『ソウルギア・ショートストーリーズ 〜魂に宿る力〜』

多毛指

第1話  リフレイン・モーメント



《リフレイン・モーメント》


— 彼女の最後の言葉を、僕は何度も繰り返す。




・目覚め


朝、目を覚ます。


薄暗い天井が視界に映る。

カーテンの隙間から、朝日が細く射し込んでいる。


遠くで小鳥のさえずり。

隣の部屋から、母親がテレビをつける音。

台所では、コーヒーメーカーの低い振動音が響く。


時計の針は**「7時45分」** を指していた。


——知っている。

今日が「昨日」とまったく同じ日であることを。


僕は、何度も何度も、この朝を迎えている。

もう、何百回、いや何千回目かも分からない。


最初は気のせいかと思った。

夢の続きか、それとも単なるデジャヴなのか。


けれど、すぐに理解した。

これは**「時間が繰り返されている」** のだと。



・彼女と過ごした時間


僕には恋人がいた。

琴音(ことね)。


彼女は笑うと、目尻に小さな皺ができる。

背が小さく、コーヒーが苦手で、それなのにカフェ巡りが好きだった。

僕と並んで歩くとき、いつも袖を軽く引っ張ってくるのが癖だった。


——僕の世界のすべてだった。


でも、彼女はもういない。


彼女がいなくなった日を、僕は何度も繰り返している。


“リフレイン・モーメント”

——これが僕のソウルギア。


「時間を巻き戻す力」。

けれど、それは”運命を変える”ためのものではなかった。


ただ、何度でも**「その日」** を繰り返すだけの力だった。



・運命は変えられない


最初にこの力を自覚したとき、僕は震えた。


「やり直せる」

「もう一度、彼女を助けられる」


そう思った。


だから、何度も何度も繰り返した。

電車に間に合うように迎えに行った。

雨の日は傘を持たせた。

転ぶ前に手を引いた。


けれど、どんなに抗っても——

彼女の「最後」は変わらなかった。


僕は知ってしまった。


この力は、“過去を繰り返すだけ”。

未来を変えることは、できない。


彼女は、何度繰り返しても、最後にはいなくなる。

この世界の法則は、決して曲げられない。




・彼女の最期


事故だった。


駅のホーム、午後3時17分。

僕の隣にいた彼女が、線路へと落ちた。


時間にして、ほんの数秒の出来事だった。


何が起こったのか、最初は分からなかった。

彼女は僕の袖を掴んでいたはずだった。

それなのに、次の瞬間には、そこにいなかった。


人混みのざわめき。誰かの悲鳴。

電車のブレーキ音が響く。


彼女はもう、僕の手の届かない場所にいた。


——間に合わなかった。


この結末は、何度繰り返しても変わらなかった。

僕がどんなに注意しても、彼女はいつか”そこ”に行ってしまう。


それが、“彼女の運命”だった。



・彼女の最後の言葉


「ねえ、もし願いが叶うなら——」


何度も聞いた言葉。

彼女は、最後にそう言って僕を見つめた。


でも、僕はその続きを知らない。


なぜなら——

彼女がそう言った瞬間、“リフレイン”が発動し、僕はベッドで目を覚ますから。


彼女が何を願ったのか、僕は一度も聞いたことがない。

その言葉の続きを、僕は永遠に知ることができない。


「もし願いが叶うなら——」


その言葉だけが、何百回も僕の頭の中で繰り返される。



・ 選択


このループを終わらせることはできるのか?


“リフレイン・モーメント”が発動する条件は、まだ分からない。

でも、彼女の最後の言葉を聞いた瞬間、時間が巻き戻る。


それなら——

僕が、その言葉に「答え」を返したら?


もし、それが”リフレイン”を終わらせる方法だったら?


僕は何度目かの世界で、駅のホームに立っていた。

冷たい風が吹き抜ける。

彼女が目の前にいる。


「ねえ、もし願いが叶うなら——」


僕は、震える声で、ゆっくりと答えた。


「——僕は、君を幸せにしたかった。」



・終焉


次に目を覚ましたとき、世界は”リフレイン”を終えていた。


カレンダーは進み、時計の針は動いている。

テレビのニュースは違う内容を流していた。


そして、僕は知った。


彼女の願いはきっと——


「僕が前に進むこと」だったのだろう。


ソウルギア《リフレイン・モーメント》。

それは”時間を戻す力”ではなく、

「自分が前に進むための選択をする力」だった。


僕は今日も、彼女を想いながら生きる。

彼女と過ごした日々は、決して消えない。


ただ、もう”繰り返さない”だけだ——。


僕はカバンを背負い、玄関を開けた。

朝の冷たい風が頬を撫でる。

彼女がいない世界を、僕は生きていく。


その空の下の下で…





🌀 ソウルギア:《リフレイン・モーメント》

「何度でもやり直せる。ただし、やり直すたびに”何か”が削られる」


《リフレイン・モーメント》は、過去の一瞬を繰り返し、やり直すことができるソウルギア。発動すれば能力者自身の意識は過去に戻り、同じ状況を何度でもやり直すことが可能。そのため、間違った選択を修正し、最適な未来を選び取ることができる。しかし”繰り返し続ける”ことには、重大なリスクが伴う。


能力者の意識は過去へと遡り、その瞬間を何度でもやり直せる。やり直しの範囲は、最大で数分間まで。発動前後の記憶は保持される。“最適な結果”を得るまで、無限にループ可能。しかしループの回数を重ねるほど、現実が微妙にズレていく。会話の内容がわずかに違ったり、人の反応が変わったりする。最初は些細な違いでも、繰り返すほどにそれは積み重なり、元々の流れとは異なる”歪んだ未来”が生まれる。


ループを繰り返せば繰り返すほど、能力者自身の”存在の痕跡”が削られていく。他者の記憶の中から自分の存在が少しずつ薄れ、最終的には誰にも認識されなくなる可能性がある。一度確定した未来には戻れない。何度もやり直した結果として選んだ未来で後悔しても、それをやり直すことはできない。あくまでやり直せるのは”今”だけ。極端に長時間のリフレインは不可能で、“数分間”が限界。


ループ回数が一定を超えると、能力者自身の”記憶の混濁”が起こり、元々の目的を見失うことがある。最適な未来を選ぼうとして繰り返しすぎた結果、何が本当に正しい選択なのか分からなくなる。


戦闘においては、相手の攻撃パターンを完全に記憶し、最適な回避行動を取ることができる。何度も戦闘を繰り返し、敵の弱点を見極めて倒す。致命傷を負った場合、その瞬間に巻き戻して生存ルートを探る。交渉や会話の場面では、失敗した選択肢を修正し、相手の心を動かす最善の言葉を選び直せる。だが”運命を思い通りに書き換えようとするほど、自分自身の存在が薄れていく”というリスクを常に抱える。


もし、何度でもやり直せたら——。人は誰しも、後悔する瞬間を経験する。“あの時、別の選択をしていたら”と願うことは多い。しかし、何度でもやり直せるからこそ、最適な選択をすることができる……だが、その”最適”は本当に”正しい未来”なのだろうか。何度も繰り返した先に待つものは、果たして”幸福な未来”なのか、それとも”自分が消えてしまう運命”なのか。


霧島 悠(きりしま ゆう)。冷静沈着だが、“最適解を求める”強迫観念に囚われている。過去のある一瞬をやり直したいという願いが、このソウルギアを発現させた。何度でもやり直せるが故に、どれが”本当に選ぶべき未来”なのか分からなくなっていく。“運命は変えられる”——それは本当なのか、それともただの幻想なのか…

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