第10話 今、来ました!

「八重洲の分際で、ひどいでやんす! 分かったようなことを言うでやんす」


 開口一番がコレだ。さくらはどうやらアプリをコケにされたのを恨んでいるようだ。さくらを敬語モードにする。


「けど、八重洲の言うことって、結構当たってると思うけど」

「あぁ、そうですとも。そうですとも。まだまだコンテンツが不足してますから」


「コンテンツといえば明日にはプロフィールを実装できるように準備しといて」

「そのことですが、提案がございます!」


「うん。許可する」

「ガチャです!」


「ガチャ?」

「はい。プロフィールをカード化して、ガチャにするのです」


「うーん。アプリを作ったのは収益化のためではあるけど、売れるの?」

「八重洲が夢中になって大金を注ぎ込む姿が目に浮かびます。ざまあです」


 そんなに上手くいくとは思えないけど、アプリのコンテンツ不足は事実。


「分かったよ。カードガチャ化は許可する」




「それでは次です。どうでしょうか、これ!」

「どうもこうもないよ。御櫻様じゃん」


 スマホに表示されたのは七枚の花びらを持つ桜のエンブレム。


「そうですよ!」

「もってのほかだよ。バチがあたるよ。恐れ多いよーっ!」


「そうでしょうか?」

「そうだよ! 御櫻様が怒ったらどうするんだよ。呪われるよ。祟られるよ」


「怒る前提がおかしいのです。御櫻様は守護神なのですから」

「そうだけど、そうだけど、そうだけどーっ!」


 僕は、どうすればいいんだーっ。


 発端は、僕がさくらにみんなを象徴するマークの考案を依頼したこと。さくらなりに考えてくれた結果が、御櫻様だったってこと。


「現在、ドリームステージの女性の住人は二十一人」

「由佳姉が二十人も連れて来たんだ」


「ピッタリ七で割り切れます!」

「三だな」


「そうです! 三人組、七つ。それを纏めるドリームステージ! どうです?」


 さくらがドヤった、ような気がする。


「どうもこうもないよ。却下!」


 けど、さくらはときどきおかしい。


「えっ?」

「計算違いだって」


「はぁ?」

「たしかに二十一割る七は三だけど、二十は七で割り切れない」


「二十って、どなたか交通事故?」

「勝手に殺さない!」


「では、お嫁に?」

「嫁がないね」


「海外留学⁉︎」

「みんな、人生を賭けてここに来てるから、当面の進路変更はないと思うよ」


「では、どうして二十人なのです?」

「だって、由佳はアイドルを卒業したから」


「再デビューすればよいではないですか!」

「本人にその気がないよ。契約もあるみたいだし」


「ですが、由佳様はここ数日で、過去一のかがやきを放っております」

「毎日が楽しいんだろうね。指導者として!」


「指導者……いやーっ。そんなの知ってます。知ってますとも!」


 さくらはときどきおかしい。自分では誤魔化せてるつもりでも、分かり易い。


「忘れてたろう?」

「そうではありません。そうではありません!」


 かなりの慌て様だ。


「じゃあ、計算違いしたの?」

「それも違いますです」


「じゃあ、説明して!」

「……しっ…………」


 こういうときのさくらは、いじり甲斐がある!


「しっ、何?」

「……新メンバーがいるのですよ!」


「しっ、新メンバーだって……」


 また、増えるの……いや、そんなはず、ない!


「……誰!」

「それは……」


「それは?」

「私、ですかね……」


 さくらはときどきおかしい。


 話が煮詰まったところに、白布。


「あっ。ゆっ、優様……さっきは……どうも……」


 よそよそしい。白布のむぎゅっは恵達とは違う感じになる。細いのにやわらかいとか、反則だぁ。節目がちに顔を赤らめるのとか、もっと反則。


「あっ、あー、さっきの。こちらこそ……どうも……」

「いえいえ。それよりさっき、優様が言ってたんだけど」


「優様。由佳のこと?」

「はい。明朝の予定が早まって、もう直ぐ到着するって」


「誰が?」

「知らないの? あれ? 聞いてる話と違うなぁ」


「それはこっちのセリフ。誰が来るって言うのさ」

「私達の仲間。二十一人目のメンバー!」


 驚いた。僕も……。


「えーっ!」「えーっ!」


 ……さくらも。


「兎に角、私達なんかおはなしにならないめっちゃ美少女なんだから」




「優ちゃん、そんなに怒らないで。呪わないで。祟らないでーっ!」


 由佳姉は、何も分かってない。


「入居者が一人増えるってことがどういうことか、ちょっとは考えてよ!」

「いいじゃん。商売繁盛だよ。五穀豊穣だよ。御櫻様の御利益だよ」


「五穀豊穣は関係ない! そもそも家賃を払ってくれなきゃ商売繁盛もない」

「デビューするまではムリだよーっ!」


 何という自転車操業。


「兎に角、部屋の掃除が先決!」

「えーっ。優ちゃん、私達のときは掃除してくれなかったよね」


「由佳達は突然押し寄せて来ただろ。今度の子は前もって言ってきてるんだから」

「相手が優ちゃんの同級生だからって扱いが違い過ぎる。贔屓だ! 差別だ!」


「ゆっ、由佳! 今、なんて言った⁉︎」

「贔屓だ! 差別だーっ!」


「その前だよ」

「えっと……私達のときは掃除してくれなかったよね?」


「そのあと!」

「うーん……優ちゃんの同級生⁉︎」


「それだーっ!」


 僕の同級生って、誰? 白布はめっちゃ美少女って言ってたけど、そんな子、うちの学校にいたっけ? 由佳姉の連れて来た駆け出しアイドル達には個性はあるけど、全員に共通しているのはルックスのよさ。誰が来たってうちの学校の一番の美少女になることは確定的。それなのに、そんな駆け出しアイドル達を凌駕する美少女が、既にうちの学校にいるという矛盾。本当に、誰なんだ?


 空き部屋の掃除を終えた、まさにそのとき、白布。


「今、来ました!」

____________

佐久間白布 17歳

スリーサイズ B:89 W:54 H:83


 色白小顔、さらさらで艶やかな長い黒髪、細くて華奢な御御脚、形の良い胸を持つ、正真正銘の美少女。動画の視聴回数は三日連続トップを直走る。

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