人生に飽きていた俺を拾ったのは快楽主義の厄介財閥令嬢だった……
天宮終夜
Prologue
桜舞い散る春。
昼食後最初の授業中。
誰もが目を擦りながら授業を受ける中、俺は一人屋上で惰眠を貪る。
この学園の高等部に編入してから一年。
どうやら教師陣は特例で進級した問題児の教育や説得を諦めたらしい。
そのお陰で春の陽気の下という絶好の昼寝タイムを邪魔する者はいな――。
「やあやあ副会長。こんなところで何をしているのかな?」
そういえば一人いたな。
この至福の時間を土足で踏み荒らす暴君様が。
「生徒の見本となるべき汐見生徒会長様がまさかサボりとはな。この学園の品格も知れると言うもんだ」
この人以外で俺を『副会長』と呼ぶ人がいないので目を開けなくても声をかけてきた相手がわかる。
天草学園生徒会長――
表向きは品行補正の優等生。
しかし、その実――。
「誰のおかげで進級できたと思っているんだい?」
学園内だけでなく世界的有名な汐見財閥の一人娘。
日本有数のこの学園に対して圧力をかけられるのは彼女の家ぐらいだろう。
「別に俺が頼んだわけではない」
「生意気な子に育って」
「俺は元からこういう性だ。それにお前と出会ったのは数ヶ月前だろ」
右耳のピアスに始まり、遅刻の常習犯。
挙句の果てには授業をサボり続けていた。
それらを理由に退学を余儀なくされていたところに現れたのがこの女だった。
「というか、何で目を開けないの?」
「お前が俺の上にいるからだ」
武道家ではないが目を閉じていてもある程度周りのことは把握できる。
この女はあろうことに寝転んでいる俺の頭の上で仁王立ちしているのだ。
「君なら見ても構わないからそうしているんだよ」
甘い誘いに一切興味が唆られない。
むしろより一層警戒心が増す。
「事実が見せられたとしても。お前が見られたと虚言を吐けば三分クッキングもびっくりの速度で冤罪の出来上がりだ。そんな毒入りの据え膳にかぶりつく世の男共の気が知れない」
美しい薔薇には棘がある。
うまい話には裏がある。
耳タコになっているそんな言葉を忘れるほどバカではない。
「そういう君だから傍に置いたんだよ」
この女の本性はただの狂人だ。
見た目で言い寄ってきた男を社会的に陥れ。
家柄で擦り寄ってきた者たちに興味を示さず。
俺のように自分に興味がない相手のみを好む傾向にある。
遠ざければ遠ざけるほどわざと近寄ることで相手をイラつかせて愉しむサディストか。
はたまた邪険に扱われて興奮するマゾヒストか。
生徒会に無理矢理入れられて数ヶ月行動を共にしても判断がつかない。
「事務仕事は終わってますので寝かせてください」
進級してから授業をサボる理由の大半はこの人が投げつけてくる無理難題によるものだ。
昼休みのうちに終わると思っていた書類の山は昨日の倍ぐらいに増えており、しかも面倒なものが多い。
脳みそをフル回転して業務に集中したせいで睡魔が襲ってきたというわけだ。
「だからご褒美としてスカートの中を見せて上げてるんでしょ?」
「無知なお前に教えてやる。ご褒美というのはリスクなしで与えるものだ。ハイリスクハイリターンのギャンカス羞恥プレイは他所で楽しんでくれ」
本当にこのタイミングで寝落ちしたら何をされるかわかったものじゃない。
話しているだけで神経を削るこの人は何かしらの悪魔か悪霊の類だろう。
「聞き捨てならないな。まるで私が痴女みたいじゃないか」
「みたい、じゃなくて実際そうなんだよ。何処の世界に後輩の頭上で股を開くバカ女がいるんだよ」
「せめて、見た目よし! 器量良し! の優良物件を頭に付けてくれない?」
「指摘するところは他にもあるだろうが」
あーダメだ、絶対眠れない。
てか、寝かせてくれない。
身体に当たらないように細心の注意を払いながら渋々起き上がる。
「結局何の用事だ?」
あまりにもしつこいのでわざとらしくため息を吐いてから見上げ…………何故この女はご満悦な表情を浮かべているんだ?
「勝った」
紫に近い青みを帯びた黒髪。
普段他人に見せることがないほどに青い瞳を細めて口角を上げている。
「あーはいはい。それで?」
「君ねえ。もう少し歳上のお姉さんを会話で楽しませる工夫をしたらどうなんだい?」
「罵倒は苦手なんだよ……」
「いやさ。誰もS◯ブレイを要求してないよ?」
「はぁ……貞淑になれとは言わないがせめて恥じらいはもってくれ」
元々やることもなく勝手に終了していた俺の人生を拾い上げたのが悪魔も裸足で逃げ出す厄介女子。
はてさて何処で人生を間違えたのやら……。
不毛なので考えるのをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます