第2話 私は照れを知る

「おはよー」

教室に姫野が入ってくる。

近くの人に片っ端から挨拶をしている。

そしていつも最後に「おはよ。百合。」と言ってくる。

私はそれに「お、おはよ、ま…姫野さん。」と返しているのだった。

「また苗字―。」悔しそうにしているがテンションが高い。

どういう感情なのか分からない。

そして私はどうすればいいのか分からない。

顔はきっと真っ赤だろう。私は俯いて顔を隠した。

昼は優子と弁当を食べる。

姫野は食堂で食べるそうなのでこのときは優子と一緒なのだ。

安心する。でもなぜか後ろめたさがあった。

なぜだろうか。

一番変わったのは帰りだ。

優子とは週の前半一緒に帰って水曜から後半は姫野と帰るようになった。

決して姫野と自主的に帰りたいとかではない。

ただ断れないから…。

ここ数日の過ごし方だった。


×××

昼休み。

「なんか最近百合変わったね。」

「え、そうかな。」

「うん。表情が明るくなったかも。」

「そうかな。」

まじまじと私の顔を見るもんだから照れる。

「そうだよー。あ、わかった。転校生ちゃんでしょ。」

「え?」

ドキリとした。なぜなのかは分からない。別に驚く必要もないのに。

「噂には聞いてるよー。転校生ちゃんかなりのギャルだってねぇ。」

「ま、まー恰好はイケイケだね。」

「中身もギャルなんでしょ? しかもそれが隣とくれば百合もそのギャル転校生の明るさに感化されたのかも。」

「は、はは。そうかも。」

苦笑。結構当たってるから。

表情そんなに変わったんだろうか。

あれだ。恋すると世界が変わるっていう奴。

あれ系なんだきっと。私も恋しっちゃたから…。

もー何言ってんだろう。私。

私が一人で盛り上がっているなか、優子はつまんなそうに弁当のから揚げを食べた。

多分優子は感づいているのかも。



×××


金曜日の帰り道。

姫野が突然、映画のチケットを二枚出した。

「映画、行かない?」

「え、いつ?」

「今から。」

もう当然のように二人で帰っているのは突っ込まないで欲しい。そして私も映画に誘われての返答が『いつ』って…もう行く気まんまんじゃんこれ。

内心自問自答しつつ、好奇心が抑えられなかったのも事実だ。

映画自体そんなに見ないし、今からとなると帰りは深夜だ。

深夜の映画館ってどうなのか気になる。

親に確認をとって了承を得た。準備は抜かりない。


映画館は人が少なかった。

しかも恋愛映画と来たもんだ。それも洋画で結構ラブシーンががっつりある。

ううぅ。なんか気まずいよぅ。ちらりと横を見る。

すんごい真剣な目つき! 大人だ。

ギャルな姫野は既にこういうラブシーンは日常なんだ。なんてことないんだ。

すげぇ。


なんだかんだハッピーエンドで終わった。よかった。

深夜の映画館はスタッフも見当たらないし、近隣のお店が閉まっていた。

夜も暗くなっているし、普段と違う街の雰囲気が面白い。


映画の感想を言い合っていると自然と手をつないでいた。

いつの間に? 分からないけど繋いでいて照れや厭う気持ちはわかなかった。

楽しかった気分がそのまま通じ合っている感覚が嬉しくなってた。

「楽しかった。ありがとう誘ってくれて。」

「私もーーーー! いえいいえい。」

恋人つなぎみたいに手の間に手を入れて両手をにぎにぎされる。

姫野も楽しそうないい表情だった。


その帰り。

「濡れ場の場面やばくなかった。」

「え、うん。ヤバかった。」

「エロかったよねえ。」

「う、うん。気まずかった。へへ。」

「なんでよー。気にしなくてもいいのにー。でも確かにエロすぎだし気持ちは分かる。でもなぁあそこでエロいのいらないよねえ。私は萎え散らかしてた。ふふ。エロいのは認めるけど。」


なんか安心した。

大人の世界というか批評していたのか、あの顔は。


右手はまだ手をつないだままだった。恋人つなぎのままだ。

「たまにこういうことしようね。じゃあね、百合。」

そういって姫野は去っていた。


照れと放心状態でしばらく動けなかった。

なにいまの。かわいっ。




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