第11話 マッサージを待ち侘びて

 宿泊施設の雰囲気に似つかないオシャレなドアを開けた先。私とフレディーはワクワクを胸に、宿の二階に位置するマッサージ店、俗に言うリラクゼーションサロンに訪れた。


 「いらっしゃいませ、ブリュッセルの箱庭へようこそ」

「こんばんは、あとここブリュッセルじゃないですよ」

「ふふ、この店名雰囲気あると思いませんか?」


 失礼な挨拶をかます私に、笑顔を振りまく優しそうな女性店員は、一枚の紙を渡す。


「こちらにコースの説明や詳細が書かれています。お決まり次第呼んでくださいね!」


 店員さんは準備をする為か、そそくさ別室に移動した。若そうなのに、個人営業してるなんて凄いなあ。


 フレディーが店員がいなくなったことを確認し。


『そろそろ憑依します。痙攣しないでくださいよ?』


 少し心配しているフレディーに、私は最大のフォローを入れる。


「さっき部屋でお試し憑依した時、十分に痙攣しまくったから大丈夫だ。三年ぶりの憑依……あれは凄かった」


 さらに心配そうになったフレディーは、震えるのもダメですよと念を押しながら、私の身体に自身を重ねていく。


「……フレディー憑依出来た?」

『はい、憑依完了です』


 実はフレディー、憑依をこなしていく度に熟練度が上がっているらしく、私の動きの制限をかけずに憑依出来るようになった。

 この状態は、フレディーと視覚や聴覚等の五感や思考を共有しつつ、私が自由に動けるという欲張りセットなのだ。


「お待たせしましたー! コースはお決まりですか?」


 にっこり店員に、私も同じくにっこりしながら。


「全身揉みほぐし六十分コースで!」


 一番時間の長いコースを真っ先に選んだ。


『え、三十分コースって決めてたじゃないですか』


 あれ~三十分だったっけ?

 全然覚えてなかったな~


 とぼける私に早速案内をするにこにこ店員。案内された一室は、マッサージ店でよく見る茶色い布があるベットが一つある、ザ・リラックスルームだ。

 観葉植物もあるのはポイント高いな。初めてマッサージなるものに訪れたから、基準分からないけど。


「ではあちらのカーテン越しに着替えがありますので、衣服を脱いで着替えちゃってくださいね! あ、タオル一枚でもいいですよ、ここではどちらでも対応させて頂きますので」


 なるほど。全裸は恥ずかしい人もいるし、服を着たままマッサージを受けたいという人もいるだろうからな。


『服は別に着たままでも』


 ま、私には関係ないな!

 一時間じっくり堪能させてもらおうじゃないか!


 私は頭に響くフレディーの声をガン無視した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る