第2章9話『この奇妙な物語は、少女たちの奇跡と逸話』
「わざわざバツ印つけてまでなんの目的があるんだろうって、気にならない?」
芭那が舞に尋ねた。
「確かに気になるよね………」
「入るなって言うくらいだから鍵は閉めてあると思うけど、ならなんでわざわざ入るなって念押ししたのか。」
「そうよね。鍵無し相手なら鍵閉めとけばいいし、鍵あり相手ならバツ印や警告をしていようと入られる時は入られる。」
「鍵を持ってないけど扉を開けて入れる人でも想定してたとか?わたしたちみたいな………」
陰陽師の力には、怨霊を祓う術だけでなく身体強化も含まれる。怨霊により人死にが出るということは、大人を易々と殺せるくらいの力があるということ。しかし、怨霊による被害は力業だけでなく怨霊の呪いによる被害も含まれる。
したがって、強化術を身につけていないと力負けする可能性が高いというわけである。
「なら逆の発想で………入られることを望んでる可能性は?」
芭那が思いついたように言う。
「鍵があいてるってこと?確かに、鍵があいててかつ変な印があったら好奇心を刺激されて入りたくなっちゃうかもね。」
芭那と舞は、階段を上り下りして館内を探索している。
「内装…廊下の見た目とかちょいちょい変わるんだ。飽きないな。」
「そうだね芭那。ところで、芭那は杏恋ちゃんのことどう思ってるのよ?」
「どうって………友達ほどでは無いか?うーん………あ、もしかして助けることに執着した理由聞こうとしてる?」
「そうじゃなくて、東雲家…杏恋ちゃんがもしかして村潰し賛成派の可能性とかは考えなかったの?富豪イコール東雲家ってわかった時にさ。」
「何?まさか、舞も賛同してるんじゃ無いだろうな?」
芭那は険しい表情になる。
「いやいや違うって!な、なんかごめん。」
「いや、ごめん言い過ぎた。」
芭那の表情が戻った。
(やっぱり、芭那怒ってる………?)
舞には、芭那が怒っているように見えていた。
東雲家には廊下のパターンがいくつかある。どれも洋風で、白い壁に茶色い床と、素人にも洋風だとわかるようなザ、洋風。明かりも洋風のものだ。
「上の階には無かったか………じゃあ下の階に行ってみる?」
「ねえ芭那………もうやめない?なんて言うか、嫌な予感が………」
「それって怨霊が出るってこと?大丈夫、わたしともなれば残滓レベルでも気づくよ。」
「………」
舞はしぶしぶといった表情で芭那についていく。
階段を降りると、90度のわかれ道があった。
「右と左、どっちだろう?」
「もともとバツ印の部屋に入るなって言われてるのになんでそこまで………いや、そもそも芭那って好奇心のためにそこまでするような性格じゃ………」
「計画の詳細………都市開発計画の詳細がどこかにあるかもしれない。それを探す………そして村全体にその詳細を、
「芭那………」
「わたしは杏恋ちゃんを、梧村を守りたいんだ!どうにかして、杏恋ちゃんを保護して東雲家と西元家を追い出すんだ!岡野さんか斎藤さんなら、きっとわかってくれるはず………」
「ねえ。それなら一緒に探さない?」
「いや、既に怨霊もいないから手分けした方がいい。
「あ、それもそうか。」
「だから、
舞は左、芭那は右の道を進む。
2人がそれぞれ道を進み探索をしている。バツ印の扉を見つけたのは
「あった!」
舞だった。
バギン───
ドアノブを破壊して先に進む。狭い通路を通りながら先へ進む。
また扉があり、それを開ける。するとそこは少し広めの部屋だった。
「ここ地下だよね………なんなのこの部屋?まるでなにかの研究室みたいな感じ………」
白熱電球が3つ、壁には何かのコードがUの字に何本もまとめられてぶら下がっており、その向かい側に本棚らしきものがある。
「日記?ずいぶんと汚れて………これは!」
『都市開発計画について』と表紙に書かれた薄い日記帳。
