第2章4話『静寂の底から目覚めるもの』

「萌果は誰か好きな人いるの?」

「そういう美結こそ〜。誰かいない?」

陽菜たち4人は恋バナ中。

「中埜くんは結構イケメンじゃない?」

「美結は中埜くんが好きなの?」

「そうじゃないけど1番ましかなって。」

「じゃあ歌恋と陽菜は?」

陽菜と歌恋に話題を振る萌果。

「たしかに中埜くん顔も悪くないし、なにより礼儀正しいって感じがする。自然とクラスは見えてるからわかるんだよね。」

「陽菜ちゃんさすが。」

「まあクラス見ててわかる通り、吉井くんは顔もそんなだしよく癇癪起こすからモテなさそうな感じはする。」

「そうだよね、いちいち授業中も変な動きされて気になって授業集中できないし迷惑なんだよ!」

美結が呆れたような表情で愚痴る。

「でも、入学当初はそんな素振り無かったんだよね………たぶん何か訳があるんだと思うけど。」

陽菜は首を傾げる。

「いくら陽菜でもそれは無いって!」

「吉井にそんな理由あるわけないでしょ!」

萌果と美結は陽菜の言葉を否定した。『いくら陽菜でも』とは、陽菜の人間関係の上手さと洞察力を発言。

「それで、陽菜と歌恋は?」

美結が聞いた。

「仲良くしてるよ。」

陽菜が答えた。

「う、うん。そうだね………///」

歌恋は恥ずかしそうにしている。

「じゃあさ陽菜、普段何してるとかあるの?」

今度は美結が興味津々そうに聞いた。

「あ、えと………///」

今度は陽菜が恥ずかしそうになった。

「歌恋、は………///かわ、いい。」

何をしているかと聞かれ、変なことを考えてしまう陽菜。決して体目的で付き合っているわけでは無く、歌恋を愛しているから。欲が強くはあるのだが、決して他人に体を預けたりしない。

とはいいつつ、歌恋といると時々妄想をしてしまう。

「ふふっ。陽菜ちゃんも可愛いよ。ちゅっ。」

「ひゃうっ///」

陽菜が恥ずかしい声をあげる。既に2人にはバレていると分かったからか、隠そうとしていない歌恋。

「なになに、アツアツじゃん〜。」

萌果がにやにやしている。ここに来る前は察してはいても知ってるわけでは無かったため、萌果と美結にとっては新鮮な反応なのだ。

「陽菜。ぶっちゃけ、シてるの?もしかして、こっちに来てから2人でシた?」

美結が萌果と同じくにやにやしながら聞いた。

「ぅ………っ///」

ストレートに聞かれ、陽菜の頬が紅潮した。頭が妄想で埋め尽くされる。

「〜〜〜ッ///」

恥ずかしさのあまり、顔を手で覆い縮こまる陽菜。

「わたしは陽菜ちゃんのそういう反応が好きなのよ。」

「陽菜ってこんなカワイイ反応するんだ………」

「知ってる陽菜の性格からするとすっごい意外だよね………なんとなく陽菜と歌恋の関係察してたとはいえさ。」

歌恋、萌果、美結は口々に言葉を発し、陽菜の方を見ている。

「はわわ………」

紅くなった頬を必死で鎮めようとする陽菜だが、元に戻るのに1分以上の時間を要した。

「陽菜って意外とからかいがいがあるかもね?」

美結は少し嬉しそうな表情だ。

「も〜………あ、そんでこれからの予定は?」

「それが、一旦は中止だって。あんなことがあってちょっと予定を続けるのは良くないって。」

「マジか………暇になるな………」

陽菜は美結の説明に、絶句したように声を漏らした。

(たしかに、誘拐事件があったんじゃあそうだよね………中止ってことは、なんとかなったっていう報告が無いんだ。藤吉さんがまだその怨霊元凶を祓っていないからなんとかなったって言えないんだ。)

