第3章3話『未知の領域 その①』

「芭那?どうかした?」

「いや、なんでもない。ちょっと見てくるわ。」

「見てくるって………ああ、その事件?いいよ、でも死なないでね。」

「このくらいじゃ死なないだろ。まあ、人の事言えないけどな………」

「わたしが1度死んだことは気にしなくていいよ。」

「そうか。」

テントの外に出る芭那。


芭那は事件があったという場所付近まで来ていた。立入禁止の文字が数箇所に見え、パトカーが停まっている。

「立…禁止」

芭那は文字に向かって空間を手で引っ掻くような動作をした。

『立入禁止』の文字は、舞との楽しい時間のうちのほんの一部を思い出させた。陽葵や舞とのひとときはとても楽しいものだった、と

警察が立っているようで、パトカーと警察が邪魔になって死体が見えない。

「ふむ………見た感じ怨霊の気配は無さそうだが………」

こう言うが、芭那は過去の経験から油断してはならないことを知っている。

芭那が死体を確認しようと、移動した。

「!!!」

芭那は驚くべきものを目にした。

「な………なんで!?いや、そうか………」

が、瞬時に理解した。

「なるほど。この場所は確か──だったな。」


(ヨシキ祖母、ほっといて大丈夫なのかな………あの錯乱のしよう、相当な精神疾患か、あるいは………ヨシキくん、両親の失踪に加えてこれは相当きついよね。)

陽菜はヨシキの祖母のことを心配していた。

「あー、スマホつかないから藤吉さんと連絡取れないな………」

ヨッシーのぬいぐるみを抱っこしながらスマホの電源をつけようとするが、入らない。

(充電してなかったっけ?このスマホも劣化してるのかな?)

「おねえさん、おやつ食べる?ちょっとくらいなら読んだ友達に食べさせても怒られないから………」

「そうさせてもらおうかな。」

そう言ってヨシキはどこかに行き、しばらくしてせんべいとクッキーを持ってきた。

「ん、おいひい。」

硬めのせんべいとクッキーを噛むと、ボリボリと音が鳴る。歯に挟まるのが気になるが、

「………ヨシキくん、ごはんとか1人で大丈夫?」

ヨシキは首を縦に振った。

陽菜はヨシキの方を見ていた。

(ん?)

すると、ヨシキが小刻みに震え出した。

「お、おねえさん………」

「どうかした?」

「………ううん、なんでもない。やっぱり、そのうちおじいちゃんが帰ってくるからおねえさんはいなくてももう大丈夫だよ。」

「………?そっか。じゃあね、ヨシキくん。」

少し疑問を感じたものの、気にしないことにした。陽菜は少し笑顔めの顔で挨拶をした。


「ただいまです〜!」

陽菜はテントに戻ってきた。

「どこ行ってたんだ?歌恋ちゃんが心配してたぞ。」

「そうだよ陽菜ちゃん〜!」

芭那は、早すぎる寝る準備をしている。

「ああ、ヨシキくんっていう男の子が、えと──」

陽菜は見てきたものを説明した。

「──というわけで、わたしが見てきたのは大体これくらいですが、藤吉さんから見てどう思いますか?」

「ふむ………陽菜ちゃんは体調不良を感じなかったのか?」

「何も。」

首を振る。陽菜は、おぞましい光景を垣間見た時の頭痛以外は特に体調不良を感じていなかった。それどころか、普段から健康優良児で学校の皆勤賞も余裕で取るほどだ。

「怖い人ね………ハサミ投げてくるって………そのヨシキくんが気の毒でならないよ。」

舞がつぶやく。

「あ。そういえばここに来る途中でなんかパトカーがいて、ドラマでよく見るなんかやってましたね。検死かなにか知らないですけど地面に人型のテープ貼るやつが。死体らしきものは回収された後でした。」

しばらく過ごし、夜になった。

テントの中で4人が横になり、徐々に寝息が聞こえてくる。

「すぅ………もちもちぎゅーちようね〜………えへへ………」

口からよだれが垂れる。陽菜もどんどん意識が薄れていき──


(そう。そのまま陽菜ちゃんは何も気づかないまま過ごせばいい………)


陽菜が眠り、暗闇の中。何かの声が聞こえてくる。

(ん………誰?)

(わたしが誰かを知ってはダメ。あなたにとってとてもつらいことなのだから………それに、もう予言のことは考えなくていいみたい。平和になったみたいだし………)

(平和?予言のこと………?)

