第2章6話『この奇妙な物語は、少女たちの軌跡と逸話 その②』


「どうした?そんな暗い顔して。」

舞がトイレから戻ってきた時、芭那は舞の顔を見てそう言った。

「そ………そうかな?」

舞は大丈夫だと言い張る。

(先生が言ってたことは本当なの?だとしたら………可哀想すぎるよ………!)

「お腹痛いの?顔色が悪い気がするけど………」

しかし芭那は舞を心配している。

芭那は陰陽師の修行で、舞と今まで一緒に過ごしてきた。だから舞の表情がわかることがある。

「あ、そうだ。あした陽菜が白玉団子パーティーに参加するって言ってたんだけど、来る?知り合いなら参加していいんだって。」

「いいじゃん、行こ。」

陽葵の言葉に舞が賛成する。


「姉さん!寂しかった!!!」

陽菜が陽葵に抱きついてきた。

今いるのは、陽菜の同級生の寺本てらもとじゅんの家。寺本純の母の監修のもと、白玉団子パーティーを開くことになった。

「ほらほら、白玉団子好きなんでしょ?泣かないの。」

「びえぇぇぇ………うん。」

泣いている陽菜を撫でる陽葵。

「かわいいね。」

「姉さんのお友達?よろしくね〜!」

「よろしく、陽菜ちゃん。」

陽菜と芭那は挨拶を交わす。

「それにしても、月城すごかったよな!」

「普段から運動しててもああはならんやろって………」

「小栗は何味にするん?」

「おれは苺味かなあ。」

陽菜と同じクラスの寺本純、山田やまだ凌平りょうへい的石まといし祥太郎しょうたろう小栗おぐり悠成ゆうせいが会話している。

「でも月城が今回のヒーローなんだからみんなで祝おうぜ?」

と、純。

会話していると、純の母親が来て白玉団子作りが始まった。

「わー!でけた!」

完成品の白玉団子を見て喜ぶ陽菜。

「あ、陽菜ちゃん上手!」

純の母親が陽菜の白玉団子の出来を褒めた。陽菜は手先が器用なため、白玉団子を上手に作ることができた。

同じ学年の高橋綾と天門沙耶も、白玉団子パーティーに来ている。ドッジボールで無双した結び髪の女子というのは陽菜のこと。幼少期、既に陽菜と綾は出会っていた。

「「「いただきま〜す!」」」

みんなで挨拶をして白玉団子を食べ始める。

「ん〜!んま〜!!!」

目をきらきらさせる陽菜。陽菜はおいしいものには目がない食いしん坊。もちろんスイーツも大好き。

「陽菜。体育って何やってたの?」

「ドッジボールだよ姉さん!わたしが敵チームに当ててトリプルアウト取ったんだよ!しかもそのうち2人は先生でね〜!」

ぬいぐるみに白玉団子を食べさせる真似をする陽菜。

「ん〜!もふもふっ!」

ぬいぐるみを抱きしめることで癒される陽菜。

「………楽しそうでよかった。」

舞が陽菜を見てそう言った。

「ん?どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないわ。ただ健気でカワイイなーって思っただけ。」

「えへへ。ありがとーございます。ヨッシーも喜んでるよねーっ!もふ!」

ヨッシーのぬいぐるみを舞にすりすりさせる陽菜。

「よしよし。」

「わーいわーい!」

舞にぬいぐるみを撫でられ、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ陽菜。


「ただいま〜。」

そう言うが、部屋には今帰ってきたばかりの陽葵、芭那、舞しかいない。

それから月日が流れ………

「ねえ、『予言』について気にならない?」

ある日の休み時間、個別の部屋の中で芭那がそう言った。

「ああ、『メサイアの使者が現れし時、最強の陰陽師と最強の依代でそれに対抗せよ。大怨霊の力を陰陽師が依代の肉体に憑依させて、メサイアの使者と戦う準備をしろ』ってやつね。確かに気になるかも。」

