第16話 密会(三)

 翌朝。朝飯を食べるために皆が同じ部屋に集まった。昨晩と同じように。そして、ご飯を食べ終えても皆、話しをしていて自分たちの部屋に帰ろうともしない。これも昨日と同じだ。


 しかし、一つだけ違う点があった。今回は皆、この後に行われる会議が始まることを待っているのだ。


「それでは、今から会議を始める」


アサギリ城、城主の威厳のある声がする。皆は一斉に話すのをやめ、城主の声に耳を傾けた。


「まず、ユザキ城の方々は今後どのように行動する予定で?」


「はい。もし、湯咲ゆざき殿がこのまま姫のことに関して承諾が得られぬようであれば、あの城から逃げ出そうと考えております。」


紺南こんなんが答える。


「その際はどこに逃げる?」


「もし、お許し頂けるのであればアサギリ城に来ようかと考えております」


今度は姫が答えた。アサギリ城の城主は難しい顔をした。


「彼女達を受け入れればユザキ城との争いは避けられない、ということですよね」


家伊けいが言う。


「ですが、それも勝てばいいだけの話。勝てばユザキ城の全てがアサギリ城のものとなる。土地も、権力も、何もかも」


我家わけが言った。


「ただ、負ければその逆となる」


城主が重々しく言う。


「おや、我々が負けると本気で思っているんですか?」


城主は拳を強く握る。同時に家伊も拳を握り締める。


「安心してください。負けることはありません。絶対に」


我家の目からは強い決意が感じられた。


「絶対?随分自信があるようですね。一体何を企んでるんですか?」


紺南が問う。一瞬のうちに不穏な空気に変えられてしまった。


「いえ、何も企んでなんかいませんよ。」


我家は冷静に答えた。紺南にはそれが怪しく見えた。


「……なんですか、その目は。いいでしょう。そこまでお疑いであれば、説明して差し上げましょう」


家伊は上から物を言う我家を殴りそうになる。


「まあ、単純な話です。ユザキ城の城主である湯咲殿とアサギリ城の城主。支持力はこちらの方が断然高いですよ」


我家の言っていることは事実であった。確かにユザキ城の城主である湯咲殿は町の人からの評判が悪い。それはこの場にいた全員が知っていた。


「まあ、それだけではないですが……」


我家は小さな声で呟く。静かなこの部屋でそれははっきりと聞こえた。ここまで耐えてきた家伊もさすがに止めようとする。しかし、城主が目配せをして、それを止める。一体、何を考えているのだろうか。


「それだけではない?他には何を?」


「まあ、教えられませんがいろいろと。六年前、ユザキ城に嵐が訪れたあのときから私はそちらのことを調べておりますので。」


 ユザキ城に嵐が訪れたとき?いつのことだろうか?紺南は考えた。過去十年間、ユザキ城に嵐が訪れたことは一度もなかった。もし、かしたらあの時の?いや、考えすぎだろうか。


 部屋の中はピリピリとした空気になってしまった。薄原すすきはら惣太そうたは部屋の中の空気に怯え、一言も発することができなかった。

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