第一章

ある日の非日常

第1話

ーーーあれは今から3年前の出来事。




「はいっ、じゃあ今日の授業を終わります。



お疲れ様でした。」



桜が咲き誇る、春の季節。



私、三条葵は大学の合間に始めた個別指導塾のバイトに勤しんでいた。



「三条先生~」



授業終わり、講師室に向かう途中の廊下でふいに後ろから声をかけられ振り向く。



この声は…。



「どうされました?」



そこには、よく見慣れた毛糸のベストに身を包んだ優しそうな顔をしたおじいちゃんが。




彼がこの教室の塾長、すなわち1番偉い人なんだけれど…室長を前にすると、このとことん人受けが良さそうな顔のせいかいつも気が緩んでしまう。



うちの塾は完全にこの塾長の個人経営で、バイトを始めたその日からずっとお世話になっている人だ。



「実は来週から新しい生徒持って欲しくて、だね。沢山生徒持ってもらってる所申し訳ないんだけど…頼んでもいいかな?」



室長は申し訳なさそうにしながら顔の前で両手を合わせる。



この仕草は今まで幾度となく見てきた室長のお得意のお願いポーズである。

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