私人裁判

ねむる

プロローグ 悪夢の始まり

 つけっぱなしのテレビから、無機質なニュースキャスターの声が流れる。

 画面には、冷たい川の水面と、風に揺れる枯れ草が映っていた。


『先日、都内の河川敷で女子高校生の遺体が発見されました。被害者は、私人逮捕系動画配信者によって闇バイトの現場を記録され、その映像が投稿されていた模様です。警察は、映像との関連についても、調査を進めています』


 ニュースを背に、部屋の中ではキーボードの打鍵音が静かに響く。

 住人は手を止め、パソコンの画面に目を凝らした。

 暗い部屋を照らすモニターには、ダークウェブの一画が表示されている。

 画面の中心の『間もなく私人裁判を開廷する』という文字が、退屈を持て余していた住人の好奇心を刺激した。

 背後で刻まれるカウントダウンの数字が、じわじわと減っていく。

 残り時間が少なくなるにつれ、住人の期待も高まる。

 ゼロの瞬間、画面が暗転し、心臓が跳ね上がった。

 次に映し出されたのは、赤いパーカーのフードを深く被った人物だった。

 顔は不気味な馬の仮面に隠れ、光る目だけがこちらを覗いている。

 椅子に座るその人物は、黒いズボンを履いた足をゆっくりと組む。

 黒い皮手袋をはめた指先が絡み合い、場を支配する者の静かな威圧感があった。

 薄暗い照明の中、低い声が仮面の奥から響く。


『やあ、諸君。初めまして。私は裁判官のベアルだ』


 不自然に変調された声は、画面越しに空気を一変させた。

 誰もが息を呑み、目を離せない。

 ベアルはまっすぐ視聴者を見つめる。

 見ている者たちに、緊張と興奮が走った。

 その瞳が伝えるのは、宣告にも似た重み。


『今から私人裁判刑を開廷する』


 誰もがまだ知らなかった。

 これが、終わりの始まりであることを――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る