第14話 クリスの脳内マップ
次の十五階層のボスは、ホブゴブリン二体を連れたゴブリンジェネラルだった。長杖に持ち替えたシオンが、範囲凍結で全員凍結させた後、ゴブリンジェネラルをクリスが倒し、二体のホブゴブリンは、シオンが砕いて倒した。
シオンの範囲凍結は現状猛威を振っている。魔力が豊富にあるからこそ取れる戦法だが、クリスとしては、これに頼りきりになってはいけないと思っており、毎回何かあっても動けるように用意していた。
十六層からは、また様子が変わる。十一階層から十五階層までと同じく人工的に石を積んだような壁だが、そこに苔だけではなく植物が生えていた。
それを見た瞬間、クリスは嫌な顔をする。
「うげっ……植物かぁ……」
「何か不味いんですか?」
シオンにはよく分からないので、周囲を見回しながら訊いていた。
「植物系のモンスターの擬態は、本当に見分けが付かないんだよ。それに、しつこく追ってくるし……あまり火は使わないようにしてね。延焼してヤバい事になるから」
「分かりました。じゃあ、風にして斬り裂きましょう」
「出来るの?」
「はい」
長杖から魔法銃に入れ替えて握る。それを見てから、クリスが歩き始めるので横に並んで歩いていく。しばらく歩いていると、クリスが立ち止まった。釣られてシオンも止まる。
「どうしました?」
「嫌な音が聞こえる。シオンちゃん! ちょっと失礼!」
クリスは、剣を鞘に納めて、シオンをお姫様抱っこする。シオンは、突然の事に顔を真っ赤にするが、クリスが全力で元来た道を戻り始めたので、自分達が行こうとしていた方向を見た。すると、そちらから多くのモンスターを引き連れた冒険者が走ってきているのが見えた。
「お、お姉さん!」
「何体くらいいる!?」
訊かれて、ざっと数える。冒険者四人の後ろに植物のモンスターが蠢いている。同じようなモンスターばかりなので、数えるのに一瞬混乱してしまうが、それでもシオンは、すぐに答えた。
「十以上はいます。奥の方にも何体か見えますね」
「全く! 植物系のモンスターを甘く見たな!」
「処理します?」
シオンは魔法銃を構えながら訊く。それに対して、クリスも一瞬考え込む。
「冒険者に当たらないように出来る!?」
ここで冒険者に当ててしまえば、冒険者達を殺してしまう事になる。なので、出来る事なら、それは避けておきたいのだった。
「う~ん……厳しいかもです」
「なら、正面方向をお願い! こっちもモンスターが出て来るから!」
「はい!」
クリスに抱えられている中で、シオンはある事に気付く。それは、自分達が来た通路に繋がる分かれ道に出来ていた複雑に編まれた蔓によって出来た植物の壁だった。
「植物の壁?」
「通路を塞がれてるの! 先の方の壁を壊せる!?」
今からその通路の壁を壊すには、危険が大きすぎる。なので、その一個向こうにある通路を塞いでいる壁を取り除くように指示した。それに対して、シオンは大きく頷く。
「任せてください」
シオンは狙いを定めて、風属性の弾で植物の壁を破壊する。その途中で出て来た花と蔓で出来た植物型のモンスターが現れる。名前はプラントクリーチャー。シオンはプラントクリーチャーに向かって、魔力を過剰に込めた風属性の弾を撃ち込む。
着弾した途端、プラントクリーチャーをズタズタに斬り裂いた。そうして出来た通路にクリスは、迷いなく入っていく。現れるプラントクリーチャーや全身が花で出来たフラワークリーチャーなどをシオンは次々に倒して行く。その後ろから冒険者達が追ってきていた。
「何でこっちに来るんでしょう?」
「安全になってるからだよ。私達が通るって事は、私達がモンスターを倒している可能性が高いって事だから。向こうも生き残るために必死なんだね。うざいけど」
このままでは、クリス達も危険なままだった。なので、クリスからすれば、さっさと消えて欲しいとしか思えない。
クリスはひたすら走り続ける。元来た道を正確に戻る事は出来なかったが、それでも十五階層に上がる階段まで辿り着いた。
「あっ、階段です」
「まぁ、ここに着くように走ったからね」
「もしかして、頭の中で地図を作ってたんですか?」
「勿論。そうじゃないと帰れないから」
クリスは、ここまでの道程の全てを覚えていた。頭の中でマッピングが完璧に出来ていたからこそ、新しい道を走りながら、階段へと向かって行くことが出来たのだ。
クリスは階段を駆け上がっていく。
「もう一回ボスと戦う事になるかもだけど、十五階層で休憩しようか」
「分かりました」
まだボスが復活していないので、ボス部屋を素通りして十五階層の小部屋を目指して走り続ける。小部屋に着いた段階で、シオンが壁を作り出したので安全部屋が出来た。
「ふぅ……つっかれたぁ……」
クリスは、シオンを降ろしてから、壁に背中を付いて座り込んだ。そこにシオンが水を渡す。
「ありがとう」
「いえ。ダンジョンって、さっきみたいな事がよくあるんですか?」
「う~ん……まぁ、良くある事では無いんじゃないかな。あれが良くあったら、私達の探索なんて、全く進まないだろうし。良い迷惑だよ。取り敢えず、一旦寝てから、また出発で」
「はい。一応、これを飲んでおいてください」
そう言って、シオンは黄色い液体の入った瓶をクリスに渡す。
「これってスタミナポーション?」
「はい。体力回復には、これが一番なので」
「そっか。ありがとう」
クリスはレモン味のスタミナポーションを飲み干してから、シオンにキスをして眠りに就いた。その間に、シオンはここまでの地図を魔法で映し出す。
(これを全部覚えているって、お姉さん凄すぎ。私はこうして地図を作れるから分かるけど、これを脳内で構築して、あの状況でも冷静に考えて動けるって、相当凄いよ。お姉さんが通った道は、本当にしっかりと回り込む形になってるし……)
シオンは、改めてクリスの記憶力に舌を巻いていた。採取のために外に出た時もある程度地形を覚えていると言っていた事も思い出していた。シオンには、魔法があるので、自分で覚える必要はなく、地図を読めれば良いというだけだった。
だからこそ、ここまでの通路を全て覚えているという事実が、クリスへの尊敬度を上げる事に繋がる。
(私が役に立てるのは、荷物運びと戦闘だけかぁ……まぁ、私にはこれもあるし、戦闘で役に立てなきゃ意味ないよね)
シオンは自分の髪を触りながら、クリスのために出来る事を考えていく。自分が使える魔法を最大限使って、もっとサポート出来ないかと。
(氷結とかのワンパターンな戦法は駄目だよね。いつでもどんな時でも適応出来るようになれれば……でも、さっきみたいな場所では火気厳禁みたいだし……そういうところも覚えないと。ダンジョンでの慣例はある程度覚えておいた方が良いかも……今度本を買っておこう)
シオンはそんな事を考えながら、自分の魔法によるマッピングを少しずつ改良していく。全ては自分を助けてくれたクリスのために。
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