「結局さあ。なーんにもやること無くなっちゃったよねえ。」

美結が呟くように言った。

「まあまあ………そうだなぁ………わたしは久しぶりに村の儀式見に行くよ。よかったら見に来る?もう大丈夫、藤吉さんが手を打ったからさ。」

「………てことは、お化け絡みの話なの?」

美結が察したように陽菜に聞いた。

「うん………まあね。でも、藤吉さんなら大丈夫だよ。わたしにはわかる、あの表情はがあるって表情だよ。」

「………ま、陽菜が言うんなら大丈夫だね!」

萌果が言った。やはり陽菜は信用されている。

「あ、通知だ。」

陽菜はLINEの通知内容を確認する。


《陽菜ちゃん。一応聞いておくがみんなは無事か?》

メッセージを送ったのは芭那だ。

《一応ちょっと見て回りましたけど大丈夫です。みんな無事のようです》

《そうか、わたしはひとつ気になったことがあるから時間が来るまで人を探す。仕事の依頼では無いんだけど、個人的に気になることがあってね》

《そうですか、わかりました。》

そのメッセージを最後に、芭那はトークルームを閉じた。

「生贄が食われる時間まではまだあるよな。」

周りを見渡すと、何人かの男、巫女服の女たちが神社の周りを掃除していた。

「流石になんの情報も無しに探すのは難しいか………いや、情報は。」

芭那は意味深な表情になった。

「この筆跡、どこかで見たことが………」

芭那は神社を後にした。


憲子は、憲子を拾ってくれた老人の家で服を選んでいた。

「フードがあるやつがいいわね………あとマスクもしよう。」

「好きな服を来て構わんが、合うのはあるのか?」

老人が憲子に聞く。

「大丈夫ですよ。そのくらい探します。あ、マスクひとつください。使い捨てのでもいいですから。」

そしてマスクをもらい、家を出た。憲子が選んだのは体型が服。夏であるため、その中でもできるだけ薄い服を選んだ。

「あ、陽菜ちゃんに連絡しようかな。」

憲子は既に陽菜とLINEを交換している。


陽菜たち4人はスーパーに買い物に来ていた。今すぐというわけでは無いが、暇つぶしに食べる用にお菓子を買う目的。

「陽菜ちゃん、あの商店街じゃなくていいの?あそこ思い出の場所とかなんでしょ?」

歌恋が聞いた。

「わたしにとってはそうだけど、だいたいティーンのパンピーにはこういうでかいところで買うお菓子の方がいいでしょ。」

「陽菜ちゃん………なんか、なんてことない細かいところに気遣いができるのも陽菜ちゃんのいいところなんだなあと思う。」

「ありがと、歌恋。」

「ひとりひとつずつでいい?」

「そうだね、買いすぎると食べきれないから。」

お菓子コーナーに行き、各々が買いたいお菓子を選ぼうとしていた。

「何にしよっかな〜。やっぱ堅揚げポテトかコンソメパンチがいいな〜っ。」

陽菜はお菓子やジャンクフードの類が好きだが、野菜が嫌いなわけでは無いため健康にもある程度は気を使って野菜も食べている。

しかし、1人暮らしを始めてから歌恋と付き合いはじめるまでは陽菜の行動を止める人がおらず、陽菜はジャンクフードや肉を多く食べることを含め、やりたいことだけをやっていた。それでも、陽菜の体は丈夫でジャンクフードを食べまくっても体調を崩すことは無かった。

歌恋と付き合いはじめてからは、陽菜は自分だけでなく歌恋の体調や自分の体型にも気を使うようになった。

「歌恋と出会ってから色々気を使うようになったけど、ここで健康食タイプの菓子を選ぶのは無粋だよね………無粋の使い方今のであってるっけ?まあこっちにしよ。」

陽菜はポテチのコンソメパンチを籠に入れた。

「陽菜ちゃんは何にしたの?」

「コンソメパンチ。」

「あー!2人とも選んだんだ。」

「みんな決まった?じゃ会計行こ。」

4人が会計に行こうとした時。

「ん?」

なにやら視界に気になる光景を捉えた。

「ママ………パパはどこ?」

小学生くらいの男の子が母親の服を掴みながら寂しそうにしていた。

「ママの前でパパの話はしないでって言ったでしょ!」

「じゃあ寂しいからおもちゃ欲しいよ!Switch返してよ!」

「ダメ!無駄遣いはよくないことしか起こらないんだから!」

母親が男の子の腕を無理やり引っ張っていた。男の子は泣いている。

陽菜はそれを見て

「おい!」

男の子の母親に声をかけていた。

「え?」

母親が振り向く。

「何やってんですか?子供が泣いてるでしょう………」

「は?どこの誰かもわからない人が教育に口出さないでくれます?」

プチッ───

何かが切れる音がした。

「あなたそれでも母親ですか。」

そう怒鳴ったのは

「陽菜ちゃん………どうしたの?」

陽菜だった。歌恋は心配そうな表情になっている。

次第に周りの注目を集めていく。

「どこの馬の骨ともわからないようなやつに何がわかるの!?」

「あっあ〜。泣かすことでしか子供を教育できない無能が教育論を語りますか〜?とても子供が悪いようには見えませんけどねぇ〜?もし仮に理由があったとして、無理やり腕を引っ張る理由が思い当たりませんがぁ〜。」