舞は警戒を怠らず、日記を手に取り読み始める。
【梧村の道路開発、都市開発の計画について。大阪の西元商事という企業から、この計画についての話をもちかけられた。田舎の梧村を都会にするための事業だそうだ。東雲家は梧村に行き、事業に協力する。】
書いてあった内容はこのようなものだった。
「これは………はぁっ、はぁ………まさしく芭那が求めてた!」
引き続き読み進める舞。
そこには、これからの大まかな計画について書かれていた。まず最初に学校の設備を整えること、それから村のほとんどに立ち退きしてもらって道路を作ること。
「まだ、まだ何かあるかもしれない………」
「───というわけで、今後はこのような条件と方法で事業に協力をさせていただきたいのですが、どうでしょうか?」
西元陽太郎が東雲家に用意した書類を渡す。
「ええ、構いません。今後はこの条件で進めましょう。」
東雲凪が書類を受け取る。
「ありがとうございます。」
陽太郎がお辞儀をすると、西元家の3人は東雲家を出て帰っていった。
「ねえ。パパ、ママ………」
杏恋が悲しそうな表情で両親を見つめる。
「どうしたんだ杏恋?」
凪が杏恋の方を向いた。
「っ………村………なんで村無くそうとするの?」
必死に声を絞り出す。
「村無くさないでよ!パパとママが村無くそうとするから、わたし………こんなふうにいっぱいいじめられた!」
袖と裾をまくり、腕と足の傷があらわになる。
「すごく痛かった!すっごく苦しかった!」
叫び終わり、息が切れる。見上げると………凪が手を挙げて平手打ちの構えをしていた。
「ぎゃっ!!!」
(ッ!これは杏恋ちゃんの声!!!)
地下で特に収穫が無く1階より上を探していた時、偶然杏恋がいる部屋の近くを通っていて、杏恋の悲鳴を聞いた。
「おい!何してんだお前たち!!!」
杏恋が凪に叩かれている場面だった。
バリバリバリン!バゴン───
謎の力───芭那の術によって部屋全体が音を立て、ガラスが割れ、花瓶や写真立てが落ちる。
「ひぃっ!」
「うわぁ!」
凪と哭はその現象を目の当たりにし、驚く。
「?」
舞は、机に無造作に置かれている本を見つけた。魔導書のようなデザイン。
その本が気になり、手に取って読み始め───ようと思ったが、なにやら付箋が貼ってある箇所があり、直感で舞は『そこに何か重要なことが書かれている』と感じた。
舞は付箋の貼ってあるページを開けた。その本の言語はよくわからないものだったが、同じページにメモが挟まっていた。
【黄泉様への『願い』について。
・ごく一部の人間しか知らない黄泉様への願いの方法。
魔法陣を描いて呪文を唱えると黄泉様を召喚できる。黄泉様を召喚して『願いを叶えてもらう』ことができる。
・一生に1度しか召喚できず、1度に3つまでの願いを叶えられる。
・願いの回数の増加など、願いの根本のルールを覆すことはできない(もしかしたら抜け道がある?)】
「な………に?」
舞は、そのメモを見て驚かずにはいられなかった。
【・願いを1度叶えると、体に『指輪』が刻まれて脊髄が雑巾絞りのようにされる。指輪は『死亡を止める(?)』効果がある。おそらく不老不死の力ではなく『雑巾絞り』で死ぬのを防ぐという意味。再び召喚してしまうと、指輪が溶けて『死亡止め』の効果が消える
・叶える際に自身の一部が必要。髪の毛や血など少量で可
・他者(魂)への干渉は他者の一部が必要
・諸説あるが、神の魂は負の感情を好むとされている。】
「こ、この記述、は………」
そのあまりの内容に、舞はゆっくりと後ろに下がり尻もちをついた。
「───!?何か変な匂いがする!もしかして、この匂いは。この匂いは───!!!」
変な匂いを感じ、鼻をつまむ。そしてゆっくりと匂いの方向に向かって進む。
(うぷ………)
あまりの臭さに気分が悪くなる舞。
(!この黒いビニールからだ!)
