第4話やだ……私達の野良人間、働きすぎ……!?

元地球人兼元人間の私には、信じて欲しいのに信じてくれない人間不信を加速させる場面でしかないよ。


守衛は可愛い可愛いと叫ぶエルフの集団にビビり出す。

ただでさえ美男美女の風貌に可愛いと言われていれば怖くもなるわな。


それと、守衛の制服にも着目し始める。

何をする人なのかしらと問われるので、この建物を守るための仕事をするんだと軽く説明。


全員がショックを受けた顔をする。


「仕事……」


「守る……」


「嘘ですよね?」


「いえ、守ってます。無断で入ったら彼が捕まえに来ます」


と、追加で述べれば彼らは何度も何度も守衛を見続けて涙さえ流す者も出始める。


どこに泣く要素あった。


「こんなに、か弱い存在が同族を守るというの?」


「涙が止まらん」


「止めろ」


うっかり本音が出たけど口を閉じて言わなかったふりをした。

誰も私のことを注目してないから気付かれずに済んだ。


号泣し始めたエルフ集団をさらに怖くなったのか、腰に付いていたトランシーバーに手をかけて話し出す相手。


その間にちゃっちゃと済ませていこう。

結局、私以外のエルフが人間に群がられる事を夢見て、直ぐに隕石の脅威を取り除く。


首相官邸では突然シグナルが消えて、混乱が生じている。

私はエルフを代表して、今隕石を消したので、それを中に入る対策室に居る人達に伝えてくれと、丁寧に伝言を頼む。


それから1時間待つ。

私は暇で暇で溜まらなかったのでお金を手にコンビニに行き小説を購入。

他のエルフ達は人間鑑賞に忙しそうで、触りたそうにしている。

なんというか、そんなに触りたいのかな?


不気味な心境としか思えない。

思うに、やはり価値観が乖離しているよね。

相容れないけど、そこを受け入れて私は距離を保っておけば良いのだ。


「リリシヤぁ。触って良い人間どこよー。早く触りたいのだけど?」


「さぁ?知らん。触ったら警察来て囲まれるからダメだからね」


「警察?」


「守衛の人よりもさらに肩書きが強い人」


他にも説明の仕方があるにはあるけど、彼らにはこれで十分だ。


「え?可愛いが増えるの?」


なんて勘違い、とも言えないけど、厄介でめんどくさくなるので止めた。

面倒なのは私ね。


腹が立つほど嬉しそうになにかやらかしそうな面々に再度キツく言い含める。


五箇条を思い出させると、彼らは特に五箇条を考えている顔をしてない様子で首相官邸の中に入る官僚達を出待ちのファンのように見える。


こういうの有名人の映像とかで見たことあるので、エルフ達も同じことをしたかったのかもしれない。

真似をして、是非とも御尊顔を近くで見物したいという、ことなのだろう。


「首相の名前聞いても良い?」


何故気になるのだと怪訝に思い、告げていけばエルフの一人がうんうん頷く。


「りょーちゃんだな」


名前をもじったあだ名をつける。

それ、本人に言ったら絶対にギョッとするよ?

やめた方がいいのだが、すでに全員にあだ名呼びが定着してしまう。

もう考えるのやーめよ。


「りょーちゃーん!私たちが隕石をポイしたんでちゅよー!」


首相に赤ちゃん言葉ヤメロ。

相手に対して気を遣っているのではない。

私のお腹の腹筋部分が反応して、笑いそうになったからだ。


よちよち言葉もやめよう。

皆人間達にそれぞれ声をかけ出す。

五箇条勢いで破るな。

エルフ達の長いお耳を魔法で引っ張って思い出させたら、漸く静かになる。

ここはアイドルの舞台じゃないっての。


りょーちゃんこと、日本国首相が大量のシークレットサービスに囲まれて出てきた時、エルフ共の声援及び黄色い声は最高値を更新。


煩い、黙れ。


それさえも一人とて耳に入ってないだろう。

耳を塞ぎ音を遮断。


「首相がこちらを」


どこかの誰か、多分官邸の職員らしき相手がこちらに手紙を差し出してくる。

謎のエルフ集団と話したくないから手紙にしたんだろう。

問題は皆が貰いたがっているということ。

これはリリシヤが取らなきゃいけないのかな。

取りたくない。

もうそれ、呪いの手紙の域。


エルフ達が互いの行動を牽制し合い、陽のエネルギーの筈なのに隠のエネルギーがエルフ達の間を漂い始めた。


そうだ、指名しよう。

良くこちらに質問してくる女エルフに取りに行かせる。


「やっだぁ!指先触れちゃったぁ」


その時、指先が触れたのか、触ってしまったことに大変喜んでおられた。

どうでも良いから、はよ読め。


手紙の内容を声に出して読むのをリリシヤも同じような姿勢で聞く。

それを纏めると「こちらに来て話を聞かせて欲しい」とのこと。


こっちはそれでいい、とでもいうかと思っていたが、やはり彼らが暴走しかねないので入りたくない。

絶対に赤ちゃん言葉で話しかけてしまう。

人間の彼らは立派、というか成人した存在なので良い気持ちにはならない。


悪意もないと理解してもらうとはとても難しいとリリシヤでも流石に思うし、エルフ達を嫌な目で見られたくない。

困ったなぁ、と眉を下げる。


それを眺めたらしいエルフ達は却下されてしまうと予期したのだろう、頼んできた。

いや、頼まれても。


もう投げやりになっても許されるんじゃないだろかと、半目。

責任なんて取れないとため息を吐く。

エルフ達はそれを空気で感じ取り、ゆっくり相手を刺激しないように官邸へ雨に濡れたチラシのように進めた。


カオスになるぞ……。

ごくりと唾を飲み込んだ。

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