第4話
ゴールデンウィークが明けて数日たった昼休みの教室はいつも通り賑やかだった。陽乃ちゃんが座る席の近くには数人の女子が集まっていて、笑い声が絶えない。陽乃ちゃんはその輪の中心で、柔らかな笑顔を浮かべている。けれど、その笑顔がどこか硬い気がするのは私の思い過ごしだろうか。やっぱり、少し無理しているのかな。
陽乃ちゃんのそばにいるのは、クラスで目立つタイプの子たちだ。髪をゆるく巻いた子や、笑うたびにきらりと光るピアスが目立つ子、体育会系のノリでどこでも堂々としているような子。彼女たちは、クラスの中心にいるような存在だ。彼女たちが発するエネルギーに私は圧倒されるばかりで、話に加わる勇気なんて持てない。
私は自分の席で、彼女たちの輪をぼんやりと眺めていた。笑い声がひときわ大きくなったとき、耳に飛び込んできたのは陽乃ちゃんを褒めそやす声だった。
「陽乃ってばほんと、何やらせても完璧だよね~!」
「そうそう、スポーツも勉強もできるし、顔も可愛いし、無敵じゃん!」
陽乃ちゃんは困ったように笑い、「そんなことないよ」と手を振った。でも、その声は少しだけ力がないように聞こえた。やっぱり、彼女は無理をしているんじゃないだろうか。周りの誰も気づいていないみたいだけど、私は知っている。いつもの彼女なら、もっと軽やかに返しているはずだから。
「でさ、陽乃ってもし生徒会とか立候補したら、絶対勝つよね!」
「うんうん、全校生徒の人気集めちゃいそう!」
その言葉に、陽乃ちゃんは苦笑いを浮かべた。
「もう、そんなこと言わないでよ。そういうの私には向いてないってば」
「え~? 絶対向いてるって! だって陽乃って、みんなから頼られてるじゃん」
「そうそう、誰も逆らえないカリスマ性あるし!」
陽乃ちゃんは否定しながらも、返答に困っているようだった。私はそれを見て、胸の奥がきゅっと締めつけられる気がした。褒められることが負担になるなんて、私には想像もつかないけれど、彼女にとってはそれがプレッシャーになっているのかもしれない。
「じゃさ、暮井さんはどう思う?」
不意に名前を呼ばれて、私はドキリとした。視線を上げると、背が高くて髪が明るいミナミさんが、ニヤリと笑っている。
「え、なにが?」
「陽乃が生徒会長になったら、全員従うしかないよね~って話。暮井さんに応援演説とかできるかなぁ?」
「えっと……そんなこと考えたことないけど……」
自信のない声で返すと、ミナミさんはクスクスと笑った。
「やっぱり、暮井さんってそういうの苦手そうだよねぇ」
彼女の言葉に、周りの子たちが小さく笑う声を漏らす。その空気に私は萎縮してしまい、思わず視線を下げた。
「もう、そんなこと言わないでよ」
陽乃ちゃんの声が、私の心の中に差し込む救いの光のようだった。
「真白は優しいし、私は結構頼りにしてるんだから」
彼女の言葉には本当に感謝している。それでも、周りの子たちの反応は軽いものだった。
「あ~、さすが陽乃ちゃんだよね~」
「真白ちゃん、いいね。ちょっと羨ましいなぁ」
ミナミさんとその周りの子たちの言葉には、どこか含みを感じるのは気のせいじゃないと思う。彼女たちの視線の奥にある薄い壁が、私との距離を冷たく突きつけてくるようだった。
私は陽乃ちゃんの隣にいることが当たり前だと思っていた。でも今、彼女が私よりもずっと遠い場所にいるような気がする。陽乃ちゃんを囲む輪に、私の居場所はどこにもない。胸の奥に広がる疎外感に、私は思わず自分の手をぎゅっと握りしめた。
どうして私じゃダメなんだろう。どうして、あんな軽々と陽乃ちゃんのそばにいられる彼女たちみたいにはなれないんだろう。そんな思いが胸の奥にくすぶるけれど、口に出すことなんてできない。ただ静かに、教室のざわめきを聞き続けるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます