美少女ダンスグループのマネージャーになったけど幼馴染みしか眼中にありません! ~ただし既に振られています~

uruu

第1話 ダンスグループ

 高校一年の2月。学年末テストも終わって何も無い昼休みを送る俺が机に突っ伏していると周りの男子たちの会話が聞こえてきた。


「今日の放課後、ベアキャット見に行くか?」


「ライブあるのか?」


「あるよ。卒業生を送るライブだけど誰でも見に来ていいらしい。中庭でやるそうだ」


「だったらもちろん行くよ。当たり前だろ」


 「ベアキャット」か。今、校内で話題のダンスグループだ。アニソンやアイドル曲を流し、それに合わせて踊る五人組。全員が俺と同じ高校一年生の女子だ。二学期から活動を初めて文化祭で人気が爆発し、最近は校外のイベントにも参加しているらしく、学校を超えた人気者になっていた。


 それにしても「ベアキャット」って名前はなんなんだ。ここは熊本の高校だからベアなんだろうけど、キャットはどこから来たんだよ。


 そんなことを考えていると周りの男子達の会話が耳に入ってくる。


「お前、誰推しだよ」


「やっぱり高梨たかなしスミレだよな」


「センターかよ。まあ、定番だな」


 そうひそひそ話ながら窓際の後ろの方に座り笑顔で周りと会話している高梨スミレ本人を見ている。


 高梨スミレはショートボブで背が高く、バスケでもしてそうだが実は運動は得意じゃ無い。ダンスだって本格的に習ったことは無かったはず。なぜそんなことを知っているかというとスミレは俺の幼馴染みだからだ。でも、同じクラスでありながらもう半年以上まともに話をしていなかった。


 それも俺が原因だ。まだスミレがベアキャットを始める前、夏休み直前に俺はスミレに告白し、振られていた。それまでは普通によく話す幼馴染みの関係だったのに、俺はスミレを避けるにようになってしまい、すっかり疎遠になってしまった。


 最悪なのは今でも俺はスミレのことが好きだと言うことだ。こっぴどく振られたのに、あいつのことを忘れられないでいる。


 そして、気がついたらスミレはベアキャットのセンターとして全校的な人気者になっていた。どう考えても俺の手の届く存在じゃ無い。


 ……今日はスミレたちがダンスするのか。見たいけど見たくない。放課後はすぐに帰ろう。


◇◇◇


 そう思っていたのに、俺は放課後、職員室に呼び出されてしまった。


坂崎さかざき君、なんで呼び出されたか分かってるわよね」


 俺のクラスの担任である宮崎先生は美人だが怒ると怖い先生だ。


「いえ、なんでしょう……」


「学年末テストの結果に決まってるでしょ。どうしたのよ、この成績」


 そう言われて俺は何も言えなかった。なにしろ過去最悪の成績だ。


「入学時には成績良かったでしょ。それなのにこの結果ってどういうこと?」


「すみません……」


「あなたはちゃんとやる気出して勉強すればいい成績を収められるはずよ」


 俺は二学期以降、成績が急降下していた。スミレに振られたこともあり、何をするにも気力を失っていたのだ。周りとも話さなくなり、友人も居なくなっていた。


「進学希望なんでしょ? このままじゃ危ないわよ。気持ちを入れ替えて頑張りなさい」


「……わかりました」


 まあ、言われても仕方ない。俺はうんざりとした気分になりながら職員室を出て、教室へ続く渡り廊下を歩く。すると、大きな音が聞こえてきた。そうだった。中庭ではベアキャットがライブをやるんだった。


 中庭にあるステージの方を見るとそこには幼馴染みの姿があった。高梨スミレ。ショートボブの黒髪は小学生の頃から変わらない。だが、背は伸び、スタイルも女性らしくなった。そして、誰よりもエネルギッシュに踊る。5人組のベアキャットのセンターであり、リーダーにして創設者でもある。


 高梨スミレがなぜベアキャットを始めたのか。疎遠になった後の話だからそれは知らない。いつの間にかメンバーを集め、始めていた。それまではあいつがダンスを踊っているところなんて遊びでしか見たことなかった。ただ、俺たちはアニメをよく一緒に見ていたし、特にラブライブが好きだったから、ベアキャットでもラブライブの曲をよく踊っているようだ。


 それにしても魅力的なダンスで目を惹きつけられる。人気が出るのも分かるな。俺も思わず足を止めて見入ってしまったが、すぐに歩き出した。スミレを見ると、嬉しくもあるが寂しくもある。


 スミレは自分の道を見つけたんだな。そろそろ俺もスミレを忘れて頑張ることを見つける時期なのかもしれない。でも、その前に勉強しないと。


「帰るか……」


 中庭で鳴り響く音楽を背に、俺は一人で校舎を出た。


◇◇◇


「ただいま」


「あれ? お兄ちゃん、早かったね」


 家に帰ると妹の瑠璃るりが居た。中二の瑠璃は背も小さく、髪はツインテールですごく子供っぽい。


「そうか? いつもより遅かっただろ」


 職員室に呼び出されていたんだから遅かったはずだ。


「だって、今日ベアキャットのライブだったんでしょ?」


「……なんで中学生のお前が知ってるんだよ」


「スミレさんに聞いたから」


 そうか。幼馴染みのスミレは妹の瑠璃とも仲はいい。だけど、そんな話までしているとは思わなかった。


「ベアキャットのライブ、早めに終わったの?」


「いや……見てないし」


「はあ? なんでよ」


 瑠璃が途端に機嫌が悪くなったようで俺をにらみつけてきた。


「いや、俺が見る必要ないだろ」


「だって、スミレさん、お兄ちゃんが見てくれるの楽しみにしてたよ」


「そんなわけあるかよ」


「ほんとだって」


「お前にはそう言ったんだろうけどな。社交辞令ってやつだよ。真に受けるな」


「違うのに……だって……まあ、いいや。お兄ちゃん、ほんとにもう……」


 瑠璃は何かブツブツ言いながら自分の部屋に入った。

 いったいなんなんだ、あいつ……


 ちなみにうちの親は夜8時ぐらいにしか帰ってこない。脱サラして夫婦で始めたパン屋をすぐ近くでやっているから朝から夜まで店のほうにいることが多かった。


 俺は自分の部屋に入り、宿題を始める。そして、しばらくしたときだった。


「お兄ちゃん!」


 瑠璃が大声で俺を呼んでいる。仕方なく、扉を開けて言った。


「なんだよ」


「スミレさん来てるよ」


「はあ?」


 高梨スミレが? 疎遠になってからはスミレがうちに来たことなんてなかった。今日ベアキャットのライブやってたのに終わってから俺の家に来たのかよ。何の用なんだ……


 俺は慌てて玄関に出向いた。すると、そこに居たのは制服姿の女子2人。スミレの他にもう一人、背が高い女子が居た。


「……な、長峰葵ながみねあおい!?」


「やあ、坂崎君。あまり話したことは無いのに、ボクのことを知っていてくれて嬉しいよ」


 ベアキャットのメンバーの一人。背が高いスミレよりもさらに長身でショートカットの王子様系。制服もスカートではなくスラックスを履いていて女子に大人気の長峰葵が居た。同じクラスなのに話したことはないが、ベアキャットが出来る前から有名人なので俺も当然知っている。


大樹だいき、ごめん。今日ライブのあとに話そうと思ってたら居ないみたいだったから」


 スミレが俺にそう言った。


「ライブのあと? 話?」


 疎遠になっていた俺に何の話だろうか。


「大樹、とりあえず部屋に上げてもらえないかな。相談があるから」


「い、いいけど……」


 こうして、俺の部屋に幼馴染みの高梨スミレと王子様系女子・長峰葵が来ることになった。

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