異世界の物価は1000分の1みたいです。 ~10円を美少女に与え続け愉悦するおっさん(40)~

草和す~つ

001 為替レート1000倍。

 タイやエジプトの物価は、場所にもよるが日本の半分くらいになるらしい。

 つまり、俺が今持っている10円が、単純計算で20円になる訳だ。


『え!? きょ、今日もお小遣いくれるっての!?』


 普段、俺の姿しか反射しない縦長の鏡、いわゆる姿見は今、異世界の美少女をひとり映している。


「そうだよ? ほら、手え出して?」


 俺は10円玉を握った手を――鏡に突っ込んだ。

 手首まで一気にぶち込んだ。

 不思議な事に、鏡は割れていないし、手首が痛む事も無い。

 鏡に突っ込んだ手首の周囲からは、青白い波紋が少々広がっている。


『し、仕方ないわね……』


 実は、鏡ごしに俺の部屋と異世界が繋がっており、手首だけが異世界に旅行しているという事になる。


「はい。毎日同じだけあげるからね?」


 じゃらじゃらじゃらじゃら。

 さっきまで手に握っていた10円は、大銅貨10枚に変化し、彼女の手の平に収まった。

 ちなみに大銅貨10枚で、日本円にして1万円分の価値がある。

 10円が大銅貨10枚に大変身。


 つまり、日本円の価値は異世界通貨の――1000倍!



『こ、こんなに貰っても、べ、別に、感謝とかしてあげないんだから!』


 1万円相当のお金を手にした彼女は、眉毛をハの字にしつつ強気な事を言ってのけた。


「いいよそれで。おじさんが勝手にやってる事だし」


 だってたかが10円だし。そっちからしたら1万円相当だろうけど。


『う、うう゛っ。人間のクセに、生意気よっ!』


 そう言う彼女は人間ではなく――立派な魔族、というか魔王の娘らしい。

 魔族とはいっても姿形は人間ベース。

 彼女の側頭部には2本の黒い角が生えており、紫色の細い神経の様な模様が描かれている。

 角の根元は、肩まで伸びた美しい桃色の頭髪で隠されていて、前髪はおかっぱ。

 翡翠色の瞳は大きく、若干吊り気味。

 齢13だというのに、年齢不相応に胸は大きく、腰は細く、足は長く細い。

 顔も身体もなにもかも、まるで漫画から出て来たキャラか何かかと勘違いするくらいの造りをしている。


「キャンディちゃんは可愛いなあ」


 生意気と評価されたので、こちらも評価を返してみた。本音で。


『嘘吐かないで! アタシが可愛くない事なんて、知ってるんだから! ふんっ!』

「嘘じゃないけど?」

『絶対嘘! アンタ、アタシに親切にして、何しようって訳!? 何企んでんの!?』

「うーん……」


 いじわるついでに、ちょっと試しておきたい事がある。

 最低かもしれないけど、まあやってみよう。


「キャンディちゃん、お金、返してくれる?」

『え゛!?』

「何企んでるのか知りたいんでしょ? 教えてあげるよ。ほら、返して?」

『一度あげたのを取り上げるとか、サイッテー!』


 なんて言いつつ、素直にお金を返却してくれたキャンディちゃん。

 ちょっと涙目なのが実に可哀想で可愛い。かわいそかわいい。


「よいしょっと。……まあ、そりゃそうか」


 キャンディちゃんから受け取った大銅貨10枚は、こっちの世界に来ると10円に両替し直されていた。

 もしかしたら銅貨を手に入れられるかと思ったけど、そんな訳は無かった。

 ただの興味だけど、異世界の銅貨、欲しかったかもなあ。


『それで何よ。アンタは何企んでんのよ、教えなさいよ』

「はいこれ」


 俺は握り拳を鏡に突っ込み、キャンディちゃんの手の平の上で拳を開いた。


『うわっ! な、なによアンタ!』


 じゃらじゃらり。

 キャンディちゃんの手の平にあるのはなんと、大銅貨20枚。


『なんで倍に増えてんのよ! もう!』


 お金が倍になり、嬉しそうにニヤケているキャンディちゃんクソ可愛い。


「おじさんはね、君みたいな可愛い女の子が喜ぶ姿が見たい。ただそれだけなんだ」

『うっわキモすぎ!』


 うーんその笑顔、20円じゃさっすがに安すぎる。

 なんてコスパの良さだ。


「ふひひ、キモキモおじさんが毎日キモキモ大銅貨20枚あげるキモね?」

『うわあ……』


 ドン引かれた。そりゃそうか。相当にきっつかっただろうな。俺もそう思うわ。

 なんて考えていたら――ぴぴぴ、ぴぴぴ、ぴぴぴ。

 出勤時間を知らせるアラームが、スマホから鳴り響いた。


「おっと、そろそろ行かないと」

『あ、まって!』


 手首をひっこめようとしたら、キャンディちゃんに両手で握られ止められた。


『……おかね、ありがと』


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!

 少女の柔らかく暖かな手! そして、あれだけ感謝しないとかキモイとか言っておきながら!

 なんだかんだ結局良い子! 可愛い! 好き!

 むしろ10円20円しか渡してない事に罪悪感がある!


「ごめんなさい! ケチってごめんなさい! 毎日大銅貨100枚にします! 申し訳ございません!」


 なんなら毎日300枚でもいいです!


『ひゃっ!? ……あ、アンタどんだけお金持ちなのよ!』


 いいえ金持ちなんてとんでもない!

 40歳の平社員おっさん、その名も夢無幸太郎ゆめなしこうたろうでございます!

 本来であれば、キャンディちゃんみたいな美少女と話なんて出来ないゴミ童貞です!

 ゴミクソカス童貞ですみません!

 こうしてキャンディちゃんに謝り倒した後、職場へレッツゴー。

 さあ、キャンディちゃんに貢ぐために、今日もおしごと頑張ろうじゃないか!

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