第1話

 イルミネーションの灯っていた駅前のメインストリートからほど近い、高層マンションの一室が彼女の住居だった。テレビのCMで見たことのある高級マンション。彼女はそこに一人で暮らしていた。3LDKの間取りには品のいい調度品が並んでおり、大人の女性しかも一人暮らしの部屋に入るというのは緊張してしまう。


「冷えただろう? シャワーでも浴びるか? いや、風呂に浸かった方がいいな。ひとまず淹れよう。ふぅむ、着替えがないのが困るか……コンビニで買ってこよう。サイズを教えてくれ」


 きっぱりとした物言いの奥に、遠慮は無用だという意思を感じ、僕は素直にサイズを伝えた。すると彼女は僕を浴室まで案内したあと出掛けていった。うちの浴室の二倍くらいありそうな広い浴室で頭からシャワーを浴びる。お湯になるまでがあっという間で驚かされる。

 足をゆったり伸ばせる浴槽で、走り続けた疲れが溶け出しているような気分だ。少しうとうととしてしまい、気がついた時にはあのお姉さん――そう言えばまだ名前すら聞いていないし自己紹介もしていないじゃないか――が部屋に戻り、着替えを置いておくと声をかけられた。お礼を言うと、脱衣所の扉が閉る音がした。立ち去ったのだと思い、浴室の扉を開けると……そこに全裸の家主がいた。


「は?」

「おや少年、もう少し入っていなさい。背中を流させてくれ」

「いやいやいや、結構です。もう出ます!!」


 豊満な大人の魅力が目の前に晒されて、首を振って頭から追い出す。買って貰ったばかりの着替えをひっつかんで、全裸のまま脱衣所を後にした。……そう言えば、下着しかない。さっきまで着ていた服は、あのお姉さんの服とまとめて洗濯機に放り込まれてしまっていた。引っ張りだそうとすると彼女の脱いだ服を見てしまう。それは不義理だ。

 やたらとふかふかなソファーに身を預ける。暖房のかかった部屋は暖かく、下着姿でも寒いとは思わない。薪ストーブに見えた暖房器具をよくよく見てみたら、炎は画面に描かれているもので、器具としてはガスヒーターだろう。うちの古い灯油ストーブとは比べようのない性能とオシャレさだ。

 絶望的な気分の中でスマートフォンを起動する。彼女……だった人からメッセージが来ていた。


『初体験は痛かったけど満たされた気分。貴方は私をちっとも満たしてくれなかった』

『私に魅力がないのかと思ってた。でも違った』

『貴方みたいな真面目腐った貧乏人より、お金があって遊んでくれる大学生の方がいい』

『さよなら』


 好き勝手言ってくれる……。僕はその人をブロックして、スマホを閉じた。年が明ければ学校で顔を会わすだろう。憂鬱だ。男を知った彼女はどう変わるだろう。いや……そんなことはどうでもいい。どうせ、彼氏彼女の関係なんて不安定で不明瞭で、そのうち立ち消えになるような関係だったんだ……。

 そう思うようにでもしないと、なんだか自分の知らない感情に押しつぶされてしまいそうだった。

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