第43話 4月30日 雪絵が代役で配信
大地と藤井は駅の近くにある小さな神社に来ていた。本当のお社に行くのは危険だから、とりあえず安全な場所で動画を撮ることにしたのだ。
雪絵に桂子の代役を頼んだ。
その力が本物ならば、配信を見た桂子がどこかで同じようにやってくれれば問題解決だ。
いや、解決しなくても大地と藤井にはどうせこれ以上出来ることはない。
「じゃあ、やってみるわね。」
雪絵は結構ノリノリだ。
鳥居をくぐって歩く雪絵を後ろから映していく。顔は映さない。
雪絵は神社の前にひざまずき、粟を盛りつけたお皿を差し出してひれ伏した。
「全部済みました。」
配信終了。
「お疲れ様です。いやあ、雪絵さん良かったですよ。桂子さんにそっくりだし。さすが従妹。」
「そお?」
冒頭に《#奥川村ライブ配信≫ と付ければきっと八谷も見るだろう。
これで一安心だ。
「じゃあ、私はこれで帰るわね。明日と明後日は仕事なの。」
「はーい。ありがとうございました。」
「まだこっちにいるのよね?」
「そのつもりです。」
「帰る前にまた家に寄ってね。藤井君も。」
「ありがとうございます。」
「またねー。」
雪絵はいつも通りのにこやかさで去って行った。
その後ろ姿を見送りながら、藤井が小さい声で言った。
「結局さ、誰も〈クロイシサマ〉について口にしなかったね。」
「あ!」
「大君、まさか忘れてたの?」
「だって、どうせお社のご神体か何かじゃないの?」
「そうだろうけど。桂子さんは呪う時『クロイシサマの災いは。』って言ってただろ。」
「そうだっけ?それ重要?」
「大君には呪われる心配がないからな。まあいいよ。大君、駅に行ってさ、
市長に頼まれた町興し動画も撮っちゃおう。今度はちゃんと市の名前出してさ。
さっきの小っちゃい神社もバズるように何か考えよう。」
「そうだね。もうすること無いし。」
駅に向かって歩いて行くと、観光客がいっぱいで驚いた。
みんながスマホをかざし、写真や動画を撮っている。
「大君、キャップを深く被れ。その顔を他のやつらの配信のネタになんかさせるな。」
「はいはい。」
「観光客がいっぱいなら市長の希望は叶ったってことだし、駅の動画はもういいか。」
「うん。」
「終わったな。」
「うん。」
無言で車に乗り込み、エンジンをかける。
「どこに行く?」
「温泉とか?」
「よし、教団の金で最後に高級温泉旅館に行くぞ。」
「おー。」
大地はこれでお終いなのが残念だった。
日常が帰ってきたら退屈だろうな。
藤井さんはだいぶ面白い人だし。
こんなことでも無かったら、八谷さんみたいな人と出会えなかっただろうし。
藤井さんもそう思ってるかなあ。
そんなことを思いながら運転していると、目の前にずいぶんなゴミが落ちているのが見えて、車を停車させねばならなかった。
「カーナビあるからそこ曲がって迂回しよう。」
「了解。」
カーナビによると、左折してもすぐに元の道に戻れる道がありそうだった。
なのに、その道にも鉄くずが落ちていたり、次の角はカラーコーンで侵入禁止だったりして、いつの間にか草木に覆われた細すぎる道に入り込み、
ガコンッという衝撃と共にタイヤが穴にはまり、動けなくなった。
藤井と2人で車から降り、どんな穴なのかを、藤井が横から大地が前から見ようとした時、何かが大地の腕を強くひぱった。大地が後ろに転んだ瞬間、ガシャン!!
車のフロントガラスが砕けた。
「藤井さんふせて!」
「もうふせてる。」
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