舞は鼻をつまみながら恐る恐るビニールを開ける。
(なっ………)
そこには、小学生ほどの女の子の死体があった。
【陰陽師が殺したらしいこの子をここに隠すことになった。われわれ東雲家は考古学者。考古学に限らず、謎の文化を追うことを目的としている。
死体も利用できるかもしれない。
次の『調べる場所』が決まった記念にここに記そう。
目的地は沖縄県の梧村。犯罪者が流れ込む村らしい。おもしろいものが見れそうだ。西元家の事業は犯罪者を揉み消すのに丁度いい、警察沙汰などの面倒事を避けられるだろうか。】
(何か嫌な予感がする。なら───)
舞は何かを思いついた顔になった。
「結論から言う。この家………やばいわ。」
東雲家の外に出て、今は森の中の芭那と舞。芭那と舞は見てきたものを共有した。
「何かしたら殺すぞと力で脅してきた………力に驚いてはいたが、でも………それがいつまで抑止力になるか………わたしだっていつまでもはりついているのは現実的では無い。そのうえ、グルの可能性がある以上、陰陽師に保護させることも危険すぎる!」
「なら岡野さんや斎藤さんには?」
「わたしの中では信用できる人たちだけど………実際問題、
『難しい』とは、コストがかかりすぎるという意味。アルバイトで例えるならシフトが全然足りないと言ったところ。
「じゃあ見殺しってこと?」
「いや、望みはある!あの子なら、いくらかは守ってくれるはずだ………………っ、とりあえず今は帰ろう。」
芭那と舞は、
「なんか、疲れたな………人のためだとかさ。陰陽師が人殺しをしていた。そんなクズどもの命令で任務を───」
芭那は
芭那は舞に、『館を出るまで警戒を怠るな』と言った。そしてそれには怨霊の気配を探ること、残滓が無いか確認することが含まれている。そしてその警戒は、周囲から怨霊が完全に消滅されたことを確認するまで解かれることは無い。
だかしかし、それは逆に言えば───
「危ない!」
舞が叫び、芭那を突き飛ばした。
「えっ?」
ドブシュッ───
鮮血が飛び散る。
舞は腕をごっそりと持っていかれ、そのまま地面に倒れる。
「ま………い?」
「がはっ───」
「おい、舞………舞………………ッ、貴様ぁぁぁぁっ!」
芭那は怒りの矛先を、突如現れた怨霊に向けた。
「死ね!死ね!!死ね!!!」
執拗に術で攻撃し続ける芭那。横方向に飛ばした力は太い木を何十本も抉った。
そして力尽きるように膝をつく芭那。
「お、おい。舞。死ぬな………死ぬな!ごめん!わたしが
「ははっ、顔………くしゃくしゃじゃん。」
「嫌だ、嫌だ!2人でもっと遊ぼうよ!もっといろんなことしようよ!」
「なら、待ってる………がはっ。」
「待ってるなんてわたしの前で言うな!」
芭那は大粒の涙を流した
「どうせわたしが強くなるんなら舞も陽葵みたいにやめておけばこんなことには!わたしは強いから1人でも足りただろ!」
「ばか。後悔、させないでよ………わたしの分まで、人を、たす………け………………」
芭那は、舞の手を掴もうとした。しかし芭那の手は空を切る。
「舞!舞!うあああああ!!!ぢぐしょおぉ!!!」
芭那は泣いた。
どれほどの時間が経っただろうか。
「行こう………舞の分までもっともっと強くならなきゃいけないんだ。」
芭那は山を降りた。
それを遠くから見ていた、白い着物の女。
「ちぃっ………」
女が舌打ちをする。
「予想より精神が
女が舞の死体の方に駆け寄り、見下ろす。
「いや、それが誰かを考えたところで意味は無い。引き続きわたしは、やるべきことをやるだけ………」
女はその場を立ち去った。
「ん………」
2022年8月11日。芭那は陰陽省の自室の中で目を覚ました。
「おはようございま〜す!もう9時ですよ?わたしもう朝は旅館で食べてきたんですから!!」
とても元気な、陽菜の声。芭那は、陽菜のそのまっすぐな明るさと素直さに助けられていた。
横には、既に起きた舞と陽菜の付き添いで来た歌恋が座っていた。
「おはよう、陽菜ちゃん。いったい何し───いや、そうか。陽菜ちゃんの呪いを解かなくっちゃあな。」
芭那は、ゆっくりと体を起こした。
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