現場へ①

 週末、一平に美優を任せ、千穂は一人でG県を訪れていた。


 大輔の両親にアパートの住所を聞くわけにはいかなかったので、千穂はネットで大まかな住所を調べたあと、現地で直接聞き込みをおこない、大輔のアパートを特定することができた。

 近所の人の話によれば、千穂が訪れる前日に業者が来て荷物の運び出しが行われたという。



「あぁ、あのアル中の兄ちゃんね…。あの野郎、いっつも人んの塀に立ちションすんだよ!」


 アパートの前の一軒家に住むおじさんは、大輔のことを『迷惑なヤツだった』と吐き捨てた。


「あの子は自業自得よ。朝から晩まで酒ばっかり飲んで…。ビョーキよ、ビョーキ」


 おじさんの奥さんも、大輔の死は『自業自得』だと語る。


 話を聞けば聞くほど、うんざりする。大輔のあまりの落ちぶれっぷりに千穂は閉口した。

 


 ――どうしようもないヤツ……。


 

 よくよく考えれば千穂は、大輔のことをほとんど知らないのだ。

 中学2年で同じクラスになり、賀上と加室をいじめていた。

 自分たちの共通点と言えば、たったそれだけなのだ。

 


 千穂はアパートの住人からも話を聞こうとインターホンを押したが、応答してくれた住人はいなかった。

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