「でも舞。なんで修行中のわたしたちまでその話を知ってるの?いや、座学でそれについて勉強したってのはあるんだけどさ。」

舞の言葉に疑問を投げかける陽葵。

「それが本当かどうかは正直わからないけど、霊や不思議な力もあるから嘘とも言いきれないよね。だったら知っておくことは重要なことなんじゃない?」

「確かにそうかも………」

陽葵は納得した様子。

ドスッ───

陽葵は仰向けで床に寝転がった。

「ふぅ………つかれた。」

「頑張ってるな、陽葵。」

「うん………マジで疲れるね………」

疲れが溜まっていた陽葵はそのまま昼寝をした。


「星乃家が予言について詳しく知っている?」

芭那は、裕子に予言のことについて何か知らないかと聞いた。すると、予言に関しては星乃家が詳しいと帰ってきた。

「そう。芭那ちゃんは向上心すごいね。」

「いえ、ただの好奇心ですよ………」

「頑張って、そして強くなって。」

「はい。」

そう言い、芭那はその場を立ち去った。

部屋に戻った芭那。

「何してたの?」

「ああ舞。予言のことについて詳しく先生に聞こうとしたんだ。そしたら、星乃家がそれに詳しいって。」

「星乃家?ああ、うちの月城家が仲いいって聞いたことある。」

「そう?じゃあわたしと舞と陽葵で星乃家に行かないか?陽葵が仲良いなら会うくらい出来るかもしれないし。」

「わかった。」

こうして、3人は星乃家を訪ねようと決めた。まず3人がやることは星乃家のスケジュールの確認。

「もしもし。」

『はいもしもし。どなたでしょうか?』

陽葵が電話をかけた。受話器から聞こえてきたのは女の声。

「陰陽師修行中の月城陽葵と申します。」

『ああ、陽葵ちゃん!どうかしたの?』

月城家と星乃家は関わりがあるため、会ったことが無くとも互いの家に着いてなんとなく理解していることがあった。

「あの、突然なんですけど………星乃家の方に会うことってできますか?ご都合がつく時で構いませんので………」

『良いけど、なんでか聞いてもいい?』

「予言について聞きたいことがあるといいますか………陰陽師の先生が、星乃家は予言に詳しいと言ってまして。」

『わかった。ちょっと予定を確認してくる。』

しばらくの間───

『8月5日はどう?』

「その日でお願いします。」

そして、8月5日。

「お邪魔しま………」

3人を出迎えたのは、2人の男女。名を星乃ほしの悠真ゆうま星乃ほしの和華わかと言った。

「ああこれ気になっちゃったかな?」

和華が盛り上がった腹部をさすっている。

「もうすぐ、双子の赤ちゃんが生まれるの。」

「きみたちが陰陽師修行中の子たちだね。月城陽葵ちゃんと………そっちの子は藤吉芭那ちゃんかな?」

「はい。わたしは横山舞と言います。」

「とりあえず部屋に案内するから靴脱いで上がっておいで。」

悠真に案内される3人。星乃家の内装は、修行場より茶色が濃く、少し木のつやが少ない。

「座って。それかこの部屋の中だったら寝転がっててもいいからね」

「はい。」

和華に促されるまま、畳部屋の机の周りに座る。

「今日は時間を作ってくださり、ありがとうございます。」

芭那が座ったままお辞儀をした。

「それで、予言のことを聞きたいんだったね?」

「はい。」

「わたしたちの血が特別って言われてるのは、本当。っ、はぁっ、はぁっ………」

和華は苦しそうにしている。

「休んでろ。」

「ごめんね………そうさせてもらうよ。」

悠真は和華に休むように言った。和華はそれに従い、横になる。

「星乃家の血が特別………それは一言で言うと、特別な才能を持って生まれてくるからだ。」

代わりに悠真が説明をしはじめた。

「今から言うことはあまりにも突拍子もない話。それは………………」

話を聞いていた3人が固唾を飲んだ。

だ。」

「「「───はぁ!?」」」

驚き。そして数秒間の硬直。

「み、未来予知の才能って、そんなのあるわけ………いや、そもそもそれを言ったら陰陽師の力が突拍子もない話か………」

「ひとまず信じないと話は進まないよ、陽葵。あの、あなたたちがその才能を持っているんですか?」

「いや、俺は未来予知の才能は持っていない。和華も本人曰く持っていない。」

悠真は一呼吸おき、

「その昔、星乃家は予言を書き記したんだ。そして、陰陽師の信用できる者に予言を伝えた。星乃家であっても才能を持って生まれてくるかはわからないらしいから、ほぼ完璧に予言を書き記すことが求められた。そして、その予言を陰陽師の間に求めた。」

「拡散………?」

芭那が考え込む表情をする。

「きみたちは修行中とは言え、とても信用できる。正式に実務を経験できたなら、予言の真意について話そう………あ、そうだ。折角来てくれたんだから菓子をご馳走しよう。まんじゅうが確か残ってたはずだ。一応聞くがあんこは大丈夫か?」

悠真の問いに、3人全員が大丈夫と答えた。

そして悠真がまんじゅうとお茶を3人分持ってきた。

「お茶は熱いから気をつけて。」

「はい。いただきま〜す!」

まんじゅうを頬張る3人。特に、陽葵は美味しそうに食べている。


数日後。

「あれ、陽葵は?」

「陰陽師の修行はキツすぎたのかな………ん?」

机の上に置き手紙があった。

【2人へ。今まで一緒に過ごしてくれてありがとう。色々考えたけど、やっぱりわたしは陽菜のそばにいてあげたかった。だから陰陽師はやっぱりやめる。逃げたみたいになってごめんね、まだわたし実務の経験も無いのに………って、実務はもっと大きくなってからだったかな?いろいろしんどくて楽しかった。住所書いとくから、良かったら遊びに来てね。陽葵】

手紙を手に取り、震える芭那。

「っ、そうか………陽葵らしいな。」

「………芭那、泣いてるの?」

「いいや、泣いてない。」

「そう………やっぱり、姉妹仲良くがいちばんよ(そうじゃないと、あまりにもさ………)。」


さらに年月が流れ、2人は高校生になった。

「ね、舞。わたしたち今日から………」

「うん。はじめての実務だね………」

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