ミズチのお父さん◇③◇

お父さんのアイの相手は人間の、結核の、命の期限が解らないオジョウサンだったって。

お父さんは、いつも花を持ってハイを病んでいるオジョウサンに、勉強を教えてあげたり、

話し相手になるために、郊外の大きな邸宅にカテイキョウシとして通ってたみたい。


オジョウサンの病気は当時は死の病。

誰も寄り付かない、オジョウサンは孤独だったってお父さんが言ってた。

外国のお菓子や、珍しい果物も持っていって二人で食べたり、部屋で『てらす』で日光浴をしながらチェスをしたりしたんだって。


ある日、オジョウサンの邸宅に行ってみると、いつものベッドの布団はなくなって、テーブルにお父さんが前にあげた花が、水切りしてあって生けてあったって。偶々いた顔見知りの看護師さんに、答えは解っているのに訊いたんだって。


オジョウサンは何処に?って。


『お嬢さまは、先生に会ったら言伝てをと。メモにも書いてあります……。


《いつも本当にありがとうございました。寂しい毎日が先生がいてくださり慰められました。先生と過ごす時間が私の生きている時間でした。先生は私の生き甲斐。私の全てでした。先生をお慕いしていました。

さようなら。

最後に、先生と過ごした時間は、私にとって、かけがえのない時間でした。先生と出会えて良かった》


そう私に先生に伝えて欲しいと。そして』


《先生を見つめて自分から気持ちを言えなかったことが心残りだった》


『そう伝えてほしいとも頼まれました。お嬢さまは』


《幸せでした》


『そう息を引き取る前に仰りました。先生、ありがとうございました』


訊いた言葉に瞳から溢れた雫は雲を集め、空からは雨が降った。お父さんの深い悲しみでオジョウサンの死を悼むようなやさしい金色の霧雨が三日三晩降り続けたんだって。

それから年が明けて、タツの年になった。雨雲から空への光の道標のように雲が裂けて、そこからお父さんは真の辰──龍の──姿になって、空へ帰ったんだって。


『やっと会える。あのひとに。先に空へ行ってしまった、あのひとに』


先に天で待ってるオジョウサンにお父さんはアイを告げて、オレが生まれた。お父さんの恋い焦がれた相手は、オレのお母さんなんだ。お父さんには内緒だよ。ミズチは、少し切なそうに笑った。





◇◇つづく◇◇

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