第7話
年末年始は平和な日々だった。桜さんの仕事も流石に二十九日の午後で終わり、年の瀬はゆったりとした時間が過ぎていった。僕はいよいよ大学受験を決心した。母と桜さん、二人の後押しもあり、検察官を目指すことにした。母は仕事を減らし、家事も僕と分担するようになった。千咲も協力してくれるようになったし、パソコンを使うようになってからは僕にべったりする時間も減った。
「お兄ちゃん、電話だよ」
リビングで勉強していると、自室から千咲がスマートフォンを片手にやって来た。年末の買い物の際に学習机二組を買おうとした桜さんを思いとどまらせ、リビングで勉強すると宣言したのはもう一週間も前なのか。電話の相手が誰か確認しないまま受け取る。
「はいもしもし、粢です」
「もしもし、花井です。粢雄志君ですね?」
電話の相手はクラスメイトの花井さん。僕の元カノ……大辻茜の親友でもある。僕とはあまり会話したことないが、クラスのグループチャット経由で通話をしてきたのだろう。
「クリスマスからずっと茜ちゃんと連絡が取れないんです。何か知りませんか?」
クリスマスからずっと……? だとしたら、あのまま男達とまだ一緒にいるのか? そんなことは……。彼女は時折、感情のままに振る舞うことはあるけれど本来は素直で礼儀正しい女の子のはずなのに……。電話口で僕は知らないと言うことが精一杯だった。通話を着ると血の気が引く思いだった。自分のせいで人一人の人生を台無しにしてしまったとしたら、僕が無理を言ってでもクリスマスに会うことを承諾しなければ、そもそも付き合いさえしなければ……。
「お兄ちゃん?」
「いや、何でもないんだ……」
そのまま茜とのトーク画面を開き、ブロックを解除する。このアプリのブロックは相手側からは分からないようになっており、ブロック解除とともにおびただしい数のメッセージがポップする。日付は十二月二十七日。
『やっと帰ってこられた』
『ずっと犯された』
『動画を残された。脅されている』
『怖い』
『助けて』
『助けて。お願い』
それから二日後、綴られたのは怨嗟の声だった。
『もういや』
『親にも警察にも言えない』
『苦しい』
『死にたい』
『死ぬ』
『死ね』
『嫌だ』
『一人は嫌だ』
『死にたい』
『つらい』
『死ぬ』
『怖い』
『苦しい』
『死にたい』
『殺す』
『死ね』
『嫌だ』
『しね』
『死にたい』
『つらい』
『死ぬ』
『怖い』
吐き気がこみ上げてきた。自分が幸せを手にした裏で彼女が不幸の淵に沈んでいたことを思い知らされ、自分に正義なんてないのだと思わずにはいられなかった。
「お兄ちゃん……泣いてる?」
「あぁ、なんでもない。本当に何でもないんだ」
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