煽るように、頭の横で指をくるくる回す陽菜。

「こっ………のクソガキ!」

母親が陽菜に向かって手を振り下ろした。

スッ───

陽菜はそれを余裕で見切り、流水を模した拳法のように指をまっすぐ揃え、綺麗な姿勢で受け流した。

「感情で向かってくる鹿の攻撃を受け流すことなんて簡単なんですよ………お馬鹿さん。」

母親は尻もちをついた。男の子の母親に向かって見下ろすような姿勢になる陽菜。

陽菜は人の感情がそれなりにわかるうえに、身体能力も高い。感情で向かってくる相手の動きは非常に単調なため、カウンターで相手を攻撃せずとも無力化することができる。

(簡単………だったら何であの時、んだろう?)

陽菜が思い出していたのは、ナンパ男3人に絡まれた時のこと。機内でのトラブルや今は受け流しや掴みだけで無力化していたが、ナンパされた時はそうでは無かったのだ。

「ちっ………」

舌打ちをしながら母親は子供を連れてその場を立ち去った。

「陽菜ちゃん………大丈夫?」

「ははっ、せいせいしたよわたし、ああいうヤツムカつくんだよねえ………子供の腕を引っ張るとかさぁ!」

「でも、いつもの陽菜ならなにか理由があるんじゃないかとか考え」

歌恋がそう言うが、

「考えたくもない。子供に暴力を振るう母親クソババアの言うことなんて。」

陽菜にしては珍しく、シリアスな場面で歌恋の意見に賛同しなかった。

「それって陽菜ちゃんが母親を嫌いだから?」

「否定はできないかもね。ただ、わたしの母さんは暴力や法律違反の類。だったら尚更、を許…見過ごすことはできないよね。」

「陽菜ちゃん………」

「………会計行こ。」

揉め事が終わり、注目の視線は通常通りに戻った。

(………母さんが暴力行為をしたことが無いって、本当に?)

陽菜たち4人は会計を済ませ、外に出た。

「ねえ陽菜ちゃん………もしわたしが誰かにNTRねとられたりしたらどうする?」

「え………普通にやだ。そんなことなったら生きる希望を失うよ。」

「大袈裟すぎない?」

「そんなことないよ萌果!他に心の支えがいたとしても、大切な人がいなくなっちゃうのは寂しいんだからっ!」

むくれ顔になる陽菜。

「かわいい………」

歌恋は陽菜のむくれ顔も好きだ。


空が紅くなってくる頃。

芭那はまだメモの差出人を探していた。そして神社に戻ってきていた。

「………あいつ」

芭那は気になる人物を視界に捉えた。

「すいません、ちょっと尋ねたいことがあるんですが………」

芭那が声をかけたのは、マスク、帽子、サングラス、体型がわかりづらい服………憲子だった。

「どうかしましたか?」

枯れたような声を出す憲子。

「あなたの名前は?」

「(!!!まさかこんなところで………となるとあの名前はまずいかな。憲子とは別の偽名を使おう)秋山あきやまなおです。」

「すみません、わたし宛にこれを書いた人を探しているんですが………声、大丈夫ですか?」

「ぢょっと風邪気味なだけですよ………ごほっ。ずみまぜん、よぐわがりませんね。」

「まあまあ。おにぎりでも食べますか?そのくらいなら風邪気味でも簡単に食べられますよ。」

「はい?」

憲子、もとい直が首を傾げる。

「最近の食品は健康に配慮したものが多いといいますし。あなたもおひとつどうですか?今すぐにでも買いに行ってさしあげますが………」

「なんなんですかあなた………」

「………喉、やられてないじゃないか。」

「!しまっ───」

「………きみ、風邪ひいてないだろ。なぜ風邪をひいていると嘘をついた?もし仮に不特定多数の人間から正体を隠す目的があったとして、なぜそこまでする?その目的もあるのかもしれないが………わざわざそうした理由は………不特定多数の中でも特に正体がバレたくない人物だからだ。」

「っ………」

「誰だかわからないが、ついてこい。」

芭那は村長宅に行き、先祖代々村長を脅してきた怨霊のもとへ案内してもらうことになった。




「死ね!死ね!!死ね!!!」

森の中にこだまする声。そして、芭那の前に横たわる、ひとつの




(怨霊………ああ、そういえばわたしは昔………)