(そう、ね。もともとが計画していた対策では………いや、陽菜ちゃんは予言というあまりに重い使命を背負ってるから…これ以上つらいあの日の出来事を知る必要は無いんだよ………だからね、もう何も考えないで平和に暮らしなさい………)

陽菜に語りかけてくる謎の声。

(別人格………?ねえ!あなたは………あなたは予言のことを知っているの?)

しかし、陽菜が心の中でそう呼びかけても返事は返ってこなかった。


翌日、2022年8月13日。

「舞………気づいてないのか?」

「何が?」

芭那と舞は一足先に起きて小声で会話している。

「どうやら、長いこと陰陽師をやっていなかったもんでようだな。このニュースの続報だ。まあ、わたしは昨日現場を直接見てきたから気づいたんだが、死体の傍にスマホと──が落ちていた。これには聞き覚え…いや、見覚えがあるだろ?」

芭那が舞に向かってスマホをかざす。

「なっ………まさか!」

「そういうことだろうな。このままでは。行くぞ舞。」


「陽菜ちゃん大丈夫?うなされてたみたいだよ?」

陽菜は目を覚ました。ゆっくりとまぶたを開く。歌恋が心配そうな眼差しで陽菜を見つめていた。

「寝れたのに、全然寝れてない気がするわ………いてて。」

陽菜は首を抑えて曲げる。

「体調が優れないのならあまり外を出歩くな。いろいろな事があったし中で休んでおいた方がいい。」

一瞬の沈黙の後、

「いや………心配なんだ。頼むから、軽はずみな行動は避けてここにいてくれないか?わたしと舞は用ができたからそのために色々とすることが出てくるだろう。」

芭那は意味深な言葉を口に出す。

「藤吉さん、なんか変ですよ?………あぁ、もしかして怨霊が出たんですか?それで霊媒体質のわたしを心配して………」

陽菜はテレパシー程では無いものの、人の考えをある程度は理解することができる。それは、陽菜のコミュニケーション能力によるもの。

「霊を確認した。用ができたからわたしと舞はここから離れる。」

この台詞は、陽菜が得意とすると同じことをしていたのだが、陽菜は気づいていなかった。

「霊が出たとなると何があるかわからないからな。変な噂が広まったりとか。だから、ずっとここにいろとまでは言えないが、下手に物を持ち歩いたり村の外に出たりはするなよ。」

「はい。ところで、物を持ち歩くとはどういう意味で?」

「重要なもん持って怨霊に遭遇でもしてみろ。回収が面倒になるだろ?だからあまり物は持ち歩くな。」

「あー、そうですね。」

陽菜は頷き、素直に忠告を聞く。

「ところで………歌恋ちゃんは霊感はあるか?」

「え?わたしに聞かれましても………陰陽師さんならそういうのってわかるんじゃ無いんですか?」

「………陰陽師のわたしが分析してみたところ、歌恋ちゃんに霊感は、ある。だが、霊感があるからと言って必ずしも遭遇するわけでは無………いや、綾ちゃんが見えていたっぽいから見える人だな。まあ、陽菜ちゃんも歌恋ちゃんも気をつけろよ。」

そう言い残し、芭那と舞はテントを離れた。

テントに残された陽菜と歌恋。

「どこか行く?歌恋は今まで霊に会ったことが無いみたいだけど、霊感があるならいち早く気づけるよね。ま、藤吉さん曰く、萌果と美結が襲われた時はけっこう特殊な状況で霊感が無い人にも見えるみたいになってたっぽい。」

2人はテントを出て外の空気を吸う。

「萌果と美結によると、昨日カレー作ったとこの近くにいるらしい。」

「行くの?」

「うん。そのくらいならいいでしょ。」

陽菜と歌恋はテントを出て、教えられた場所に向かった。

「ここか………みんなどこにいるんだろ?見当たらないなあ………」

地面は小麦色の土で、周りには10数メートルはあるかという木が生えている。騒がしい蝉の声も聞こえる。

「歌れ──」

陽菜が振り向くと、歌恋はそこにはいなかった。

「歌恋………歌恋!!どこ!!!?」

次第に慌てた様子になる陽菜。

スマホの電源を入れようとするが、つかない。

「さっきまでそこにいたのに………まさか、まさか!今の一瞬で怨霊に?」

陽菜は焦った。怨霊の被害に巻き込まれたのではと。

それからしばらく探しても、歌恋は見つからなかった………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る