訪問者②

 12年前。

 加室英明が自殺した翌朝、千穂の家に一本の電話がかかってきた。


 プルルルルル…。


 母は卵焼きを焼いていて手が離せなかったので、千穂が受話器をとった。


「はい、佐伯です」


「……」


「…もしもし? どちらさま?」


 ずっと無言だったのでいたずら電話かと思い、切ろうとしたそのとき、


「あなたたちのこと、絶対に許さないから!!」


 ガチャン!

 ツーツーツー……。



 ――何なの!?


 

 千穂は受話器を置いて、ため息をついた。

 ただのいたずら電話かと思っていたが、次にかかってきた電話で、それがいたずらではないことを思い知らされるのだった。


 数十分後、また電話が掛かってきた。今度は学校からだった。

 加室英明が学校内で自殺をしたという――。


 臨時休校のしらせだった。



 千穂は電話を切ったあと、部屋に引きこもった。


「あなたたちのこと、絶対に許さないから!!」


 その言葉が、頭から離れなかった。

 何度も何度も耳の奥でリフレインする。どんなに耳を塞いでも、大声を出しても、ずっと聞こえるのだ。


  

 ――きっと電話の相手は賀上だ…。



 そう思っても、確かめる勇気はなかった。


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