ふと、芭那は昔のことを思い出していた。


「ねえパパ、日陽ちゃんは?」

陽葵は、日陽が帰ってこないことを心配していた。

「家に戻ったんじゃないか?」

照彦がそう答えるが、根拠は無かった。

「陽菜は今何をしてるんだ?」

「友達と一緒にいる。」

「そうか。」

部屋には2人。小声で話をしている。

「そろそろ行くよー?」

恵子が部屋に入ってきて声をかける。

そして、3人は支度をして玄関の扉を開けた。


夜になり、陽菜たちは儀式を行う場所にいる。

(この人数なら母さんが来てもバレないよね………怖い。)

広い空間。中心には薪があり、100人近い村人が集まって来ている。全員が来れるわけでは無かったが、それでもかなりの人数だ。

「そういえば、儀式って村の風習…イベントだから萌果と美結はわざわざ来なくても旅館でゲームしてれば良かったのに。」

「何言ってるの陽菜。陽菜は寂しんぼでしょ。」

「そーそー。」

「萌果………美結………だいすき!」

陽菜は萌果と美結を抱きしめた。

「あーずるいよ。わたしも。」

歌恋もその中に混ざる。

「ねえ、儀式って何するの?」

歌恋がほんの少し興味津々そうな表情をした。

「見てたらわかるよ。といっても大した意味は無いけどね。あ、3人ともわたしが周りから見えないようにしといてね。」

「「「うん。」」」

陽菜はスマホの電源ボタンを押して画面を表示させた。夜で暗く画面が眩しいため、明るさを下げる。

《藤吉さん、そっちの進捗はどうですか?》

《村長の案内で、怨霊退治に向かうところさ。心配しなくていい》

《それと、紙は読みました?》

《ああ。なぜかわたしに正体を知られたくないみたいだ。わたしにあの紙を渡したいと言うことは陰陽師だろうが、知らない人だ。といっても偽名だろうが。そろそろ予言の時が来るとでも言いたいのだろうか?》

《偽名?差出人に会ったんですか?その人は横谷憲子(よこやのりこ)って名乗ってました》

《横谷憲子!?わたしの方では秋山直(あきやまなお)と名乗っていたが、そっちでは本当に横谷憲子と名乗ったのか?》

《はい。それがどうかしましたか?》

《いや、気になっただけだ。横谷か………》

《もしかしてLIAR GAME知ってます?》

《おぉ、陽菜ちゃんも知ってるのか。わたしは原作全巻読んでいるが。》

《おお〜!あ、そろそろそっち頑張ってくださいね。》

《ああ。任せとけ。》

陽菜はトークルームを閉じた。

「あの陰陽師さんから?」

「うん………お、キタキタ。」

薪の近くに巫女服の女が立っている。

巫女はマイクを持ち、

「みなさん今年もお集まりいただきありがとうございます!」

そして、儀式の説明が始まった。。

内容はこう。まず、巫女が薪に火をつける。周囲には火が燃え広がらないよう仕掛けが施されている。そして、何人かの代表者が任意でコメントをした後、聖火と呼ばれるものを薪に投げ入れる。代表者は、立候補かランダムとなる。その場で立候補が出なければ巫女がランダムで代表者を選ぶ。

