筑紫野吾妻は嫌われたい

少し昔の話になる。


 俺は筑紫野吾妻、春原翼に誘われて魔法少女をやっている。

魔法少女になったおかげで……とは違うかもだが、しかも結果は失恋になったが、芦原環さんに出会えて、恋をできてよかった。

 男として一皮剥けたなと姐さんに褒められたし、自信もついた。


 最近、支部には新入りが1人増えていた。

社長の養子らしいそいつは変な話女児みたいな男だった。

女みたいな顔で、可愛いもの、甘いもの、魔法少女アニメが大好き。おっかなびっくり、社長の影からこちらを見上げる。

「よ、ろしく。ね」

「うまく喋れないんスか?」

「4年間拷問を受けていたんだ。若宮聡一くんだよ。優しくしてあげてね」

「どっから拾ってきたんすか、そんなの」

「ぼく、すてられた、社長、拾った」

「意味わからんけど……まぁいいや、よろしくな。聡一」


 聡一は素直な奴だった。女性恐怖症とのことだが支部には女は居ないしちょうどよかったのかもしれない。不器用な奴が頑張って育っていくのは微笑ましかった。

「あ、あじゅ」

「吾妻、あ、づ、ま」

「あず?」

「名前くらいしっかり覚えろ」

「ふたりで兄弟みたいだねぇ」

最初は、それでよかった。


 支部の手伝いをするうち、聡一も魔法少女体を作ることになった。

聡一の好きな緑と花をあしらったお嬢様系の魔法少女だ。

「良いんじゃね。可愛いじゃん」

「か、かわ?」

「ん?」

「可愛い……?」

「ああ」

「あず、なまえ、つけて」

「……?俺が決めていいんか?」

「うん」

「じゃあミヤで。本名由来なら呼び間違うこともすくねぇだろうし」


聡一は魔法少女になるとなんか変になった。

変、と言うか人格が変わった。

多重人格症になってもおかしくない境遇ではあるし、俺はそのまま普通に接した。

「吾妻!」

「吾妻」

「吾妻……」


少しずつ、何かが、ずれていく


 俺は聡一を連れて何度も夢に潜った。

聡一は強かった。血統が陰陽師のサラブレッドだとは聞いていたが、並の夢魔など出て来た瞬間蒸発した。

それでも聡一は俺を慕ってくれた。

些か慕いすぎるくらいに。


 ある日、仕事上がりに社長に頼まれて夢魔を倒し、空き部屋で仮眠を取らせてもらった。春はいくら寝ても眠い。

目を覚ますと、聡一が同じベッドで、俺に抱きついて寝ていた。

「!??」

鍵を掛け、仮眠室の使用プレートも下げてあった筈。

「あじゅ……」

密着した身体。

嘘だろ

足に、当たる、ものが


ヤバい


俺は、そこでようやく気づいた。

多分聡一はホモになりかけている。

というか、俺を好きになりかけている。



 俺は京極さんに相談した。

「俺は異性愛者です。ちょっと……男は、対象としてはマジで無理です」

「そ、そうか……ごめんね、気づかなくて」

「あれは、多分本人もまだはっきり自覚してないッス」

「どうしようか……嗜好自体は悪でもなんでもないけど……」

「あ、あの。それで、俺考えたんすけど」

「う、うん」


「俺、聡一に頑張って嫌われます」


「出来るのか……あんなに懐いているのに」

言いたいことは分かる。聡一は俺がフリスビーを投げれば拾ってきそうなくらい懐いていた。多分ガチで喜んで拾ってくる。

「ワカメ野郎ってよびます」

「小学生かな」

「で、ちょっと距離を取り虐めます。なんで、やりすぎてたら止めてください。絶対殴ったりはしないんで」

「うーん……確かにちょっと距離感がおかしいのはそうだし、これも事故防止の一環か……仲間外れとか無視はやめてあげてね」

「むしろ他の奴らと積極的に交流させて依存を分散させたいです」

「吾妻くんは人生二周目かな……?」





 こうして、俺は聡一を虐めた。

心が痛む事があっても、俺は受け入れてやれないので拒否と意地悪を貫いた。意外と実家系弄りは大丈夫なようだったり地雷は難しかったが、距離を取りながら探り探り意地悪を模索した。


 宗則が仲間になり、面倒を見ているうちに聡一は大分落ち着いた。

暴れん坊が兄ちゃん姉ちゃんになるとしっかりする、ああいう類のものかもしれない。もう無理矢理意地悪する必要もないかもしれない。

念の為宗則にも釘は差したが、婚約を断った際の話を聞くに大丈夫そうで胸を撫で下ろした。

 



 ある日、ミヤが給湯室で紅茶を淹れる練習をしていた。

いろいろあり仲良く?なった金剛寺(ダイヤ)はせっかちだから紅茶が美味くないといつもぶーたれていたが、俺がそれくらい自分でやれと言ったら練習するようになった。

「うまくいったか?」

「…………」

 意地悪をはじめてからミヤは聡一より迅速に俺を嫌ってくれた。ふいとそっぽを向かれる。

狙い通りではあるが面倒くせぇ……

飲み物の作り方は壁にメモで貼っておいた。紙面通りにつくりゃ同じ味になるんだがなぁ。

俺は自分の分と2杯分茶葉を測り紅茶を淹れ、1杯をミヤの前に置いた。


「ありがと……」


ミヤはカップを持つと走って逃げて行った。

あいつは良く分からない。



☆彡☆彡☆彡

2-4の事情。

Q.手遅れですか?

A.手遅れです。

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