第19話 土岐康行

 ゲスノート事件が一段落し、都に平穏が戻り始めた頃、尊氏は新たな懸念を抱いていた。それは、美濃国の守護である土岐康行の動向だった。

 土岐康行は、美濃国で強大な勢力を誇り、尊氏の幕府に対しても、必ずしも従順とは言えなかった。尊氏は、康行の力を警戒しつつも、彼を敵に回すことは避けたいと考えていた。

「土岐康行は、武勇に優れ、人望も厚い。しかし、その一方で、野心が強く、独立心が強い。彼が、いつ幕府に牙を剥くか、予測がつかない」

 尊氏は、義信と頼重に、康行の動向を注視するよう命じた。そして、自身も、康行との関係を強化するため、彼を都に招くことを決めた。

 康行が都に到着すると、尊氏は、彼を丁重にもてなし、信頼関係を築こうと努めた。康行もまた、尊氏に対して、表面的には友好的な態度を示し、幕府への協力を約束した。

 しかし、尊氏は、康行の言葉を鵜呑みにすることはなかった。彼は、康行の真意を探るため、様々な手段を講じた。その結果、康行が、密かに幕府への反乱を企てているという情報を掴んだ。

「やはり、土岐康行は、油断ならない男だ。彼が反旗を翻す前に、手を打たなければ」

 尊氏は、義信と頼重と共に、康行討伐の計画を練り始めた。しかし、康行は、美濃国で強固な地盤を築いており、容易に討伐できる相手ではなかった。

 そこで、尊氏は、康行の勢力を削ぐため、彼の家臣たちに働きかけ、内部分裂を誘う作戦を実行した。また、康行と対立する勢力と同盟を結び、彼を孤立させることを試みた。

 尊氏の策略は功を奏し、康行の勢力は徐々に弱体化していった。そして、ついに、尊氏は、康行討伐の兵を挙げた。

 戦は激戦となったが、尊氏の軍勢は、康行の軍勢を圧倒し、ついに康行を討ち取った。

 土岐康行の死により、美濃国は幕府の支配下に入り、尊氏の権力はさらに強固なものとなった。

「土岐康行は、優れた武将であったが、その野心が、彼自身を滅ぼした。私は、彼の死を悼むと共に、彼の教訓を忘れず、常に民のことを考え、公正な政治を行っていきたい」

 尊氏は、康行の死を悼みつつ、新たな決意を胸に、民が安心して暮らせる世を作るために、歩み続けた。

 頼重は、尊氏の決断力と行動力に、改めて感銘を受けた。

「足利殿、あなたは、常に正しい判断を下し、民を導いてくださる。私は、あなたと共に、この国を平和な世にするために、力を尽くします」

 尊氏と頼重は、互いに深く頷き合い、共に未来を見据えた。

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