悪役令嬢断罪にエンカウントした俺の危機回避について
橘 永佳
第1話にして最終話
転生という長いトンネルを抜けると、そこは修羅場でした……。
いやそんな心境ってだけなんだけど、記憶のフラッシュバックで異世界転生したことに気づいた瞬間、純然たる日本人の俺は即座に自分の立ち位置を理解した――
――うん、しちまったよ王太子かよコンチクショウがっでむっ!!
「【悪役令嬢】っ、将来の王太子妃にあるまじき悪行の数々、もはや言い逃れることはできませんよ!」
右斜め前に立つイケメン【騎士】が声高らかに言い放つ。
左側には【ヒロイン】が身を寄せてきている。
さらにその向こう側にはローブ姿のイケメン【魔術師】が並んでる。
俺を含めて計4人が壇上にいて、数段だけだけれど階下に1名、やったらとキラッキラな貴族令嬢が見上げていた。アレ【悪役令嬢】だわ確か。
他は遠巻きに見ている。
集まっているのはこの国の貴族の主だったところ。
場所は、うん、城のダンスホールだよねココ。
で、このメンツでこの状況。
やっべえええええっ!
これこの間クリアした乙女ゲーの中盤分岐点じゃねーか!
さっさと逃げないと詰むっ! 主に俺がっ!
「あら、わたくしはあるべきものをあるべき形に、と思っているだけですわよ?」
「それは横暴です!」
胸を張るキラッキラの【悪役令嬢】に【ヒロイン】が反論する。
そう、俺との婚約を脅かしかねない【ヒロイン】を追放しようと画策――
「だって、どう見ても【騎士】×【王太子】ですわよ!」
「ちーがーいーまーすー! 絶ぇっ対【王太子】×【騎士】ですぅー!」
――じゃなくて何言ってんのキミタチぃっ!?
「寝ぼけた異論は認めませんわ!」
「ヘタレ攻めが今アツいんですぅー、【悪役令嬢】は古いんですぅー!」
「言いましたわね!? 良いでしょうならば戦争ですわ!」
何ヒートアップしてんのよっ!?
ストーリー違くない? 何でBLのカップリングで揉めてんのさっ!?
その揉め方は現代日本お家芸でしょお!?
まさか君ら腐な方々の転生だったりしないよねえっ!?
それから【ヒロイン】さん? ヘタレ認定について後でお話しようか?
「意味の分からないことを! 見苦しいですよ【悪役令嬢】!」
【騎士】がキッパリバッサリと切り捨てて、俺の方へと振り返る。
そして目で「任せてください」と言ってきた。
あこがれの王太子の役に立ってみせるって気合入ってるのがめっちゃ伝わる。
乙女ゲーにままある補正が俺にもガッツリかかってて、男女問わずに効いてるんだよなぁ。
その様子をすかさず拾って、【悪役令嬢】と【ヒロイン】が「ふおおおぉぉぉっ」「捗るありがとうございますっ」と
ダメだこいつら腐ってやがる。
で、キミタチ胸元のウチワは一体何かね? 俺の顔描いてあるんですけれど? 何でこの世界でそんなモノがあるわけ?
つーか、お揃いってオマエら実は仲良しだろ!?
【騎士】が全く話についてこれていないのは明白、分からないが良かれと思ってやっているのがアリアリと伝わってくる。
しかし、良かれと思って侯爵令嬢を断罪て、この世界の常識的にはやっちゃアカンのだよ!
お前、若き騎士の鑑とか言われてたはずじゃん?
なに目をキラキラさせてんのさ!?
そんなアホの子じゃなかったでしょ!?
ダメだ【騎士】じゃカオス激化待ったなしだ、そもそも実は脳筋だしコイツ、ちょい厭味ったらしいけど口の上手い【魔術師】に……って、何だ? 何をブツブツ言って――
「……ふふふふふふ殿下ああ今日も尊い殿下尊い……」
――おおっとヤバい見ちゃダメだ、ボクナニモミテナイアルヨー。
首を回しかけたのを華麗に緊急停止、気配を探りつつギリッギリ視界に掠める程度で【魔術師】を盗み見る。
……全くの能面で呟いてやがる?
うっそお? 口動いてないぞ腹話術師かよオマエわっ!?
【騎士】はただのアホの子だけど、【魔術師】はガチかっ?
しかも病み気味ヤバめじゃね?
王太子補正が効き過ぎ、あこがれぶっちぎって
ぶっちゃけこの場で一番アブねえぞコイツ!
そして俺にその気はないっ、スマン!
だあああっ、君ら原作から離れすぎじゃんよっ!
どいつもこいつも何でこんなんなってんだよお!!
もう泣いていいかな? 泣くよ? それはもう小学生がドン引きするぐらいみっともなく泣き散らかしますよいいんですね?
このままじゃ俺が詰むんだっ―――
ぱきん。
――あ。
頭上の空間が割れた。
ホールの天井じゃない。その手前というか、俺たちと天井との間の空間に亀裂が入った。
……この乙女ゲー、中盤のこの分岐って強制イベントで、魔族の先兵が空間を割って乱入してくるんだよね。
で、王太子が討たれるという悲劇をキッカケにして【ヒロイン】が覚醒、好感度が高い攻略対象と苦難を乗り越えて成長してラスボスを倒すんだけど……。
……うん。そう、ここで討たれるの俺なんだよね……。
死にキャラなんっすよ王太子……。
あああだからさっさと逃げたかったのにいいいっ!!!
見る見るうちに亀裂が広がって、何かが砕けるような感じで穴が開き、中から黒い翼のある美女が――
――って、待てやゴラァ!?
魔王じゃんラスボスじゃんアンタ!?
この中盤は先兵のケルベロス君の出番で、あんたは最後のトリでしょうが! 何でワンちゃん登場がトリの降臨イベになってんのよっ!?
あかん現状ぜってえ勝てないじゃんっつか俺終了どころかこの世界終了のお知らせじゃんコレっ!?
魔王自ら宣告に来るのかよおっ!?
「ちっがぁぁぁう!! 【魔術師】×【王太子】こそ正義ぃぃぃっ!!」
「お前もかあああああああああ!!!」
思わず髪の毛が逆立って光るッ!
脈絡は全く無くッ!!
背後に『萌え』の幼女神が降臨ッ!
見覚えは全く無いッ!!
その幼女が超邪悪なオーラでグロい死霊どもを召喚ッ!
統一感も全く無いッ!!
死霊が俺の右手に密集圧縮して名状しがたいナニカへ
手順も展開もヘッタクレも無くッ!!
幼女が両手で作るハートと俺の右手が同時に閃くゥッ!!!
ドゴォォォンッ!!!
と、反射的に全力でぶん殴ってしまった。
「あぁんありがとぉございますうううぅぅぅ……」とドップラー効果を響かせながらお星さまになる魔王。イイ笑顔だったぞオイ。
呆然とする一同。
及び俺。
……うっそぉ。
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