親友の死の真相を探りに来たら、霊に襲われ呪われちゃいました──予言の使命といつか夢見た自己の喪失──
美和蘭 翠(みなぎし すい)
『陰陽師との出会い』
プロローグ『あの夏始まった、いつか途切れた夢の始まり』
少女は、
(これは何………わたしは何を見てるの………陽菜姉?)
「残念でした!神の力を借りて願うことは、神を殺すことには使えないのよ!!!」
そいつは口角を上げ、白い歯を見せながら笑う。
「あっははははは!久しぶりね!!!月城陽菜………と呼ぶべきかしら?」
「何をした!お前は誰だ!!!」
にやけ顔で笑うサイドテールの女の子に、着物を着た金髪の女が叫びながら問いかける。
「正規人格はもう味わい尽くして使い物にならないけど、この分岐人格の方はまだ絶望を知らない!使えるわ………いひひっ!」
サイドテールの女の子を、その知り合いたちが険しい表情で見つめている。
「言っておくけど!神に楯突こうなんて思わない事ね!わたしの要求はひとつ………わたし対月城陽菜でゲームをしましょう!時間内に指定した場所に来なければこの国を滅ぼす!神の力を見たければ来なければいいわ!」
「くそっ、従うしかないってことね………」
金髪の女の横にいた、大きいリボンをした茶髪の女が悔しそうに唇を噛んだ。
「なんで神ともあろう者が、一個人の絶望を味わうためにここまでする?」
金髪の女がサイドテールの女の子を怒鳴りつける。
「わたしを呼ぶ者は狂ったやつばかりだからよ!あなたたちには分からないでしょうね………絶望って美味なのよ?あは、きゃはははは………」
背を大きく反って笑うと、長い髪が靡いて目を隠した。
「それじゃは場所は………やはり東雲家がいいわ!理由はそこで行うゲームで知ることになる!それにしても………つくづく可哀想な子だねぇ………友人も親も人の心が無くて………稀に見る逸材!美味!」
サイドテールの女の子は、何かに取り憑かれたかのように興奮気味になっている。それを見ている者たちは、その禍々しい気迫に押されて何も言い返せずに怯んでしまう。
「力を欲するものは狂い、絶望する………絶望のゲーム。内容はこの子の好きな謎解きと脱出ゲームにしましょうか。」
「ああああぁぁぁっ!!!」
酷い悪夢だった。5歳の日陽は悪夢にうなされていた。
目が覚めると見えたのは、木造の天井。今はまだ夜で、日陽は悪夢で寝付けず起きてしまった。
その日は、ある人の提案で家の子供たちでお泊まり会をしていた。同じく5歳の子供が何人かと、引率として20歳近い月城つきしろ陽葵ひまりがいる。
「どう………して?」
汗がびっしょりだ。
「ん………なに?」
日陽の声が大きかったため、同じ部屋で寝ていた
「茉希がいない………」
日陽があたりを見渡すが、いない。一緒の建物で寝ていた
「茉希、仲良くなれたと思ってたのに………だめだったのかな?」
日陽はしょんぼりとした。茉希は、つい最近まで家族と打ち解けていなかったのだ。それをみんなで一生懸命根気強く接することで、やっと茉希が笑顔を見せた。
そう思っていた。日陽たちは茉希が打ち解けてくれて嬉しかった。なのにどうしていなくなってしまったのか。日陽たちは悲しくなった。
こうしてはいられないと、寝ている
夏の夜の森。建物は森の中にあるのだ。
虫の囀りが夜の森に響く。今日はあまり暑くなく、外に出られる気温だ。
「こわい夢見てた………陽菜姉がおばけみたいになっちゃう夢………」
「あ、はるひおばけのはなしがすきだったね!ひなさんがテレビみせてくれてたもん!」
日陽の話に紅炎が反応した。
「あ、うん………そうそう!タケルがかっこよかったの!」
「タケル?おばけのタケル?」
日陽も紅炎の言葉に少しだけ笑顔になった。
夜の森の中を歩くが、誰も見つからない。なんとなく人の気配がありそうな方向に歩くしかなかった。つい最近まで人と関わりたがらなかった茉希が村の住宅地に戻ることは無いだろうと考えてのことだ。
「ねえ、陽菜姉はいちばん茉希のこと気にかけてたよね。」
日陽は、親戚の月城陽菜のことを思い出していた。いつも優しくしてくれて、無愛想で人と関わりたがらなかった茉希にいちばん根気強く接していた。陽菜のコミュニケーション能力は茉希の心を開くのに一役買った。
「うん。おかあさんがいってた。わたしとかれんもかぞくだって………」
紅炎と結菜は星乃家の血筋ではなく、諸事情により養子として引き取られた子供。
道は日陽が覚えているので問題は無かった。
しばらく森の中を歩いていると、明かりが見えた。
「焚き火?」
日陽が目を凝らして見ると、それは炎だった。そこに人影がいるように見えた。
「「「え………」」」
焚き火の傍にいたのは、大人の2倍程度の身長を持つ異形の何かだった。そいつには四肢と顔があり、頭が肥大化していた。
そいつは何かを食べていた。口からは血が滴り落ちていた。
「「「いぃやぁぁぁあぁぁぁ!!!」」」
叫んでしまう。バケモノが気づき、食べる手を休め3人の方を見る。
「茉希!!!」
日陽は叫んだ。逃げようと思っていたが足がすくんで動かない。
バケモノは3人に向かって口を開ける。
「あぎっ」
紅炎がバケモノに頭から食べられた。
「ぐぁ」
続いて結菜も食べられた。間髪入れず日陽も食べようとバケモノは口を開け………
「く………痛い。でもこれで、日陽を救えた………」
誰かの声がする。
(希万里、ねえさん………?)