と言っても、毎年行われている伝統行事のためここにいる殆どが内容を知っている。

「はい、俺が立候補します!」

大きな声。そう立候補したのは───

「あ、涼さんだ。」

「陽菜ちゃんよく名前覚えてたね………」

「藤吉さんが言ってたからだよ。」

涼はマイクを受け取った。

横山よこやまりょうです。今は亡き妹のまいの為にも、弔ってあげるという意味も込めて、村を守ってくれている神様には感謝しています。」

涼が聖火を投げ入れる。聖火といっても何の変哲もない松明である。よくありそうな村の伝統といった感じで、死者を弔うなどの意味が込められている。

陽菜は、一連の流れで何か違和感を感じていた。

火で周りが照らされる。

「次、どなたか立候補者はいませんか?………………………でしたら、そこの………メッシュと卵の刺繍の女の子お願いします!」

「げっ。」

指名されたのはなんと陽菜だった。

「えぇ!?………ごめん、誰か代わり行って。」

陽菜たちの方を見てる人も見てない人もいる。陽菜は3人の間にしゃがみ、なんとか誤魔化そうとしている。

陽菜の心臓の鼓動が早くなる。陽菜は、視界に恵子を見つけていた。うまく恵子から見えないように、3人を盾にして隠れていた。

「わたしが行くよ。」

歌恋が代わりに前に出た。

「あなたは?」

巫女が聞いた。

「代理です。わたしのお友達はとても恥ずかしがり屋なので、ごめんなさい。」

「コメントはありますか?」

「わたしは旅行者ですのでよくわかりません………とりあえず、聖火を投げ入れればいいんですね?」

「はい。それではお願いします。」

歌恋が聖火を投げ入れた。その後、できるだけ陽菜たちのもとへ戻った。といっても、ただ普通に静かに歩いただけのため特に効果は無い。

そして次の指名が入る。指名は無理に応える必要は無く、その場合は次に指名するか巫女が自分で投げ入れるかのどちらか。

「また会ったな。」

涼が陽菜たちに声をかけた。

「こんにちは。」

陽菜がそれに挨拶で返す。

「あいつ………えと、藤吉芭那の様子はどうだ?あの金髪の。」

「今は仕事があるみたいなのでここにはいませんよ。LINEは交換しましたが今は話しかけない方がいいかと。」

「………きみも陰陽師のことを知って?」

「最近、怨霊に出会いました。そこを藤吉さんが助けてくれまして。」

「そうか。芭那は優しいからなあ。」

「そういえば祭りの時藤吉さんの様子が変でしたが、何か───あ、やっぱ無しでお願いします。」

「なんで聞きかけてやめるんだ?」

「藤吉さんにとっては聞かれたくないことでしょうから。なんとなくわかるんです。」

「そうか。気遣いができる子なんだな。きみの名前は聞いたっけ?」

「月城陽菜、です。こっちはお友達の歌恋、美結、萌果です。」

陽菜は祭りの時に少し会った程度の涼とも会話ができた。


「こっちじゃ。そろそろ奴が腹を空かして待っておる。」

怨霊は、人間の負の感情だけでなく人間そのものを食べることもある。

「生贄を捧げなければ奴が村に出ていって、阿鼻叫喚の地獄絵図となるじゃろう。」

「心配するな、村長。」

芭那たちは地下の洞窟を歩いている。

「ここ、か………」

ゆっくりと扉を開ける。ここから先は危険なため、芭那だけが中に入る。

「っ、なるほど………こいつが外に出たら、確かにヤバいことになるな………だが、わたしは最強だ。」

怨霊が芭那たちに気づいた。長い体のうち数パーセントを芭那の方に向ける。

「貴様が、生贄か………さあ、我が元へ来たれ………」

(こいつ………強い!並の陰陽師じゃ手が出せないわけだ。本当に頼ったのか分からんが、村長が陰陽師に頼る発想にならなくなるのもうなずける。)

怨霊がゆっくりと声を出す。

「今までいったい何人の人を喰った?」

「喰った人数など覚えておらぬ。人の血肉は美味かったぞ。村長を脅せば面白いように人間や怨霊をくれる。」

「わかった。もう話はいい………死ね。」

芭那と怨霊からとてつもない力が立ち昇る。そして───

「終わったのか………」

と、村長。

「強かったが、全く問題ない。村長………これでもう罪を犯す必要は無い。」

芭那が村長の手を取ろうとしたその時。

「ありがとう。」

ことが終わるタイミングを見計らい、陰陽師が姿を現した。

「斎藤さん!」

「わたしが後処理をしておく。と言っても念の為被害が拡大しないよう怨念の残滓をだけだけど。だから儀式を楽しんできていいわよ。」

「斎藤さん、前から思ってましたがよく働きますね。儀式は楽しむものなんですかね?」

「村の伝統を村人が楽しまなくてどうするの?」

「そうですね………」

芭那たちはその場を後にした。

「さてと。残滓を仕事をしなくちゃね………」


「で、誰だ?横谷憲子さん。」

「………あの子と知り合いだったのね。」

「その言い方だと、きみもだろう。」

芭那と憲子は今、陰陽省にいる。儀式に参加するのは間に合わなかった。儀式が終わったと陽菜から連絡があったのだ。

「………なあ。どうしてなんだ?どうしてわたしを?」

「なんの事?」

「わたしにその正体がバレたくない人物で、かつ陽菜ちゃんを知っている人物。わたしに正体を知られたくない人物はいないかと片っ端から検索しまくって………1人、思い当たる人物がいた。その理由は………。そしてそれはわたしと近しい人物。となると1人しかいない………何をやってるんだよ!なんでわたしの前からいなくなったんだ、舞!」

過去を思い出し、涙目になる芭那。

「………………変装くらいじゃ、隠し通せないか。」

直、もとい憲子は顔を隠しているものを取った。そこから現れたのは………頭の後方上部あたりに付けられた大きなリボンが特徴的な、芭那のよく知っている『友達』の顔だった。

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