第33話「闇を裂く者、光を繋ぐ者」

「あぁっ! ご、御主人様ぁ!」

 そうしている間に最後の吸血鬼の断末魔がジャスティンの耳に届く。

 視線を向けると、彼女もまた他の吸血鬼同様に経矢の炎によって焼かれていく。

 焼かれながらも、彼女たちの口が“御主人様”と呼ぶたび、経矢の胸に鈍い痛みが走っていた。


「クソクソクソがぁっ! ぶっ殺してやる!」

 完全に頭に血が上っているジャスティンは、杖に黒い光を溜めて魔法を放とうとする……が、彼の視界が眩い光に覆われた。

「うあっ!? な、なんだってんだ!?」

 灯明弾で位置を把握したイリーナが、彼の目の前で炸裂するように放った閃光弾だった。

 至近距離で強い光を浴びせられたことで、ジャスティンは目をやられ、うろたえている。



「キョウヤ! お願いっ! アイツに止めを!」

 イリーナが叫ぶと、吸血鬼を全て始末し終えた経矢は目を覆って苦しそうにしているジャスティンに目を向ける。

「任せろ! ジャスティン、お前は絶対に許しちゃおけないっ!」

 経矢は彼に向け跳躍し、一気に距離を詰める。

「ち、ちくしょう! こんなはずねぇ……こんなはずがねぇ!」

 ジャスティンの視界はまだ完全には回復していないものの、背中からコウモリの翼を生やしてその場から飛び去ろうとする。


(間に合うか!?)

 経矢が飛んで逃げようとするジャスティンの背に銃を向けた。

「はっ! ここはお前らの勝ちってことにしてやるぜクソガキ! こいつらの相手でもしてなぁっ!」

 ジャスティンは視界が戻らないまでも、手にした杖で召喚魔法を唱えてスケルトンなどを呼び出そうと企む……が。


「させない!」

 イリーナが叫ぶ。その声と共に、彼女の放った銃弾がジャスティンの杖を弾き飛ばした。

「ふ、ふざけんなっ! 俺は死なねぇ! 俺は絶対にこんなところで死なねぇんだよ!」

 銃弾を受けた反動で、体勢を崩して落下しかけながらも再び空へと逃げようとするジャスティンだったが、今度はその体を何かに拘束される。

 少し戻った彼の視界が捉えたのは、イリーナの投げた縄だった。


 地上で縄を引くイリーナと目が合い、血管が破裂しそうなほどの剣幕でジャスティンは叫んだ。

「クソメスガキがぁっ!! くだらねぇ小細工ばっかしやがって!」

 それはもはや狂気と余裕が同居していた頃の、以前の彼のものではなかった。

 怒りに我を忘れ、逃れようとがむしゃらに暴れる。


「無駄だよ! もうあんたは何もできないっ!」

 その言葉と共に縄を引いたイリーナ。

 怖くないわけじゃない。

 震える指先を握りしめ、一気に縄を引く。

(絶対に——逃がさない!)


 引っ張られたジャスティンの視界に飛び込んできたのは、強い怒りと決意をその目に宿した経矢だった。

 500年前の目はもっと、猛獣のような鋭い目だった。

 しかし、今の彼にはあの時とはまた違う強い何かが宿っているのをジャスティンは感じ取った。


「うおおおおおおおっ!! 燃え尽きやがれっ!!」

「ぐああああああっ!!」

 ジャスティンの絶叫は、怒号というより悲鳴に近かった。

 その声の奥にあるのは、恐怖か、それとも……絶望か……。


 経矢の手にしたハンドガンから火炎弾が放たれると上空で大きな炎が上がり、ジャスティンの体を焦がしていく。

「はぁ……、はぁ……」

 経矢の放った炎はジャスティンを焼き尽くし、その肉体は黒焦げになって地面に落ちた。

 炎が鎮まり、夜風が焦げた匂いを運ぶ。

 だが経矢の胸に燃える炎だけは、まだ消えていなかった——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る