第10話

偶然であるのか、パンを持っていた私の指先にタロ君の唇が掠め食んで、そんな感触にさすがに変に意識が走り心臓が馬鹿正直に跳ねあがったタイミング。


「……美味しい」


「っ……」


「花さんは優しいね」


「っ~~」


タ、タロ君が、相変わらず幸薄げなのになんか妙に妖艶だった。


指に唇がっ……、その後ニッて笑って『美味しい』とかっ。


「……策士め」


「カナイって本当に言う事意味不明だよね」


「だからその笑顔恐えって」


私がひたすらに乙女に悶えている間にタロ君とカナイ君がそんな会話をしているのは完全に聞き漏らしていた。


この手を洗うのが勿体ないななんて馬鹿な思考まで突っ走っていた私の意識を我に返らせたのは…、


「やっほーい!!見て見て見て~、コンビニ限定の新商品お菓子コンプリートしてきたよーん」


扉をぶち破らんばかりの勢いとテンションの高さ。


嬉々とした声高らかに背後から登場した姿には今までの違う意味で心臓が爆発的に高鳴ったと思う。


思わず自分の食べかけメロンパンも地面に落としましたですよ。


ビックリですよ?


バックバックと煩い心臓を感じながら振り返った背後。


視界に収めたのはウチの学校のアイボリーの上着、紺色スカートなセーラー服を身に纏った、見目麗しく愛らしいと言える少女の姿。

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