第28話「闇を灯す光明」

「っ……! 放出ッ——!」

 経矢はイリーナを抱えると、上空へと退避する。

 吸血鬼たちに四方を囲まれている状態では、さすがにあちら側に有利すぎる。

 一度距離を取って、背後を取られにくくしようと考えたのだ。


「ちっ! ちょこまかと動くのね!」

 だが吸血鬼たちは宙へ飛んだ2人に向けて、コウモリの大群を放って攻撃する。

 中には、自らがコウモリの大群へと姿を変え突撃してくる者もいた。

 1人1人の身体能力が高いものの、彼女たちは自らの欲望に任せつつも、考えて行動しているように見える。

 先ほどのジャスティンの命令に従っていた従徒の女性とは明らかに違う動きだ。


 経矢はコウモリたちを跳んだまま避けようとするがイリーナが銃を構えた。

「今、弾丸を入れ替えたよ! あの時みたいにあいつら麻痺させるね!」

「よし、任せる!」

 イリーナは迫りくるコウモリの大群に向けて、麻痺弾を発射する。

 迫って来るコウモリの群れ、そして地上にいるジャスティン、そして隣にいる女性吸血鬼2人を正確に撃ち抜く。


 体の奥に麻痺毒入りの弾丸が撃ち込まれ、すぐにでも体への痺れ効果が発生するはずだった。

 ……だが、彼女たちは麻痺弾を受け、少しの間動きを停めたものの、すぐに2人に襲い掛かる。

 ジャスティンに至ってはまるで効いていないようだ。

「嘘っ!? もっと持続性があるはずなのに……!」

 驚愕するイリーナを抱えた経矢は、囲まれないようにジャスティンたちと距離を取った位置に着地する。



 距離を離したため、夜の闇では相手の位置を視認しにくい。

 そこで経矢はフゥ~と一息吐いて意識を集中させる。

 吸血鬼たちの立てる音、呼吸音、血の匂い、闇に浮かぶ赤い瞳……。

(……見える……感じる……)

 経矢は、吸血鬼たちの位置を把握していく。


 一方のイリーナは、経矢のような優れた探知能力を持っているわけではないため、彼のように正確に敵の位置を把握することはできない。

 周囲の音から情報を収集することはできるが、敵の位置を特定することは困難だった。

「イリーナ、敵の位置はだいたいわかったけど、やっぱりこの暗さじゃこっちが圧倒的に不利だ。何か明るくできる方法があればいいんだけど……」

 経矢の言葉に、イリーナは弾を入れ替えながらうなずく。

「うん、そう言うと思った。任せて! 灯明とうみょうの魔法を銃弾に込めて、近くの木とか岩に明かりを点けるね!」

 そう言ってイリーナは、10メートルほど離れた複数の場所に5発の銃弾を撃ち込んだ。

 それぞれ当たった場所は、同時にフワッとその周囲数メートルが明るくなる。


「ありがとう。これならもっと相手の位置がわかって戦いやすい。明かりが途切れないように、後方から援護を頼む!」

「了解!」

 イリーナは力強く答えると、光を避けるように接近してくる吸血鬼たちの動きを目で追う。

(光で照らせば……キョウヤなら必ず仕留めてくれる!)

 コウモリの鳴き声や、吸血鬼たちの唸り声が少しずつ迫って来る。


 経矢に、彼らに対しての有効な攻撃について尋ねるイリーナ。

「あのさキョウヤ、ルーベンたちに追われてた時は麻痺弾が効いたのに、さっきは効かなかった……。夜だとほぼ不死身ってことだよね。あたしはどうやって攻撃したらいいかな?」

 イリーナは吸血鬼について、うわさ話や吸血鬼が登場する本、経矢から聞いた話程度の知識しかなく、日光と聖属性の攻撃に弱いということしか知らないのだ。


 経矢の方はというと、前世時代から幾度となく吸血鬼と戦って来た。

 しかし、ジャスティンの回復の速度は異常だった。

 いくら彼らを天敵である太陽が沈む夜とはいえ、あれほどの再生力を持つ吸血鬼など見たことも聞いたこともなかったのだ。



「聖属性の攻撃手段がこちらに無い以上、他に何が効くかわからない。普通の吸血鬼なら再生力を超えるほどダメージを与えればいいんだけど、さっきのあいつを見る限りそれも難しそうだな……」

 経矢はイリーナの問いに、自問するように答える。

 通常の武器の攻撃であっても全く効かないわけではなく、普通の吸血鬼であれば攻撃し続ければ絶命させることは可能だ。

 しかし、ジャスティンのような再生力を持つ吸血鬼には、それすら難しいかもしれない。


 だが、と経矢は思う。

 ジャスティンが呼び出した女性吸血鬼たちは、彼と同じくらいの再生力や不死性を誇るのだろうか、と。

 先ほどのイリーナの麻痺弾は、本来より効果は落ちたものの、女性吸血鬼たちにはきちんと麻痺の効果が発揮されていた。

 一方のジャスティンの方は、全く効いていないような様子だった。


「少しだけでも麻痺が効いたから、他の状態異常もちょっとは効くかもしれないよね……少なくともあの女の吸血鬼たちには」

 どうやらイリーナも同じ考えにいたっているようだ。

 経矢は今から伝えようとしていたことを、すでにイリーナが考えていたことに感心しつつ、迫る敵を迎え撃つ心の準備をするのだった。

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