ダンジョンと錬金術と恋
月輪林檎
第1話 入学と出会い
──大丈夫! 心配しないで。お姉さんが守ってあげる! あなたの傍にいてあげるから……
────────────────────天歴二〇〇二年四月一日
天歴二〇〇二年四月一日月曜日。デイブック錬金国のイスト学院入学式が終わった。茶色の髪を肩まで伸ばしたクリス・サンライトは、身体を伸ばしながら指定された待機所へと移動していた。その隣には、高校からの友人のチナ・ジャーナルがいる。背中まで垂れている黒い三つ編みを揺らしながら歩いていた。
「クリス緊張してる?」
「そりゃあね。冒険者学部の近接学科に入学出来たのは嬉しいけど、イスト学院の方針のせいで強制的に錬金調合学科の誰かとパートナーにならないといけないってのがさ。知らない子とのパートナーってちょっと緊張しない? ちゃんと仲良く出来るかなって」
「いや、クリスなら大丈夫でしょ。馬鹿みたいにコミュ力があるんだから」
「馬鹿みたいとは何さ。これまで会わなかっただけで、これから会うかもしれないでしょ」
「コミュ強なのに、変なところで考えすぎだよね。いや、だからコミュ強になれるのか」
「全く人を馬鹿にして……あっ、ここか。待機所っていうから、どういう場所かと思ったら、運動場じゃん」
「ここでパートナーが決まるんだ。どうやって、決めるんだろう?」
「さぁ? 取り敢えず、中で待機してよ」
クリスとチナが待機所となっている運動場に入って待機していると、着々と冒険者学部の生徒が集まってきた。
「そういえば知ってる?」
「何が?」
何の事か分からないクリスは、眉を寄せながら首を傾げる。それを見て、チナはクリスが知らないと思いにやりと笑う。
「今年の魔術学部に飛び級生が入ったって。しかも、
「えっ!? 魔力量が多過ぎるっていうあの?」
「そう! しかも、錬金調合学科に入学したらしいよ」
「えっ!? 純白髪なら魔法科に入れられそうなものだけど」
「さすがに、本人希望を通すしかないでしょ。それで入学しなかったら、学校としても痛手でしょ」
「まぁ、ほぼ確実に優秀な生徒だろうからね。飛び級で純白髪なら首席?」
「だろうね。魔術学部は、首席生徒に首席の証であるペンダントを掛けさせてるって言うから、結構分かりやすいと思うよ」
「あぁ~、何か聞いた事あるかも」
「その子とパートナーになるかもよ?」
「あははは、そんな子が、私なんかを選ぶわけないでしょ」
そんな風に二人が笑っていると、運動場の前にある朝礼台のような高台に筋骨隆々な男の教師が立った。
「さて! これで全員か!? 我々近接学科は、錬金調合学科とパートナーを組む事になっている。我々は言わば調達人だ! 錬金調合学科が欲する素材を手に入れる。これが仕事である! ダンジョンに潜る冒険者として、多くの経験を積める事を祈る! では、ここに錬金調合学科の生徒を招く。選ばれるのを待つだけではなく、自分も相手を選ぶ権利を持っている事を自覚して行うように! 以上!」
その言葉と共に、錬金調合学科の生徒が運動場に入ってきた。どんな子が自分のパートナーとなるのか。クリスは、少し緊張しながら待っていた。
そして、人混みの中を潜り抜けて、ローブを着た小さな少女がクリスの前に来た。幅広の帽子を被っているため、顔は見えない。
「はぁ……はぁ……」
一直線にクリスの元まで来たのか、その少女は肩で息をしていた。だが、クリスはその前に一つ気付いた事があった。それは、その少女の髪の毛が真っ白だという事だった。つまりは、先程チナの話にあった飛び級生という事だ。
少女が顔を上げると、少し幼さを残しているが、整った容姿をしている。
(あっ、可愛い)
クリスも率直にそう思った。少女は、クリスの顔をジッと見て、肩から提げている鞄を漁ろうとする。そこで、横から男が割り込んできて、少女は転んでしまう。
「痛っ……」
「おっと、小さくて見えなかったわ」
男は少女に向かって見下すような表情をしながらそう言う。そこから男は一転して、爽やかな笑顔でクリスを見る。
「やぁ、俺とパートナーになってくれないか」(首席のガキが真っ直ぐ選んだやつだ。こいつも優秀なんだろう。まぁ、優秀じゃなけりゃ、適当に遊んで捨てれば良い。パートナーの変更は可能って聞いてるからな)
そんな内心を秘めながら、男はクリスにパートナーの申請用紙を差し出す。
(うわぁ……無駄にイケメンだぁ……)
男は容姿だけ見れば完全にイケメンだった。それは、クリスにとってもイケメンに見える程に。だが、それでもクリスは直前の行動を見てしまっている。目の前にいるイケメンがわざと少女にぶつかっているのを。
クリスがちらっと少女を見ると、少女が一瞬悲しげな顔をしてから顔を伏せるのが見えた。それを見たクリスは、即座に決断する。
「ごめんなさい。私、この子に申し込まれたばかりなの。当然、了承の返事をしたから、あなたとはパートナーになれない」
そう言って、クリスは少女に手を差し出す。少女は恐る恐る手を伸ばして、クリスの手を掴む。それと同時にクリスは少女を引っ張り上げて立たせた。
「なっ、何を言っている!? こいつとは会話すらしてなかっただろ!?」
「何でそう言えるの? ずっと見てたの? もしかして、この子の後を付けてきたとか? ストーカーじゃん。引くわ」
「子供弾き飛ばして、下卑た笑みを浮かべている奴に好印象なんて抱く訳ないでしょ。ほら、帰った帰った!」
クリスとチナから立て続けにそう言われた男は怒りによって顔を真っ赤にしていた。さらに、チナは大きな声で言ったため、周囲からも注目されている。自分の行動を周囲に知らされた男は、舌打ちをしながら去って行った。
それを見届けるまでもなく、クリスは地面に膝を突くと、少女の身体に付いた砂を払っていった。
「大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます」
「良いの良いの。正直、ああいう馬鹿は嫌いなんだよね」
少女に付いた砂を払い終えたクリスは立ち上がる。そんなクリスを見て、少女は思い出したように鞄に手を突っ込み、クリアファイルを取り出した。そして、その中に入っている申請用紙を取り出そうとすると、クリスが手で制した。
それをクリスが拒否したと捉えた少女は、ショックを受ける。
「あっ! 違う違う。拒絶した訳じゃなくてね。ここだと用紙に記入出来ないでしょ? ここで提出する必要はないから、ちゃんと机のある場所に行こうか」
「あ、はい。お姉さん」
少女は嬉しそうに小さく笑いながら頷く。だが、クリスは最後の一言が引っ掛かった。
(ん? お姉さん? いや、まぁ、飛び級生だし、年齢から言ったら年上になるだろうけど、そこまで言われる程離れてないはずだけど……)
とそこまで考えてから重要な事に気が付いた。
「あっ! 自己紹介してなかったね。私は、クリス・サンライト。よろしくね」
「クリス……お姉さん……あっ、私は、シオン・レインフォードです。よろしくお願いします」
シオンは、クリスの名前を刻みつけるように言ってから、自己紹介をした。
「シオンちゃんね。それじゃあ……あっ、向こうにカフェがあるみたいだから、そこでやろうか」
「はい」
クリスは、シオンを連れて運動場を後にする。
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