なんとか頑張って開けた目から見えたのは、よく知っている顔。
「へへっ。また少し近づいた………」
白い着物を着た女が木の影から顔を出した。掌を広げると、禍々しい色の玉が出現した。
手をかざすと、バケモノが禍々しい玉に吸い取られていく。
───2019年8月9日、儀式前夜。記録…沖縄県梧村において、女児3人が死亡。遺体の損傷が激しく人の判別が不可能だった。その日3人のうち何人かと同じ場所で宿泊していた月城陽葵の証言により、星乃家の3人の遺体と断定。現場には3つの遺体と、4人分の血の着いた服が落ちていた。血の着いた服のうちひとつは、星乃日陽を庇ったという女性のもの。その女性は死亡していないが、重大な怪我を負って左腕が殆ど機能しなくなっていた───
現在。
「はぁ………」
女子大生はため息をついた。
いつか夢見た自我の喪失。夢を諦めたあの時から、自分なんていなくなってしまいたいと何度思ったことか。
「ん?」
大阪のとある空港。女子大生の持っているスマホが鳴った。女子大生はぬいぐるみを肩に乗せながら電話に出る。
自分なんていなくなってしまいたい、という思いを踏みとどまらせたのは、友の存在だった。
「もしもし、
『いや〜何してるのかなと思ってさ!』
「あぁ、それがさ。杏恋ちゃん………実家の近くに住んでた友達の訃報で………」
『あ、ごめん………』
「別に大丈夫。」
女子大生は少し寂しそうな表情をする。
『それでさ、聞いてよ〜。文学部の校外学習のこと覚えてる?』
「あー。夏休みにやるって言ってたヤツね。わたしは用事ができて参加しないことにしたんだけど。なんか場所が知らされてないやつだよね。なんで場所を知らされてないんだろ?」
集合場所だけ知らされて、行き先を知らされていない校外学習。
「それで、それがどうかしたの?」
『それがさ、
「ああ、それはお気の毒したね………」
『んもう、なんで〜?』
女子大生が友達と電話をしていると、空港の係員が女子大生たちの方に来た。
「あ、ごめん!もう行かなきゃ!飛行機乗るからまたしばらく後でね!」
女子大生がスマホをポケットに直した。緑のメッシュがされた長い髪が靡く。
「お荷物お持ち致しましょうか?そのぬいぐるみ、可愛いですね!」
「はい!わたしのす〜っごく大事な家族ですから!」
係員に荷物のキャリーケースを持たせ、空いた両手でヨッシーのぬいぐるみを抱きしめた。全てがもふもふでできているぬいぐるみは、抱きしめると気持ちよくて眠ってしまいそうだ。
「ん〜………えへへ………」
女子大生はぬいぐるみを抱いたまま目を閉じかけた。
「月城様?」
「あ、すいません!行きましょう!」
女子大生は慌てて目を開け、係員の案内についていく。
(久しぶりだなぁ。ごちそうパーティーあるかな?)
親友の訃報を聞き、村に帰ることにした。それとは別に、久しぶりの村が楽しみでもあった。ただ、1つ懸念していることがあった。
「母さん、まだいるだろうなあ………だる。」
案内され、飛行機に乗り込む。
(なんか、慣れない空気だなあ。まあ普段飛行機とか乗らないしなあ。)
席に座りしばらくすると、飛行機が飛び立った。
「今は大学一年で………高校から一人暮らし始めたんだよなあ………」
今までの人生を思い出していた。
「にしても、杏恋ちゃんに会うために1年前にも梧村に帰ってきてたけど………」
その日のことは強く記憶に残っていた………正確には、謎に夜の森で倒れていたことと、親友の家を訪れてからの記憶がすっぽり抜け落ちていたこと。その謎の状況、記憶が抜け落ちていたことが強く記憶に残っていたのだ。
「あの時なんで森の中で倒れてたんだろ?」
ジャージの腕部分には卵のアップリケ、頭には黄緑色のメッシュ。活発そうな見た目の女子大生は、顔にかかったサイドテールの髪を手でどけた後、深呼吸をした。
これは、失われた
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