第5話 刀の誕生


 魔法の刃である、風魔法〈鎌威太刀(かまいたち)〉を習得できた僕は、意気揚々と魔物との実戦訓練に――、行けなかった。


「せいっ!」


 木刀を一振りすると、パァン!と破裂音を響かせながら、真空が破れ、〈鎌威太刀〉が解除されてしまった。


 この不安定さが理由だ。


 真空を集めて刃にしているからか、そもそも魔法の制御力が足りていないからなのか、〈鎌威太刀〉を維持できる時間はすこぶる短い。


 風魔法〈鎌威太刀〉なんて言って初めて成功したときも、すぐにパァン!した。


 こうなったら、斬る一瞬だけ、ピンポイントで魔法を使うしかない。


 それには魔法の発動速度が肝要だ。


 どのような体勢でも、どのような振り方でも、斬る一瞬に〈鎌威太刀〉を発動できるようにならなくてはならない。


 あまりにもパァン!パァン!うるさいので、訓練場所を町はずれに移して、ひたすらに練習を重ねた。


 そして今日、僕は初めて魔物と相対する。


「今日の相手はゴブリンだ。この辺りだと最弱の魔物だな」


 ゴブリンというのは、子供サイズの人型の魔物である。肌は森で保護色となる緑色をしており、いくら弱いといっても、油断はできない相手だ。


「エドの場合、パンパンうるさいから、頭の悪いゴブリンなら周囲から集まって来るかもしれん。その点も注意しろ」


「はい。分かりました」


 野生動物ならば、異常な音が響いてくる場所に近づいてこないだろうけど、ゴブリンは頭がとても悪い。あの音はなんだと、わらわら集まって来るかもしれない。


「まあ、あまり緊張しすぎるな。木剣で叩けば倒せる相手だ」


 教師のアドバイスを受けて、できるだけ自然体で森の中を進んでいく、そうしてしばらく、ついにゴブリンを発見した。運よく1匹だけ、川の傍で石をひっくり返している。


「いたな。やれるか?」


「はい。やります」


 この世界に転生して、家畜を締めたこともあるので、いまさら臆することもない。ゴブリンの命を奪い、僕の糧とする。


 身をかがめた状態から、一気にゴブリンへと走り寄る。気付かないようにだとか、奇襲しようだとかは考えない。


 初めての実戦でそんな難しいことができるはずがないと考えた。ただシンプルに行く。近寄って、木刀を振り下ろす。そして、斬る瞬間に魔法を使う。


 繰り返し繰り返し練習してきたように、ただシンプルにそうする。


 こちらに気付いたゴブリンは、僕の登場に驚き立ちすくんでいる。その肩口に向けて、僕は木刀を振り下ろした。


「ぜぇあ!!」


 渾身の力で振り下ろした木刀は、発動させた魔法の刃〈鎌威太刀〉の助けもあり、皮膚を切り裂きやすやすと鎖骨を砕いた。


 パァン!と魔法が解除され、鮮血が霧のように吹きだす。


「……」


 どうとゴブリンが倒れても、僕は欠片も動くことができなかった。


「よくやったな」


 そう教師が話しかけてきて初めて、僕は体の自由を取り戻した。息をするのも忘れていて、視界は白く霞んでいる。


「ぷはぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 息を吸い込んで、ようやく戦闘が終わったんだと実感できた。


 甘かった。実戦というのは、僕が考えるよりもよほど怖いものだった。一刀でゴブリンを倒せたからいいものの、そうでなければ、返り討ちにあっていただろう。


「最初は誰だってそんなもんだ。気絶しなかっただけましさ」


「はぁ、はぁ、ありがとうございます」


 がちがちに固まった手を木刀から離し、今の一撃を思い返す。練習通りにできたと思う。魔法も発動し、斬りつけることができた。


 刀がなかった世界に、今日、刀が産まれたんだ。

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