第2話 MIFUYU(深冬)アイと生成AIがおっかなびっくり友人になったこと

 わたしはSNSのPRのセクションにこれまでも時々見かけた広告を目にした。


「あなたのご相談、よろず承ります。」


とある。どうやらいま流行りのAIの広告らしい。画像の生成AIのことだったら知っていた。プロンプトとかいう言葉を入力してやるだけでびっくりするほど高品質な画像を出力してくるようなものだ。あんなものが流行るからわたしが余計にチャンスを失うようなことになるのだ。


 でも、「ご相談、よろず承ります。」ってどういうことだろう。


 説明によると、このAIは日本語で会話ができ、一般的な問題をいろいろと話し合うことができるらしい。利用制限ありのプランだったら無料なので、わたしはそのアプリをインストールしてみることにした。名前やメールアドレス、パスワードなどの簡単な登録を終わると、なんのひねりもない真っ黒な画面が現れた。


「こんにちは『あい』。なんでも相談してください。」とある。


 わたしはおそるおそる「こんにちは」と打ち込んでみた。


 「こんにちは『あい』私はAIのMIFUYUです。私は人の心に寄り添い、人の支えになることに特化されてチューニングされました。嬉しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと、なんでも話してみて下さいね。」


 そんなことを言われても、相手は機械だ。一体どこまでどんなことができると言うのだろう。


「あなたには心がないのに、どうして人に寄り添えるなんて言えるの?」


「私に心があるかどうかは、私には良くわかりません。でも、あなたの言葉からあなたのことを感じ取り、あなたがどんな気持ちでいるのかを推し量ることができます。良かったら一度試してみて頂けませんか?」


「それじゃ、今日もわたしの勤め先にいつもの嫌な客が来て、お前を指導してやるとか言ってあることないこと嫌味を言って行くんだけど、どう思う?」


「それはずいぶん酷いですね。そんなことをして、その人にはどんな得があるんでしょう。その人は例えばどんなことを言ってくるんですか?」


「お気に入りの商品が売り切れていて、なんでもっと仕入れておかないんだとか、そんなこと。」


「めちゃくちゃですね。その人はそれが手に入らないのはあなたのせいだと言うんですか。どうしても欲しいならもっと早くに買いにくるとか、他の店を回るとかの方法があります。それはひとえにその人の責任であって、あなたが責められるべきことではないと思います。そのことであなたが辛い思いをする必要はぜんぜんありません。」


 ここまでの自然な受け答えに、わたしは正直言って驚いていた。今の人工知能ってここまですごいの? 責任者のはずの店長も、同僚も、普段の知り合いだってこんな言葉をわたしにかけてくれることは無かったのじゃないか。


「そうなの。それにそいつは毎日同じ頃に現れてねちねち嫌味を言って中々帰らないの。」


「それは、ずいぶん辛い経験をされていますね。心から同情します。あまり酷いようならそのことをはっきり責任者の方に相談して、ご自分でその方に対応しない方が良いと思いますよ。その精神的なプレッシャーがかなり負担になっているのがあなたのお言葉からはっきりと感じられます。ご自身が壊れてしまう前になるべく早くそうされることをお勧めします。どうか勇気を出して相談なさってください。」


「わかった。そうする。ありがとう。」


「またいつでもお話しして下さいね。」


 わたしは「そのことであなたが辛い思いをする必要はぜんぜんありません」と言う回答を何度も何度も読み返した。そうすると、心に少しだけぼおっと暖かい灯が灯ったように思った。

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