第2章11話『受け継ぐ運命(さだめ)、日常に紛れ込んだ悪魔の招待状(ささやき)が届いたなら』

「久しぶりだなあ、ここに来るの。」

星乃宅を見て思いを馳せる陽菜。過去の楽しい記憶や苦い記憶が思い起こされる。

陽菜、歌恋、芭那、舞は星乃宅に来ている。天気は晴れでほんの1割程度の雲。

「久しぶり、陽菜。」

そう言って星乃家から出てきたのは、三つ編みが似合う希万里。

「希万里さん!会いたかった!」

ぬいぐるみと一緒に希万里をぎゅっと抱きしめる。

「陽菜はなんでここに?」

「特に急用ではありませんが、来たかったんです。」

「そうか。よしよし。」

「えへへ〜!」

いつものように希万里は陽菜を撫でて、陽菜は嬉しそうにしている。

「ぎゅ!」

「あたたたたっ!痛いってっ!」

陽菜に抱きつかれ、希万里は左腕を抑える。

「何年か前に大怪我して今でも痛むんだ。左腕がまともに動かなくなっちゃってな………」

「あ、ごめん希万里さん………ちゃいのちゃいのとでけ〜。」

今度は陽菜が希万里の頭を撫でる。

「かわいい………」

歌恋がそれを見て呟く。

「そうだ。希万里さん。わたしの母さんにはなんて言って用事を押し付けたんですか?」

「え?あぁ、ただ儀式と祭りの準備を手伝わせてただけだ。」

「そっかあ。もっと、日陽ちゃんと遊びたかったなあ………日陽ちゃんが行方不明になっちゃって………」

陽菜は、日陽がいなくなった時のことを説明した。

(何?じゃあまさか、日陽はってことか?)

希万里は考え込むような表情をする。

「こんにちは………あ、きみたちね!上がって上がって!」

特に理由を言わずとも、星乃ほしの和華わかは快く陽菜たちを受け入れてくれる。和華が手招きをし、陽菜たちは中に入る。

廊下を歩く陽菜たち。和華は戸を開け、部屋に案内する。

「全員あんこはいけるよね?」

和華の言葉に全員が頷く。

しばらくして和華がまんじゅうを持ってきた。陽菜たちはまんじゅうを手に取り、食べ始める。

「ん〜!んま〜!!!」

「陽菜ちゃん、和菓子だとまんじゅうが好きなの?」

「うん!」

歌恋の言葉に笑顔で頷く陽菜。陽菜はまんじゅうの味を気に入っている。

「子供に未来予知能力の発現は?」

唐突に、芭那が和華と悠真に『星乃家の未来予知能力』のことについて聞いた。

「そこまで精密検査はしてないから何とも………正直他人にそういう能力が発現してたとしても調べる方法は無いね。」

「確かに、和華の言う通りだな。」

それに答える2人。

「じゃあ、きみたちはゆっくりくつろいでおいでね!」

そう言い、和華と悠真は部屋を出た。

「ところで話は変わるんだけど。これだけ人数が集まったならそろそろ本格的に対策を考えてもいいんじゃないか?希万里さんも陰陽師の知識はあるようですし。陽菜ちゃんにかけられた呪い。それと、いつ来るかはわからないが予言についてだ。」

真剣な表情で話を切り出したのは芭那。

「実は──」

陽菜は、改めて自分にかけられた呪いについて、綾や沙耶との出来事について説明した。芭那と舞は自分たちの過去について。

「………陽菜は村から出たいのか?」

希万里が心配そうな表情で陽菜に聞く。

「その質問はちょっと違う気がしますね。村は好きですけど縛られるのは嫌。もっといろんな人といろんなところに行きたい。」

「陽菜らしいな………でも解呪方法に当てはあるのか?」

希万里が聞くが、

「いや、祓って解呪されないとなると厳しいですね………」

芭那が首を横に振る。

「2人の過去の話、もしかして東雲家が何らかの方法で怨霊を差し向けた可能性は?」

再度、希万里が聞く。

「それはわたしも考えましたよ。わたしと舞があの時東雲家を出た直後に刺殺事件が起こった可能性をね………」

「そんな、じゃあやっぱり、会えないんですね………」

悲しい顔になる陽菜。

「いや、会えるぞ。降霊術と呼ばれる術を使うんだ。」

「藤吉さん!会えるんですか!?」

今度は驚く表情になった。

「ああ。だが、降霊術には依代となる人間が必要でな。陽菜ちゃんは霊媒体質だから危険がある。それに陽菜ちゃんが杏恋ちゃんと話したいのなら陽菜ちゃん以外に降霊させなければならないしな。」

