」


リーダーは和也にバッジを渡した。


「これで出入りができます。ただし、特定のエリアは立ち入り禁止です」


和也はバッジを受け取り、感謝の意を示した。


「貴重な機会をありがとうございます」

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