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第6話
快感にピンと伸びた爪先でシーツを蹴る。
「あっ」
ベッドのシーツにはすっかり皺が寄り、どちらのものとも分からぬ体液に濡れていた。しかし熱に浮かされて火照る肌には、別段不快とも感じない。
もう、何度こうして肌を重ね合っただろう。何度、同じ絶頂を臨んだだろう。
私は、ダイちゃんと、ダイちゃんがくれる狂おしいほどの快感に溺れた。
高層階のスイートルームの窓越しに望む都会の空が、東の方角から白み始めていた。けれど私とダイちゃんの夜はまだ、終わらない。
「陽子……!」
もう何度目にもなる高みへとダイちゃんと共に駆け上る。
「あぁあっ!」
頂点へと押し上げられて、頭の中が真っ白に弾ける。脳髄から崩れ落ちていきそうな、深い愉悦――。
幸福の余韻はなかなか引かない。けれど、夜通しの情事に疲れ切った体はもう限界で、くたりと力が抜けてしまった。そうすれば、ダイちゃんの腕が私の体をきつく懐に抱き締めた。
「夜明けまで、このまま少し眠るといい」
「ん……」
トクントクンと響く鼓動を心地よく聞きながら、ダイちゃんの胸の中に意識が沈んでゆく。
「やっと君を手に入れた。……太一を沈めた甲斐があった」
夢うつつにダイちゃんの囁きを聞いた気がした。けれど掠れかかった意識の中で、彼の言葉が意味あるものとして結ばれることはなかった。
こうして私はダイちゃんの温もりを全身で感じながら、完全に眠りの世界へと旅立った――。
***
無防備な寝顔をした陽子を腕に抱き締めながら、俺は歓喜に打ち震えていた。
……二十年前のあの日、俺は陽子の家を訪ねた。そこでおばさんから陽子と太一の外出を聞かされて、俺は二人の後を追って川に向かったのだ。
そうして辿り着いた川の下流で、偶然、瀕死の様相で川岸の倒木にしがみ付く太一を見つけた――。
俺の姿を視界に捉え、太一は安堵の表情を浮かべた。俺もふわりと微笑みを返し、濁流に流されまいと必死に倒木に縋る太一の元にゆっくりと歩み寄った。
間違っても濁流に引き込まれぬよう、安全な距離を確保して足を止める。
『……今、楽にしてやる』
太一を見下ろして告げると、倒木を掴む太一の右手を渾身の力で蹴った。
『ッ、ァアァッ!!』
太一の右手が、倒木から離れる。けれど太一は予想に反し、すぐに流されてはくれなかった。
反対の手で倒木の枝を掴み、必死に川面から顔を出してもがいていた。
……案外、しぶといな。
俺は近くに落ちていた木の枝を掴むと、その切っ先で大地の首後ろを突き、水中に押し込んだ。
抵抗する太一の口から水面にいくつものあぶくが上がっていたが、しばらく押さえていると抵抗もなくなって、あぶくも上がらなくなった。
太一の体がズルリと川中に沈む。
『さようなら、太一。ずっとお前が邪魔で仕方なかったんだ』
骸となった太一は、そのまま濁流に呑まれて消えた。
ずっと邪魔に思っていた、まさに目の上の瘤。けれど、その最期のあまりの呆気なさに、俺は拍子抜けした。
『……ははっ! はははははっ!!』
聞き咎める者もなく、俺の笑い声が川岸に響いていた――。
こうして俺は人知れず、太一を葬り去る事に成功した。
「……陽子は誰にも渡さない」
俺だけをその目に映し、その心が俺だけに向かなければ……。誰とであれ、俺は陽子を分け合う気など更々ない!
陽子を抱き締める腕に力を篭めた。
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