「じゃあわたしが依代になろう。」

そう提案したのは希万里。

芭那が希万里の方を向き、集中している。

邪魔してはいけない雰囲気なのか、皆なんとなく静かになっていた。

静か。時計と蝉の音しか聞こえないほど静かになっていた。

「………ばかな。降霊術はその人物を知っていれば可能なんだ。なのになんで杏恋ちゃんがいつまでたっても降霊されない?」

いつまで経っても降霊されず、芭那に少し焦りの表情が見えてくる。

「な、なんで失敗したんですか?」「なにがあったんですか!?」

陽菜と歌恋が聞く。

「可能性その1、杏恋ちゃんはまだ生きている。可能性その2、降霊術によってどこかの依代に憑依している最中である。杏恋ちゃんは死んだものかと思っていたが………タイミングが被ることはまず無いだろうし、誰かが杏恋ちゃんを降霊させたまま放置しているということか………?」

「そんな、杏恋ちゃんに聞けばわかるかも知れないのに………」

「すまん陽菜ちゃん。原因はわからないが失敗だ。たしかに警察はそう言っていた気がするんだが、もしかしたらよく似た別人で生きているのかもしれないな。まあ少しは希望が持てたって事じゃないか?という事はだ………わざわざ降霊してまで杏恋ちゃんをいじめようとする悪ガキはいないだろうし、両親は死んでいるから誰か杏恋ちゃんと会いたい人がいるならそれは陽菜ちゃんくらいだろ。」

「でも杏恋ちゃんは両親にひどいことをされていたって。」

「あ、そうか。まあとにかく生きている可能性が高くなったのはグッドニュースだろ?」

「そうですね………また杏恋ちゃんに会いたいです。」

「それじゃあ次は予言の対策に話を移そうか。陽菜ちゃんと歌恋ちゃんにはよくわからない話だろうが、聞きたいなら聞いてていいぞ。まず………予言に出てくる陰陽師はわたしだと思うのだが、舞と希万里さんは依代については心当たりは?」

「………」「………」

舞と希万里は何かを察したかのように黙り込む。

「メサイアの使者が現れし時、最強の陰陽師と最強の依代でそれに対抗せよ。大怨霊の力を陰陽師が依代の肉体に憑依させて、メサイアの使者と戦う準備をしろ………この予言から推測すると、依代に怨霊を憑依させることが必要。危険は伴うが、そこは陰陽師に怨霊のが求められる。そして、使者と戦うために怨霊の力を増幅させるため、霊媒体質を用意する。霊媒体質は………」

一瞬、芭那がその先を言い淀んだ。

「霊媒体質は、怨霊の力を増幅させて使者を倒す足がかりとなる。しかし並の肉体強度で怨霊を受肉、降霊させることはかなりの危険。依代は陰陽師にはつとまらない。意識が無くなるイコール陰陽師の力が使えないということだから。」

「………えっ。それって………」

歌恋が、おそるおそる陽菜の方を向く。

「………………わたし?まるで、わたしが依代みたいな話し方じゃないですか?」

呆然とする陽菜。

「………陰陽師でもないのにその常人をはるかに超える肉体強度。そして呪物から記憶を読み取れるほどの霊媒体質。陽菜ちゃん以外に依代に適任な人物をわたしは知らない。もしかしたら………陽菜ちゃんは予言のために生まれたのではと思ってしまうほどに、依代に適任なんだ。」

残念そうに言葉を漏らす芭那。

「ちょっと待ってください!どうして陽菜ちゃんがそんなに大変そうな役にならなきゃいけないんですか!」

歌恋が叫ぶ。

「それは、陽菜ちゃんが適性を持ってしまったから………」

「嫌です!陽菜ちゃんにそんな危ないことしないで!!!」

歌恋は怒っている。

「わたしが…依代………依代の適性を持ってしまった………?何、それ………死ぬかもしれないって事ですか?」

「………」

芭那は黙り込んでいる。

「………わたしは星乃家じゃないから未来予知能力は持たない(そもそも星乃家は未来予知能力を本当に持っているのか?)。だから予言に関してすべてを知っているわけじゃ無いが………陽菜ちゃんがそうだということは、陽菜ちゃんが怨霊に一矢報いたことを聞いた時、体を治すために触れた時、その体の強さは『依代』なのだと確信した。」

「ちょっと!陽菜ちゃんが可哀想で──」

歌恋がそう言いかけたところで、陽菜は頭痛に襲われてその場に座り込んだ。


真っ暗な闇。

陽菜の意識が暗闇の底に沈んでいく。


「お、おい!陽菜ちゃん!陽菜ちゃん!!!」

芭那が必死に呼びかける。

「………どうかしましたか?」

「いや、陽菜ちゃんが急に頭を抑えて意識を失ったんだ。そんなに時間は経っていないぞ。話を戻そう。」

「………何を話してましたっけ?」

「おいおい………予言の話だったろ。」

「予言、ですか。」

(まさか陽菜ちゃん………ショックで記憶が飛んだとか?いや、まさかな………)

「………わたしは予言の詳細を知っています。」

「──は?」

芭那が驚きの声をあげる。

知っている。そう言葉を発したのは──陽菜だった。

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